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私の推しは悪役令嬢。  作者: いのり。
第十三章 帝国籠絡編
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175.交渉指南

「ヒルダ、今少しお時間いいかしら?」

「ああ、姫様。申し訳ございません。少々立て込んでおりまして。お話でしたらまた後ほどうかがいます」

「そ、そうですか……」

「本当に申し訳ございません。では失礼します」


 足早に立ち去っていくヒルダの背中を、フィリーネは力なく見送った。


 学院が休日となる日曜日。

 ここは帝城の廊下の一角である。

 ヒルダに接触しようと、クレア様と私は許可を貰って中に入れて貰っている。

 クレア様は最初、ヒルダを口説くのに全員で掛かろうとしたのだが、フィリーネが自分がやると言い出したので任せてみた。

 自主性は大事だし、融和外交勢力の中心はフィリーネなのだから、彼女が張り切るのはとてもよいことである。

 しかし、結果はこの通りだ。


「うぅ……、フラれちゃいました」

「フィリーネ様は少し押しが足りませんわね。あなたは皇女、相手は一介の官僚なのですから、もっと強気に出ていいと思いますわ」

「強気……ですか」

「そうですよ、フィリーネ様。クレア様を見習って下さい。クレア様なら相手に用事があろうとなかろうと、小一時間は釘付けにしますよ」

「しませんわよ!?」


 えー。

 今でこそ丸くなってるけど、無印のクレア様は全く乗り気じゃないセイン陛下を捕まえて、廊下で話し込むこと結構あったよ?

 まあ、通りかかった主人公に取られてキレるんだけどね。


 数時間後。

 お昼頃になってから、再びヒルダにアタックする。


「ヒルダ、ちょっと話を聞いて下さい」

「今でないとダメですか? 火急の案件を陛下に報告しに行く途中なのですが」

「あ……そうなのですね。分かりました。行って下さい」

「何度も申し訳ございません」


 またもやヒルダにスルーされるフィリーネ。


「む、難しいです」

「頑張って下さいな。こんな最初で躓いていたら、ドロテーア陛下に翻意を迫るなんて夢のまた夢ですわよ?」

「そうですね……。全くその通りです」


 しょぼんとするフィリーネ。

 やれやれ。


「じゃあ、ちょっとクレア様で練習しましょうよ」

「え?」

「わたくしで?」

「模擬演習です。フィリーネ様はクレア様を引き留めて用件を切り出す。クレア様は全力で逃げる。いいですか?」

「わ、分かりました……!」

「なんか配役が釈然としませんけれど、まあ、いいですわ」


 というわけで、各自配置について、よーい、スタート。


「あら、フィリーネ様。ご機嫌麗しゅう」

「ごきげんよう、クレア。今少しお時間いいかしら?」

「申し訳ございませんわ。わたくしちょっと今気分がすぐれませんの。後にして頂けますか?」

「そ、そうですか……」

「カットカット!」


 全然ダメである。


「仮病を使われてるの丸わかりなのに、引いてどうするんですか」

「いえ、でも、本当に具合が悪い場合だってあるでしょう?」

「引くならそこを見極めてからです」

「難しいですよ……。じゃあ、レイ。お手本を見せて下さい」

「いいですよ」

「……イヤな予感しかしませんわ」


 配役をフィリーネと交替して、テイクツー、スタート。


「あら、レイ。ごきげんよう」

「ごきげんよう、クレア様。今日もやばいくらいお美しいですね。好き!」

「あ、ありがとうございますわ。では、わたくしはこれで……」

「いやいやいや、もう少しお話ししましょうよ。夜はこれからだぜ?」

「何を言い出してるんですの、あなたは!? ……いえ、わたくしちょっと具合が悪いので」

「それはいけません!」

「きゃあ!?」


 私はおもむろにクレア様をお姫様抱っこした。


「さて、つきっきりで看病しますから、私の話も聞いて下さいね?」

「中止! いったん中止ですわ!」


 抱っこしたクレア様の顔に自分の顔を近づけて甘く囁いた所で、クレア様から待ったがかかった。

 ちぇ、惜しい。


「あなた本来の趣旨忘れてませんこと!?」

「え? 相手を呼び止めて自分の話を聞いて貰う――完全に趣旨通りじゃないですか」

「あんなやり方、レイ以外出来ませんわよ!?」

「えー、そうですか?」

「っていうか、相手がわたくしじゃなかったら失礼過ぎますわよ!? 完全に口説きに掛かってたじゃありませんの!」

「え? ヒルダを口説くっていう話ですよね?」

「意味が違いますわ!?」


 ぜー、ぜーと肩で息をするクレア様。

 うん、今日も嫁がかわいいね。


「とまあ、こんな感じです。簡単でしょ?」

「……ただ目の前でいちゃつかれただけのような気もしますけど」


 あるぇー?


「配役が悪いですわ。ヒルダの役をフィリーネ様、フィリーネ様の役をわたくしでやりましょう」

「ああ、いいかもしれませんね」

「分かりました」


 また配役を変えてテイクスリー。


「あ、ごきげんよう、クレア」

「ごきげんよう、フィリーネ様。少しお話ししたいことがあるのですけれど、よろしくて?」

「ごめんなさい、クレア。先約があるからまたの機会にして頂ける?」

「では、そのご用件が終わるまで待たせて頂きますわ」

「え、えっと……今日中には多分、終わらないと思うの。だから日を改めて……」

「かしこまりましたわ。ではいつがよろしいでしょうか?」

「う……。こ、降参です」

「お粗末様でしたわ」


 クレア様は実にスマートに会話を誘導して、約束を取り付けて見せた。

 社交界の華だったクレア様にとって、これくらいの芸当は朝飯前なのだろう。


「クレアは凄いですね。魔法のようでした」

「そんな大層なものではありませんわよ。礼儀を失することなく、伝えるべきことは伝える。これにつきますわ」

「ふむふむ」

「こちらが礼を尽くしているのに相手が不義理を働くようなら、それは相手が責められてしかるべきです。フィリーネ様が最後に逃げ場を失ったのも、そういうことですわ」

「とても参考になります」


 Revolution無印において主人公に辛く当たっていたクレア様だが、本来社交の場ではこういった迂遠な駆け引きがものを言う。

 彼女の悪役令嬢的なムーブはむしろ、身内や近しい者に対する例外とすら言っていいかもしれない。

 そういう意味では、主人公はクレア様にとって特別な存在であったとも言える。

 まあ、元々平民相手には容赦なかったけどね。


「では実戦してみましょう。レイ、今度はあなたがヒルダの役をやりなさい」

「分かりました」

「フィリーネ様もよろしくて?」

「は、はい」


 フィリーネは今度こそ上手く出来るだろうか。

 はい、テイクフォー。


「あ、レイ。ちょっといいかしら」

「よくありません」

「えっ……?」

「失礼します」


 フィリーネが動揺した隙に、私は歩み去った。


「ちょっと待ちなさい、レイ! ヒルダがそんな無礼を働くわけないでしょう!?」

「や、分からないじゃないですか。もしものケースも想定しておいた方がいいかと思いまして」

「まずはフィリーネ様に自信を持って貰わなきゃダメですわよ! 心を折ってどうしますの!」


 言われて、フィリーネの方を見ると、フィリーネは半泣きになっていた。


「フィリーネ様って泣き顔がそそると思いません?」

「思いませんわよ! 真面目にやりなさい!」


 結局、その日は練習に明け暮れることになった。

 その甲斐あってかどうかは分からないが、


「……分かりました。それでは明日の午後、姫様の部屋で」


 と、フィリーネはなんとかヒルダと約束を取り付けることに成功したのだった。

ご覧下さってありがとうございます。

感想、ご評価などを頂けますと幸いです。


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― 新着の感想 ―
やはりこのかっぷるおもろいな。
[一言] フィリーネ様は果たしてヒルダさんを無事に口説けるのか( ˘ω˘ )
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