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私の推しは悪役令嬢。  作者: いのり。
第二章 学院騎士団編
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19.学院騎士団

第二章「学院騎士団編」をお届けします。

本章もよろしくお願いします。

 騎士団という言葉に、どのような印象をお持ちだろうか。

 フルプレートの甲冑に身を包んだ、屈強な紳士たちを思い浮かべる方は多いだろう。

 もちろん、この「Revolution」の世界にもそのような存在はいる。

 ただし、現時点よりも少し前の話ではあるが。


 王国直属の戦士たちは騎士団ではなく軍と呼ばれる。

 軍は主に治安維持と国防を担っていて、今は関係の悪化している隣国ナー帝国との紛争などに駆り出されている。

 その装備は一般にフルプレートの甲冑ではなく、機動性を重視した皮や布製のものが圧倒的多数だ。

 これは、魔道具の発達により重たい防具の必要性が低下したことが大きい。

 攻撃にも防御にも、魔道具が用いられることが多くなってきたからだ。


 もちろん、フルプレートかつ魔道具というものも存在してはいる。

 ただ、そういったものは非常に高価なので、その身にまとえる者はごく少数だった。


 閑話休題。


 なぜ騎士団の話をしたかというと――。


「という訳で、今年も希望者には学院騎士団への選抜試験を行うものとする」


 土曜日の学院の講義室。

 生徒たちの前でそう言ったのは、現学院騎士団長であるローレック=クグレット様だ。

 セカンドネームでおやと思った方ももしかしたらいるかもしれないが、クグレットというのはクレア様の取り巻きの一人のご実家である。

 クグレット家は武門の家系で、軍の要職を占めている名家の一つだ。

 王国内でいち早く魔法の重要性に気づき、トレッド先生から教えを請うことで魔法導入後も勢力を維持した家でもある。

 取り巻きさんはロレッタ様というのだが、彼女についてはあまり私もよく知らない。

 ただ、兄のローレック様は竹を割ったようなからっとした性格のシブメンである。


 ローレック様の言う学院騎士団とは、王立学院内の自治組織である。

 学院生の中から選抜された数名の生徒で構成されるそれは、上位の生徒ならば教師に匹敵する権限を持つ。

 伝統的に王族が所属することが多く、エリート意識の高い内部編入組が憧れる、いわば生徒会と風紀委員を足して二で割らなかったようなものである。

 もちろん学院騎士団の名の通り、有事の際には戦闘にも参加するので、ただの名誉職というわけではない。


「オレは当然、受けるぞ」


 ロッド様が真っ先に名乗り出た。

 まあ、こういう学院の上部組織と聞けば、ロッド様はチャレンジするよね。


「僕も受けます」


 ユー様も名乗り出た。

 王子様然としたユー様だが、戦闘能力は決して低くない。

 魔法の扱いは普通だが、彼には幼い頃から仕込まれた護身術がある。


「セイン、お前もだぞ」

「……面倒くさいな、正直」 


 ロッド様に尻を叩かれて、セイン様もいやいや手を上げる。

 彼の性格上、こう言った団体などに参加したくはないだろうけど、王子が参加しないのでは格好がつかない。


「王子様方の参加はありがたいです。ぜひ、試験を頑張って下さい。他にはいるか?」

「わたくしも挑戦しますわ」


 手を上げたのはクレア様だった。


「クレア様……。しかし、ご婦人には少々荷が重いのでは?」

「そんなことはありませんわ。確かに筋力などでは男性に及びませんけれど、魔法の扱いや日常の事務能力を考えれば、私にも受ける資格が十分にあるはずです」


 正論を述べるクレア様は、堂々としていた。

 ローレック学院騎士団長は少し逡巡していたようだが、そこは長を務めるほどの方、すぐにいいでしょう、と快諾した。


「なら私も」


 私も立候補した。

 クレア様が行くならもちろん私だって行くよ。

 愛ゆえに。

 ちなみにゲームでは、選択肢の選び方によっては試験を受けないことも可能だった。

 私が手を上げると、クレア様が露骨に嫌そうな顔をした。


「あなたには無理ですわよ」

「あれ? 入学直後の試験で礼法以外私に負けたクレア様がそれ言っちゃいます?」

「キーッ! 次の試験は負けないから、見ておきなさい!」


 クレア様は煽り耐性ゼロである。

 うんうん、今日も可愛いなあ。


「ミシャ、貴女も受けなさいな。万一、この平民が受かったら、手綱を握る者が必要でしょう?」

「私はレイの保護者じゃないんですが……」


 クレア様に言われて、ミシャも手を上げた。

 その他にも何人かの生徒が手を上げ、ローレック様はその名前をメモると試験要綱を配布した。


「試験は明日、日曜日の朝から始める。試験項目は事務と魔法の二項目だ。詳しいことは要綱に書いてあるから各自目を通しておくこと。それでは、失礼する」


 そう言ってローレック様は立ち去った。


「ふん、あなたのような卑しい輩に、学院騎士団など無理に決まってますわ」


 顎をくいっと上げて嫌みを投げつけてくるクレア様。

 私はといえば、今日も絶好調だなあなどと思いつつ、その姿を愛でていた。


「クレアにレイ、ミシャも受けるのか、楽しみだな」

「ロッド様……」

「僕らも頑張らないとね、セイン兄さん」

「俺はどうでもいい」


 三王子がやってきた。

 余裕たっぷりのロッド様、そこまでではないものの自信はありそうなユー様、心底面倒くさそうなセイン様と三者三様である。


「あなた、本当にぶれないわね。大方、学院騎士団に憧れなんてないんでしょう?」

「うん。クレア様と一緒にいたいからだよ」

「やっぱり」


 溜め息とともにやれやれと言うのは、苦労人のミシャである。

 彼女にとってはとんだとばっちりだろう。

 受ける以上、彼女の性格からして手は抜かないだろうが。


「試験というのはどんなことを試されるかご存じですか、ロッド様? 事務と魔法を試すとしか伺っていないのですけれど」


 クレア様がロッド様に問いかけた。

 先に述べたとおり、王族が代々学院騎士団に所属していることは周知の事実なので、ノウハウもあると考えたのだろう。


「そいつは言えないな。チャンスは公平にしないと。まあ、明日になれば分かるだろ。事前の準備ったって、今日の明日じゃあたいしたことも出来ないだろうし」

「そうですわね」


 などという会話が交わされているが、ゲーム攻略済みの私は当然その内容を知っている。

 試験は事務に関する筆記試験と戦闘に関する実技試験に分かれる。

 筆記試験は学院規則と事務作業に関する知識を問うもので、これは単純に要領の良さがものを言う。

 学院規則と言っても、一般的な団体活動のルールを知っていれば解ける問題なので、こちらではさほど差は付かない。

 事務作業の知識もそれほど捻ったものではない。

 問題は実技試験の方である。


 実技試験は、以前は剣や槍などの武器の扱いを試されるものだったと聞く。

 魔法が戦争の主流技術となってからは、魔法の扱いにどれだけ長けているかに比重が移っている。

 以前書いた通り、魔法の才能は先天的な資質に左右され、家格には左右されない。

 試験方法が変わってから、学院騎士団における貴族と平民の割合は後者がずいぶんと増えたようだ。


 ただ、平民は学院騎士団に入る名誉をそれほど重く見ていないため、そもそも選抜試験を受けることが少ない傾向にある。

 平民にとって重要なのは官吏登用試験であって、その為の勉強の時間を学院騎士団の活動に取られるのを喜ばない者は多い。

 まあ、名誉よりも実利だよね。


 そんなことをぼんやり思い出していると、クレア様がこちらをキッとにらみ据えてこう言ってきた。


「平民、勝負ですわ!」


 出ました。

 クレア様お得意の、勝負ですわ。

 最初の試験に続いて、二度目の勝負である。


「もし、学院騎士団に受からなかったら、あなたは学院を去りなさい」

「え、やですけど?」

「だから、少しは考えたらどうですの!?」


 だって、前の勝負の時もそうだけど、私になんにもメリットがないんだもん。

 ゲームの時のヒロインは、見返りもなしによく付き合ったものだと思う。

 まあ、クレア様で遊ぶのは楽しいけどね。


「仕方ないですね。じゃあ、今回も前と同じ条件で行きましょう」

「ちょっと待ちなさい。また引っかけるつもりですの?」


 ちっ、覚えてたか。


「まあ、そんな意地悪はしませんよ。単純に私が落ちたらクレア様の負け。私が受かったら私の勝ちということでどうですか?」

「いいで……よくありませんわよ!? どっちにしてもわたくしの負けじゃないですの!?」


 ちっ、気づいたか。


「仕方ありませんね。私が落ちたらクレア様の勝ち。私が受かったら私の勝ちということで手を打ちましょう」

「わたくしが受かったら、わたくしの勝ち、ではいけませんの?」

「クレア様は受かるでしょう。それだけでクレア様の勝ちとするのは、分が悪すぎます」


 なにせ、クレア様は必ず受かる。

 私は先んじてそれを知っているから、それを勝負の条件にすることはない。


「いいですわ。あなたが勝ったら?」

「前と同じく、私の言うことを何でも一つ聞いて頂きます」

「いいでしょう」

「かしこまりました。では、勝負ですね」


 前と同じく、ミシャに神への宣誓を行った。

 こうして私たちは、学院騎士団選抜試験に臨むことになったのである。

お読み下さってありがとうございます。

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