助手席
四年くらい前、友達と悪ふざけで心霊スポットに行ったときの話するわ。大学の夏休みで、暇で暇で仕方がなかったんだよ。
ネットとかには乗ってなかったけど、地元民の間で昔から変なうわさが絶えない場所でさ。工事が中止になったトンネルなんだけど、そこに小さい女の子が出るらしくてさ。
開通すらしなかったトンネルに小さい女の子って、いくら何でもテキトー過ぎるだろ。もっと設定ひねれやって友達と話しながら車三台で行った。
そしたら案の定ふっつーのトンネルでしかないわけ。まあ、夜だし山奥だし、不気味っちゃ不気味なんだけど、それだけ。友達の一人はネットに載せる動画まで撮ってたけど、特に怪現象なんて起きないし、ただ虫がうるさいだけ。
それでもう帰ろうかって思ったとき、いきなり後ろから誰かにライト当てられたんだよ。で、振り返ってみたら何故か俺の車のライトがひとりでに点いてた。
誰か乗ってるんじゃないかと思ったけど、誰も乗ってなかった。てか、逆に乗ってたら怖いわw
点いたのは俺の車のライトだけで、三十秒くらいで消えたと思う。カメラ回してた友達はガチで興奮してたけど、それ以降はとくに何も起こらず。なんだつまんねーって結局そのまま家に帰ることになった。
まあ、三台あるうち俺のだけが点いたのはなんか嫌だったし、気味悪いなとは思ったが。
家に着いたのは夜の十一時頃だったかな。庭の駐車スペースに車停めてたら、ちょうど飲み会行ってた親父も帰って来たんだよ。でもなんか様子がおかしいんだよな。妙な顔付きでこっちをじっと見てんの。
俺はなんだろうと思って、車から降りて親父の方に歩いてった。そしたら親父がわけわからんこと言ってきた。
親父「あの子は降ろしてやらないのか?」
あの子って誰だよwさては親父酔ってやがんなって思った。思ったっていうか、言い聞かすって言った方が正確かも。
俺「は? 何を降ろすって?」
親父「だから、ほら、助手席の……」
俺「……助手席?」
このあたりから物凄く嫌な予感がして、恐る恐る車の方振り返った。でも、助手席には誰もいない。少なくとも俺には何も見えない。
俺「いやいや、親父酔ってんだろ。あんまりふざけんなよ」
親父「いや、お前こそふざけんなよ! 誰なんだ助手席の女の子!」
俺「……嘘だよね? そんなもんいないって」
親父「いるじゃんほら! さっきからずっと助手席で頭振ってるんだよ」
俺もうパニックだよ。親父曰く五歳くらいの幼女が助手席で髪の毛振り乱して頭ガクガクさせてたらしい。
とてもいたずらで言ってるようには見えなかったし、今日の行き先だって家族の誰にも教えてないんだよ。もうこれ完全にトンネルで拾ってきてんじゃん。例の女の子。っていうかなんで俺じゃなくて親父にだけ見えてんだよ。ある意味それが一番怖いわ。
その日はとりあえず塩撒きまくって家に入った。人生の中であんなに塩を尊いと感じたことはない。
で、次の日親父と車見てみんたんだけど、もう助手席には誰もいなくなってたらしい。まじでどこ行ったし。
いなくなってたとはいえさすがに怖すぎるから、その後坊さんに頼んで車ごとお祓いしてもらったわ。
一旦ここで完結しますが、夏のホラー企画が終わり次第また連載を再開する予定です。