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私の推しは悪役令嬢。  作者: いのり。
第十二章 舞踏会編
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159.Shall We Dance?

「舞踏会……ねぇ……」


 翌日の朝、教師が告げたのは帝国国学館主催の舞踏会のことだった。

 なんでも、フィリーネのお披露目も兼ねるとのことで、盛大にやるらしい。

 そのこと自体に別に異論はない。

 おめでたいことだし、結構なことだと思う。


 問題は、その舞踏会とやらに私も参加しなければならないということだ。


「不満そうですわね、レイ」


 昼休みに教室で昼食を取っていると、クレア様がそんなことを言ってきた。

 周りにはフィリーネやラナ、フリーダもいる。


「不満ですよ。クレア様もご存知でしょう? 私、ダンスは苦手なんですよ」

「あら、意外ですね。レイはなんでもそつなくこなしてしまいそうなイメージがありました」

「ダンスなんて簡単デース! 熱いパッションのままに身体を動かせばいいのデース」

「いや、社交ダンスなんて形式の極地でしょう」


 勝手なことをいうフリーダにとりあえず突っ込んでおく。

 まあ社交ダンスにだって自己表現の余地があるとはいうが、それは上級者の話だろう。


「苦手ならなおさらいい機会じゃありませんの。奉納舞に続いて特訓して上げますわ」

「え。また養成ギブスですか?」

「何か問題がありまして?」


 クレア様に構って貰えるのは嬉しいんだけど、あのギブスめっちゃ疲れるんだよね。

 私は奉納舞の時の事を思い出して、ちょっとげんなりした。


 今日の昼食はちゃんと家から持って来たお弁当である。

 昨日の食堂で懲りたのだ。

 本日のメニューは――。


 白いご飯。

 香味唐揚げ。

 ネギ入り玉子焼き。

 ピーマンのナムル。


 というシンプルなもの。

 そこまで手の込んだメニューはないが、それなりの自信作である。

 さっきからフィリーネの視線がクレア様のお弁当箱に突き刺さっている。


「クレア様、今日のお弁当はいかがですか?」


 さりげなく感想を求めてみた。

 クレア様はにっこりと笑って、


「とても美味しいですわ。いつもありがとう、レイ」


 と言ってくれた。

 この笑顔だけで、私はご飯が三杯はいける。


 私も食べよう。

 まずは唐揚げから。

 今回の留学にはバウアーから補助金が出るので、食費にはあまり困っていない。

 なので、この唐揚げは胸肉ではなくもも肉である。

 料理酒と塩で下ごしらえしたもも肉に、私特製の香味ペーストを絡めて十分ほど置く。

 その後、片栗粉をまぶして少量の油で揚げ焼きにしたものがこれである。

 かぶりつくと、香味ペーストの中の各種香辛料がふわっと香った。

 冷めているので肉汁がじゅわじゅわというわけにはいかないが、それでも十分に美味しい。


 次に玉子焼き。

 これはあまり説明はいらないだろう。

 小口切りにしたネギを混ぜた玉子液を、普通に焼くだけである。

 ちょっと工夫しているのは、マヨネーズと砂糖を隠し味に加えていることだろうか。

 私はあまり甘い玉子焼きが好きではないので、マヨネーズが多め、砂糖はごく少量である。

 これはクレア様のお気に入りメニューでもあるので、お弁当には毎回入れるようにしている。


 最後はナムル。

 二十一世紀の日本であれば一番簡単に作れるメニューだが、この世界ではこれが一番手間が掛かっている。

 日本であればピーマンを細切りにして塩とごま油、鶏ガラ粉末を混ぜ合わせてレンジでチンした後、ごまを振るだけで出来る。

 しかし、この世界には肝心なものがない。

 レンジ……ではない。

 鶏ガラ粉末である。


 コンソメの素、鶏ガラ粉末、ダシの素に味の素……これらのアミノ酸系調味料は、料理の最先端技術である。

 これらの存在がいかに偉大だったか、私はこの世界に来て痛感した。

 代替品を作ろうと思ったら、えっらい時間がかかるのだ。

 どれも動物の肉や魚、骨、野菜などを長時間煮詰めて作らなければならない。

 もちろん、その間何度もあく取りも必要だ。

 コンソメスープも他のダシ系も、この世界ではそれぞれの店の秘伝である。


 そこで私が考えたのが、なんちゃってコンソメの素、である。

 作り方は以下の通り。

 にんじん、たまねぎ、セロリ、マッシュルーム、椎茸を極薄にスライスする。

 それらをざるに並べて天日でからからに乾燥させる。

 たまねぎをフライパンで乾煎りする。

 全ての材料をすり鉢ですり潰す。

 これに少量の塩を加えれば完成である。

 肉類を使っていないので少しコクは足りないが、それでも毎回一から作るよりもずっといい。

 近いうちに大量生産してブルーメから売り出そうと考えてもいるのだが、これが流通したらいくつかの料理店から猛抗議を受けそうな気もする。


 閑話休題。


 まあ、そんなわけで、このナムルにはなんちゃってコンソメの素が使われているわけだ。

 食べてみると結構美味しい。

 ピーマンが嫌いじゃない人なら、いくらでも食べられると思うし、嫌いな人でもこれは大丈夫という場合もあるくらい。

 元々このレシピは前世で流行った無限ピーマンの亜種なのだ。

 無限ピーマンとは無限にピーマンが食べられるレシピというものなのだが、ここでは割愛する。

 とにかく、ピーマン嫌いのクレア様とアレアのためのレシピなのである。

 クレア様のお弁当箱を見ると、ナムルもちゃんと減っている。

 今日も作戦成功のようだ。

 やったぜ。


「クレア様、あーんして下さい」

「ついこの間したばかりでしょう!?」

「それならいつやったっていいじゃないですか。ほら、あーん」

「な、なんて羨ま……じゃない。は、破廉恥な……」

「ワタシも、ワタシもしたいデース!」

「……」

「Hey、ラナ! 黙ってないで一緒にレイにアーンしてもらいまショ!」

「……え? アタシも?」

「ああ、もう。また面倒くさいことに!」


 などと言いつつも、唐揚げをあーんしてくれようとするクレア様。


「待ってください。クレア! レイにあーんの前に私で予行練習してみては? 良い案ですね。そうしましょう!」

「フィリーネ様!?」

「ちょっと、どさくさに紛れて何言い出すんですか」

「してくれないなら、先にレイさんで予行練習しますよ!? 良いんですか!?」

「なにそれ脅し!?」


 などと賑やかに食事は進んでいく。


「ふう。……そういえば、フィリーネ様はダンスはお好きでして?」


 玉子焼きを切り分けながら、クレア様がフィリーネに問うた。


「正直、あまり……。いえ、ダンス自体は幼い頃から教えられて慣れているのですけれど、あまり殿方と踊るのは好きではないのです」


 フィリーネはしょんぼりとした顔をした。

 彼女は少し男性恐怖症のきらいがあるのだ。

 箱入りのお姫様なので、仕方がないかもしれない。


「クレアは?」

「わたくしは割と好きですわ。ダンスはコミュニケーションだと思いますの。口下手な方でも、一緒に踊ってみれば何となく気持ちが通い合うということもあると思いますわ。ダンスをきっかけに仲良くなるということも多いですし」


 今でこそ一般人をしているが、クレア様は元々社交界の華だった方である。

 男性とだってたくさん踊ったことがあるだろう。

 それこそ、幼い頃からずっと。


 そこで私は重大なことに気がついてしまった。

 私、クレア様と踊ったことがない。

 奉納舞の時にはダンスの練習をしたが、結局、一緒に踊ることはなかった。

 いや、正確には全体練習の時にあるのだが、奉納舞でいう「一緒に」というのは、社交ダンスのそれとは意味合いが違う。

 手に手を取って、身体を寄せ合って踊ったことは、まだ一度もない。


「クレア様、私に社交ダンスを教えて頂けますか?」

「あら、どうしましたの突然。やる気が出たのはいいことですけれど」

「いえ、折角ですし、この機会にクレア様と踊りたいなあと」

「レイ、社交ダンスは普通、男女で踊るものですのよ?」


 クレア様からツッコミを受けた。

 まあ、それはそうだろう。

 普通はね。


「Oh? バウアー王国では同性同士では踊りマセンカ? 帝国では普通に踊りマース!」

「そうなんですの?」

「ええ。以前にも話しましたが、帝国には同性婚も認められていますから」


 フリーダの言葉に疑問を呈したクレア様の言葉に、フィリーネが答えた。


「ほら、問題ないんですって。というわけで、舞踏会では私と踊って下さいね、クレア様」

「ふふ、いいですわよ? その代わり、レイもちゃんとドレスを来てちょうだいね?」

「えー……」

「えー、じゃありませんわよ。わたくし未だにあなたのちゃんとしたドレス姿みたことないんですのよ? 故ロセイユ陛下との謁見の時も、あり合わせのパンツドレスでしたし」


 だって私、スカートがあんまり好きじゃないのだ。

 学院の制服は我慢したが、好き好んで着たいとは思わない。

 社交ダンスで着るドレスっていったらあれでしょ?

 イヴニングドレスでしょ?

 うへぇ。


「そんなイヤそうな顔しないで、たまには着飾った可愛い姿を見せてちょうだい。わたくし、レイのイヴニングドレス姿を見てみたいですわ」

「うー……。まあ、クレア様がそう仰るなら考えますけれどね」

「ふふ、楽しみにしてますわ」


 などと話していたその時、


「レイ=テイラー。ちょっと」


 ふいに私に投げかけられる声があった。

 なんだろう、と声のした方を見ると、教室の入り口に見覚えのある人影が手招きしている。


「あら、ヒルダですね。どうしたのかしら」


 フィリーネの言うとおり、人影はヒルデガルト=アイヒロートだった。

 帝国の優秀な官僚で、教皇様の行幸の際に協力関係にあった人だ。

 ついでにレボリリの攻略対象でもある。

 今日もモノクルがキラリと光っている。


「ちょっと行ってきますね」


 ほとんど食べ終えた弁当箱をしまって、私はクレア様の元を離れた。


「何かご用ですか?」

「急に呼び立てすみません。折り入って、あなたにお願いがあるのです」


 む、嫌な予感。


「舞踏会に出す料理について、ご助力を願えませんか?」

ご覧下さってありがとうございます。

感想、ご評価などを頂けますと幸いです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いのりさん、最近の更新はお疲れ様です! 今章は少し長めですね。 アレアさん達姉妹の不登校危機は、お互いを大事にしているからの問題でしょう。正解が無いので中々複雑です。多分クレアさんもレイさ…
[一言] 帝国にメシ改革の流れが!?
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