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私の推しは悪役令嬢。  作者: いのり。
第十二章 舞踏会編
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162.分からず屋の職人

ご覧下さってありがとうございます。

感想、ご評価などを頂けますと幸いです。


「帰れ帰れ! よそもんの言うことなんざ聞いてたまるかい!」


 ドロテーアとの謁見の翌日、私は帝国の料理を司る部署である厨師省に乗り込んだ。

 もちろん、ドロテーアと約束した帝国の公式料理改善の為である。

 そして、冒頭のあれは用向きを告げた私に、厨師長から投げかけられた第一声である。


 厨師長は白いコック服にコック帽をした男性で、その肩書きにしては随分若々しく見えた。

 髭を生やしている分少し老けて見えるが、それでもせいぜい三十代、ひょっとしたら二十代くらいの男性である。

 料理人にはふくよかな人も多いが、厨師長は無駄な肉のないがっしりとしたスポーツマン体型である。

 口調のせいでどこか粗雑な印象をうける彼は、差し詰めこのお山の大将といったところか。


「ちょっとあなた。いくらなんでも失礼ですわよ」

「あんだとぅ!?」


 一緒に来てくれたクレア様が気色ばむ。

 彼女は礼節に人一倍うるさい人だ。

 厨師長の態度は許せないだろう。

 一方、厨師長は昔ながらの職人という感じの人で、他人から指図されることをいかにも嫌いそうだった。

 彼は彼なりに自分の仕事に誇りを持っているのだろう。


「まあまあ、そう仰らずに。クレア様も抑えて抑えて」


 けんか腰では話し合いにならない。

 私は今にも言い争いを始めそうな二人をなだめた。


「てめぇらなんかの手を借りなくても、いくらでも美味くて新しい料理なんて作れらぁ! 今まではドロテーア陛下に遠慮してただけでい!」


 厨師長はそう啖呵を切る。

 いくらこれまでの料理の評判が悪かったとはいえ、それは実力を発揮できなかっただけだ、と彼は言う。

 恐らくそれはある程度正しい。

 ナー帝国という大国の一部門を任されているのだから、彼は料理の世界におけるエリートと言えるはずだ。

 能力主義が徹底されているこの国の料理人のトップなのだ。

 たとえ帝国における料理人という職業の地位が低くても、その腕は確かだろう。


 ただ、それだけでは足りないのだ。


「仰ることはごもっともです。ですが、ただ美味しくて新しいというだけではダメなんです。つまり――」

「大きなお世話でい! てめぇらのこたぁ、てめぇらで解決すらぁな! よそもんにうるさく言われたかぁねぇよ!」


 とりつく島もないとはこのことである。

 さて、どうしたものか。


「どうしました?」

「あ、ヒルダ様」


 騒ぎを聞きつけたのか、部屋に入ってきたのはヒルダだった。

 怪訝な顔でこちらを見ている。


「なんでもありゃしませんよ。ちょっとこいつらが生意気抜かしやがったんでさあ」

「そうですか? 少し詳しく話を聞かせて頂いても?」


 私はここまでの経緯を簡単に説明した。

 聞き終えると、ヒルダはふむ、と頷いて、


「なら、確かめ合えばいいでしょう。料理勝負でもしてみたらいかがですか?」

「料理勝負?」

「はい」


 ヒルダは続ける。


「ここで押し問答していても仕方がないでしょう。厨師長たちが勝てばその実力は確かということで、食事改革は独自路線で進める。逆にレイたちが勝てば、厨師長たちもその実力を認めて助言を受ける。どうです?」


 なんだなんだ。

 なんかおかしな展開になってきたぞ。


「上等でぃ! 白黒ハッキリつけようじゃねぇか! こちとら先代陛下の時代から代々厨房を守ってきてんだ。ぽっと出のよそもんに負けるわきゃねぇやい!」

「なら、負けたら大人しく言うことを聞いて下さるんですのね?」

「いいともよ! やってみりゃあいいさ、出来るもんならなあ!」


 私はあんまり乗り気ではないのだが、厨師長もそしてクレア様ももう完全にやる気だ。

 こうなったらもう仕方ない。


「分かりました。勝負を承ります」

「結構です。厨師長もそれでいいですね?」

「へぃ。帝国厨師の心意気、見せてやりまさぁ!」


 そんな訳で、私たちは料理勝負をさせられることになった。


◆◇◆◇◆


「ということになったから、みんなの知恵を貸して欲しいの」


 集まった面々を前に、私は頭を下げた。

 場所はバウアーの留学生達が暮らす寮のキッチンである。

 収集したメンバーは、レーネ、ミシャ、フリーダ、イヴ、ヨエル、私、そしてアレアの計七人。

 いずれも料理が出来る人たちである。

 クレア様も参加したがっていたが、今回は遠慮して貰った。

 クレア様の料理下手はいっそ清々しいほどに極まっているので、今回に限っては戦力にならない。

 ただ、料理を吟味する舌は確かなので、講評はして貰うつもりである。


「知恵を貸すのはいいけど、どんな料理にするか漠然とした方向性は決まってるの?」


 レーネが首を傾げた。

 こうしてじっくり話すのはなんだか久しぶりだ。

 帝国に来て以来、お互いに忙しかったからね。


「一応、ルールがあって、コース料理の内、前菜、肉料理、デザートの三品目を作ることになってるね」

「結構あるわね……」


 品数を聞いたミシャが、悩ましげに眉を寄せた。

 確かに簡単な課題ではない。


「期限はいつまでなんデス?」

「一週間後ってことになってるよ」


 フリーダの問いに答えた。

 一週間という時間も、コース料理三品目を新しく考えるにはかなり足りない。


「……どうして私が」


 不満そうに言うのはイヴである。

 理由は分からないが私を嫌っている彼女にとって、この参加は不本意のようだ。


「ごめんね、イヴ。でも、今は猫の手も借りたいところなんだよ」

「……私は猫の手ってことですか。馬鹿にして……」


 相変わらず曲解されてるなあ。


「七人いるが、全員で考えるのか?」


 ヨエルの疑問はもっともだ。

 船頭多くして船山に上る、みたいなことにもなりかねない。


「私は全体の監修をさせて貰うことにして、みんなには二人で一品ずつを担当して貰いたいの」

「え? わたくしもつくらせていただけるんですの?」


 アレアがびっくりしたように言った。


「うん。もちろん、私も手伝うけど、アレアのお料理の腕は十分実用レベルだから」


 本当にこの子は器用なのだ。

 魔法にこそ適性がなかったが、それ以外のことは本当に覚えが早い。


「……わかりましたわ。がんばります」


 アレアはどこか緊張した面持ちで、でも嬉しそうに言った。


「みんな、どれを担当したい、とかある?」


 私は皆に希望を聞いた。


「俺は出来ればデザートを任せて貰いたい」


 最初に希望を言ったのはヨエルだった。

 無骨な彼がデザートを担当したいと言うのは、少し意外ではあった。


「菓子作りは、比較的得意なんだ」

「そうなんだ。じゃあ、ヨエルにはデザートをお願いするね」

「任せてくれ」


 まずデザートの一人が決定。


「じゃあ、私は肉料理を担当しようか? 多分、一番大変だと思うし」

「そうして貰えると助かるかな」


 レーネの申し出は正直ありがたい。

 このメンバーがいくら料理経験があると言っても、コースのメインを飾る肉料理は流石に経験豊かな人に任せたい。

 その点、フランソワ家で長く仕え、今もフラーテルの第一線で活躍するレーネならばこれ以上の人選はない。


「アレアも肉料理を担当して貰おうかな。レーネにつけば、学ぶことも多いと思うし」

「わかりましたわ」


 私の言葉にアレアが頷く。


「私は前菜を担当させて貰おうかしら。一応、フォーマルな食事も知っているから、力になれると思うわ」

「ありがとう、ミシャ。お願いね」


 前菜はミシャ。

 これであと二人。


「Umm……残りは前菜とデザートデスカ。ミズイヴ、どちらがいいデスカ?」

「どっちでも」

「Oh……シャイガール。素っ気ない態度もキュートネ。なら、ワタシはデザートを担当しマース」

「私はミシャ先輩と前菜ね」

「うん、二人もよろしく」


 これで全て決まった。

 まとめると――。


 前菜:ミシャ&イヴ。

 肉料理:レーネ&アレア。

 デザート:ヨエル&フリーダ。

 全体監修:私。


 という担当だ。


「それぞれの担当料理は自由に作っていいの?」


 そこを聞いてくるのは、流石レーネというべきだろう。


「基本的にはね。ただ、全員に今から言うことは守って欲しいんだ」


 私は()()を説明した。


「なるほど。流石レイちゃんね」

「相変わらず頭が回るわね」

「……悪知恵」

「No、No、ミズイヴ。これはとてもいいアイディアデース!」

「うむ。重要なことだ」

「おぼえておきますわー」


 みんな納得してくれたようだ。


「それじゃあ、みんな、よろしくお願いします」


 こうして料理勝負への準備が始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「清々しい程に極まった料理下手」・・・ 殺人コックですか? クレアさまは! まぁ、得意料理がある意味 爆殺料理ですからねえ ・・・ (爆笑) 火属性が高過ぎるのも、考えものです。
[一言] どんな悪知恵を働かせたのか楽しみです!
感想一覧
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