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私の推しは悪役令嬢。  作者: いのり。
第九章 新生活編
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120.四人で泣いた日

「おかあさまたちがけんかしてるのは、わたくしのせいですの……?」

「それともメイのせい……?」


 アレアとメイが泣きそうな顔でそんなことを言う。

 クレア様も私も慌てた。


「ケンカなんてしてませんわ。ちょっと二人で話し合いをしていただけなんですのよ?」

「そうそう! クレア様と私がケンカなんてするわけないじゃない。ラブラブだよ、超ラブラブ!」


 クレア様は必死に、私はおどけるように言って、なんとかアレアを慰めようとした。

 しかし、


「でもおかあさまたち、すごくこわいおかおしてた……」

「おこえもすごくこわかった……」


 二人してぐすぐすと鼻を鳴らしている。

 泣き出す寸前だ。

 というか、聞こえてた……?


「怖がらせてしまったんですのね。ごめんなさい。おいで、メイ、アレア」


 誤魔化すのは無理と悟ったのか、クレア様は誠実に謝罪を口にすると、二人に両手を広げた。

 メイとアレアが抱きつく。

 そのまま少しの間、小さくすすり泣きが聞こえた。

 クレア様は二人を抱きしめながら、「大丈夫よ、大丈夫」と囁きかけながら、何度も二人の髪に口づけを落とした。


 二人が落ち着くまでは、少し時間がかかった。


「メイ、アレア、二人に大切な話がありますの。聞いてくれる?」


 メイとアレアがひとまず泣き止んだのを見計らって、クレア様は二人の目をしっかりと見ながら、優しい声色でそう言った。

 二人はこくんと頷いて、自分たちの席に座った。


「具体的な話をする前に、まずこれだけは覚えていて? わたくしもレイも、何があっても二人のことを嫌いにならないし、絶対に見捨てることもありませんわ」


 大切なことだからよく覚えていて、とクレア様は念を押した。

 メイとアレアはきょとんとした顔をしていたが、とりあえず頷いてくれた。


「先日、大聖堂で魔法適性の計測をしましたわよね。その結果を二人に話します」

「! どうだったんですのー?」

「ききたい、ききたい!」


 メイとアレアの顔が少しほころんだ。

 この笑顔がまた曇ることになるのかと思うと、胸が痛い。


「まず、メイ。あなたは地水火風全ての属性に適性があるそうです。おめでとう」

「それってまなりあおねえさまとおんなじ?」

「そうですわ」

「やったー!」


 メイは椅子から転げ落ちんばかりに喜びを爆発させた。

 よほど嬉しいのだろう。

 その様子を、アレアが羨ましそうに見ている。


「そしてアレア。あなたは残念ながら、魔法の適性がありませんでした」

「……え?」

「……?」


 アレアが意味が分からない、といった顔をした。

 無邪気にはしゃいでいたメイも、口をつぐんだ。


「てきせいがないって、どういうことですの……?」

「アレアは色んなことが上手に出来るでしょう? その中で、魔法だけは上手に出来ないっていうことですわ」

「……」


 アレアが黙り込んでしまった。

 クレア様は言い方をだいぶ工夫したが、それでもアレアのショックはいかばかりか。


「おかあさま、アレアはまほうをつかえないの?」

「残念ながら、そうですわ」

「てきせーっていうのがないから?」

「ええ」

「どうして? メイはよっつもあるのに?」

「理由は精霊神様しかご存知ありませんわ」

「……」


 メイは少し考えると、いいことを思いついた、と破顔して、


「じゃあメイ、アレアにふたつわけてあげる!」


 と無邪気にそう言った。

 アレアの顔が期待に染まった。

 これで自分も魔法を使えるのではないか、とそう思ったのだろう。


「メイは優しい子ね。でもね、残念だけれど、魔法の適性というものは半分こすることが出来ないものですのよ」

「ダメなの……?」

「ええ、本当に残念だけれど」


 メイはがっかりしたような顔をした。

 そして、アレアはそれ以上に落胆の色が濃かった。


「おかあさま、わたくしはどうしてもまほうがつかえませんの?」

「ええ、本当に残念ですわ」

「どうしても? おりこうにしていてもダメ?」

「……ええ。でも、おりこうにしていることは、とてもいいことですわ。どうかこれからも続けて頂戴?」

「……」


 アレアはまた黙り込んでしまった。

 空気が重たい。


「アレア、魔法が使えなくても、他のことを頑張ればいいんだよ。アレアは本当に色んな事が上手に出来るんだから」

「……」

「本当にただ一つ、魔法だけじゃない。一つくらい苦手なことがあるくらいが、人間丁度いいって」

「レイおかあさまはすこしだまっていらして」

「……はい」


 フォローは一刀両断された。

 ぐすん。


 アレアは必死に考え込んでいるようだった。

 私の目には、彼女が突然突きつけられた現実と、懸命に戦っているように見えた。


「おかあさまたちは、わたくしがまほうがつかえなかったらかなしい?」

「いいえ。魔法なんて使えなくても、アレアが元気でいてくれたら、それだけで幸せですわ」

「きらいにならない?」

「もちろんですわ」

「メイをひいきしない?」

「絶対に」

「そうですの……」


 クレア様の答えを聞くと、アレアはほっとしたような顔で、


「ならいいですわ。おかあさまたちがきらいにならないでいてくれるなら、まほうなんていりませんわ」


 そう言って、不敵に笑って見せたのだった。


「アレア……」

「その代わり、レイおかあさまー?」

「なーに、アレア」

「わたくしにおりょうりをおしえてくださいなー」

「料理? いいけど、どうして?」

「だって、クレアおかあさまにもできないことがじょうずにできたら、まほういじょうのかちがあるとおもいませんことー?」


 そう言って、悪戯っぽくクスクス笑った。


「あー、ずるい! メイもならう!」

「ダメですわ、メイ。メイはまほうがたくさんつかえるようになるのですから、おりょうりはあきらめてくださいまし」

「えー」


 アレアの言葉に、メイが不満そうに頬を膨らませた。


「うん、分かった。メイにはクレア様が魔法を、アレアには私がお料理を教えることにしよっか」

「いいですわね。二人もそれでいい?」

「いいですわ」

「はーい」


 なんとか、落ち着くところに落ち着いたようだった。

 一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなるものだ。

 どんな料理を、どんな魔法を教わろうかと二人で話すメイとアレアは、危惧していたよりも元気そうだった。

 案ずるよりも産むがやすし、とはこのことなのかもしれない。


「アレアは強い子ですわね。メイも意地悪を言わずにとっても偉かったですわ」

「へへーですわ」

「えへへ!」


 メイとアレアはクレア様にくっついて甘えている。

 私もようやく、肩から力が抜けた。


 そう。

 油断していた。


「わたくし、えらかったですわよね?」

「? え、ええ」

「がんばりましたわよね?」

「……アレア?」

「だから、ちょっとだけ……きょうだけゆるして」


 そう言うと、アレアの目尻にみるみる涙が溜まっていった。


「う……ひっぐ……あ……あああぁぁぁーーーーー!!!」


 大号泣。

 小さな体から、よくもまあこんな声が出るものだと驚くほどの大声で、アレアは火が付いたように泣き出した。

 つられて、メイも負けないくらいの大音量で泣き出した。

 二人の大きな目から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちる。

 全身で悲しみを露わにしていた。


「メイ……! アレア……!」


 私はたまらなくなって、二人をかき抱いた。

 クレア様も一緒になって二人を抱きしめる。

 クレア様や私も泣いていた。


 きっとご近所迷惑だったことだろう。

 でも、この夜は四人で、心ゆくまで泣いた。

 メイとアレアの泣き声は、二人が泣き疲れて眠るまで延々と続いたのだった。

ご覧下さってありがとうございます。

感想、ご評価などを頂けますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] (泣)(ToT)
[良い点] アレアえらい! メイもいいこ! [一言] きっとメイは歴史に名を残す魔法使いに! アレアは「まるで魔法」という月並みな表現を超えた、伝説の料理人に! なんて未来を幻視しました。
[良い点] アレア頑張ったねぇ……読んでて泣きそうになりました。 クレアもレイも辛かったろうなぁ。どうして神様は平等にしてくれないのか。 [気になる点] アレアとメイは双子なんですか?血縁関係があるの…
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