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私の推しは悪役令嬢。  作者: いのり。
第二章 学院騎士団編
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21.実技試験~セインvsユー~

「実技試験は一対一の模擬戦を行って貰う」


 ローレック団長がそう言うと、集まった筆記試験合格者たちの間に動揺が走った。

 中には先日のスライム騒ぎを思い出している者もいるだろう。

 模擬戦とはいえ、実際に戦闘するというのは多かれ少なかれ勇気がいるものだ。


「勝敗は問題ではない。学院騎士団でやっていけるだけの実力が確かめられれば合格となる。逆に、勝ったとしてもそれだけで合格になる訳ではないということを肝に銘じておいて欲しい」


 私は詳しくないが、プロボクサーのライセンス試験がそんな感じらしい。

 実力があると認められれば敗者にもライセンスが発行されるし、逆に一撃で相手をKOしたとしても偶然だと見なされれば落とされてしまう。


「希望がなければ、組み合わせは入学直後の魔法の試験を参考にこちらで決めさせて貰うが、戦いたい相手はいるかね?」


 お互いに目を見合わせる受験者たち。

 そうそう戦いたい相手がいるはずもないのだが――。


「はい。わたくしはレイ=テイラーと戦わせ頂きたいですわ」


 こう言っちゃうのがクレア様のクレア様たるゆえんである。


「いいのですか、クレア様。相手は魔法試験で学院史上に残る成績を残した相手ですよ?」

「構いませんわ」

「分かりました。レイ、異存はあるか?」

「ありません」


 ある訳がない。

 むしろ、こうなることが分かっていたから、さっきからワクワクして落ち着かないくらいだ。


「他には?」

「じゃあ、オレはミシャとやらせて貰う。ホントはレイとやりたかったが、クレアのあの入れ込みようじゃなあ」


 ロッド様の魔法試験での成績は九位である。

 二位のミシャに挑むのはなかなかにチャレンジングに見えるかもしれないが、まあそれは試合を見てのお楽しみということで。


「なら、僕はセイン兄さんにお願いしようかな。いい?」

「……構わん」


 ユー様はロッド様とおなじく九位。

 セイン様は八位だから、これはなかなかに白熱しそうである。


 結局、組み合わせはどうなったかというと――。


 ・組み合わせ――――――――――――――――――

  ・

  ・

  ・

  第八試合:セイン=バウアー対ユー=バウアー

  第九試合:ロッド=バウアー対ミシャ=ユール

  第十試合:クレア=フランソワ対レイ=テイラー

  ―――――――――――――――――――――――


 という感じである。


 ちなみに、魔法での模擬戦は、そのまま行ってしまうと危険過ぎるため、運動場には特殊な結界が張られている。

 これは魔法によるダメージを減衰する高価な魔道具を使ったものだ。

 おもに戦争において自陣を防衛するのに使われる。

 非常にレアなもので、これを使える術者も非常に少ない。


「それでは第一試合を始める。対戦者前へ」


◆◇◆◇◆


 模擬戦は粛々と進んだ。

 やはり平民の参加者が少ないのか、模擬戦は魔法の扱いに長じていない貴族の参加者が多いようだった。

 貴族は中等部以前に魔法の講義を受けているので扱いには慣れてはいるものの、いかんせん先天的な適性はどうしようもない。

 見応えのある試合はこれといってなかった。


 ちなみに魔道具は今回魔法杖のみが使用可能となっている。

 これを自由にしてしまうと、家の財力がものを言うことになってしまうからだ。

 

 そして、いよいよセイン様とユー様の試合の番になった。


「両者、準備はよろしいですか?」

「……ああ」

「いいよ」

「それでは、用意……始め!」


 開始の合図とともにセイン様が踏み込んだ。

 間合いを詰めると同時に拳を放つ。

 ユー様は氷の盾を形成して、それを防ごうとした。

 しかし――。


「!?」


 氷の盾は粉々に砕けちった。

 いつも優雅さを絶やさないユー様の顔に動揺が走る。


 セイン様の戦闘スタイルは風属性の補助魔法を駆使した接近戦――いわゆる魔法戦士スタイルである。

 武器は今回持っていないものの、素手でもこれだけの威力が出る。

 セイン様の魔法適性は風の高適性だ。

 以前説明した通り、風属性は補助魔法に使うことが多い。

 高適性ともなれば、ブーストの度合いもかなりのものだ。


 対してユー様の戦闘スタイルは水属性の攻撃魔法を駆使した遠距離戦――通称、氷の王子様である。

 適性こそ中適性だが、彼の氷魔法の技術はなかなかのもので、その防壁は相手がセイン様でなければ拳で砕かれるようなことはなかっただろう。

 水属性の適性ということで、回復魔法も併用する。


「……」


 無表情でさらに一歩間合いを詰め、魔力を込めた蹴りを放つセイン様。

 接近戦では分が悪いと悟ったユー様は距離を取りたいところだが、魔法でブーストされた身体能力を誇るセイン様を引き剥がすのは至難の業である。

 蹴りを躱すのが無理と判断したユー様は、とっさに氷ではなく水の防壁を生成した。


「!」


 氷の防壁のような頑強さはないものの、水の防壁はセイン様の蹴りを柔らかくいなした。

 さながら、ウォータースライムの身体のようである。

 受け流されて身体が流れたセイン様を見て取って、ユー様は後ろに下がった。

 距離を取りつつ地面を凍らせることで、セイン様の接近を困難にもしている。


「ふぅ……。せっかちだなあ、セイン兄さんは。さて、そろそろ反撃させて貰うよ」

「……」


 ユー様が手を掲げると、空中に鋭い氷の矢が何本も現れた。


「さあ、行くんだ」


 声とともにセイン様に襲いかかる氷矢。

 セイン様はそれには構わず、再び無造作に距離を詰めた。


「セイン様!」


 危ないと思ったのか、観戦していたクレア様が思わずといった風に声を出した。

 うんうん、恋する乙女だね。

 しかし――。


「!?」


 氷矢は突進するセイン様を迂回するようにそれて後方に飛んでいった。

 セイン様は風の防壁を身体の周りに張り巡らせていたのだ。


「でも、その足場では!」


 クレア様が危惧するのも分かる。

 でも、セイン様は凍った地面を確かな足取りで走り抜けている。

 実はセイン様、空気を固めて足場にしているのである。

 再び、二人の距離が詰まる。


「くっ!」


 ユー様の顔が危機感に強ばった……のは一瞬だけ。


「なんてね」


 ユー様まであと一歩と迫った時、セイン様の足下の氷が鋭い切っ先となって垂直に突き上がった。

 動的で宙に浮いていた氷矢ならともかく、地面に根を生やしたこれは風の防壁でいなすのは無理である。


「……ふん」


 セイン様がとった対処法は、なんと無造作に氷刃を蹴り砕くというものだった。

 さらにそのまま氷の破片を目くらましとして、ユー様の視界を奪う。


「……!?」


 破片が視界からなくなった時、ユー様の視界のどこにもセイン様の姿はなかった。


「……こっちだ」


 セイン様の姿はなんとユー様の真上にあった。

 空気を踏み台にすることができ、身体能力を向上させたセイン様だからこそ出来る三次元殺法である。

 セイン様はそのままユー様の背後に降り立つと、背後からその首に手刀を添えた。


「参った」

「それまで! 勝者、セイン様!」


 それまでの数試合とは次元の違う高度な内容に、ギャラリーから歓声が上がった。

 クレア様に至っては、頬を紅潮させて完全にできあがっている。


「強いね、セイン兄さん」

「……お前だってまだ本気じゃないだろう。回復魔法も温存していることだしな」


 などと、言い合う王子二人は、さすが攻略対象と言うべきか、とてもかっこよかった。

 この模擬戦はセイン様の貴重な見せ場でもある。

 ここでセイン様攻略を決めて、あとから後悔したという嘆きは非常に多い。

 や、セイン様はいいところいっぱいあるんだよ?


 この試合内容なら二人とも合格だろう。

 それくらい、これまでの試合とは次元が違った。

 まあ、私は最初から結果を知っていた訳だけど。


 でも、やっぱり実践で人が動きながら魔法を使っているのを見ると、ひと味違うね。

 ファンタジー世界万歳、である。

お読み下さってありがとうございます。

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