100.追及
「私の推しは悪役令嬢。」は本話で百話になりました。
ここまでこられましたのも読者の皆様の応援のお陰です。
引き続きご愛顧賜れましたなら幸いにございます。
刺客に襲われた翌日、私たちは王宮に来ていた。
クレア様とリリィ様の連名で陛下に謁見を求めたところ、すぐに許可が下りた。
普通ならありえないことだが、ことがことである。
「来たか」
「……」
謁見室に入ると、陛下とサーラスがすでに来ていた。
王妃の姿はない。
噂によると、ユー様が王位継承権を手放した後、床に伏せっているという話である。
他には近衛兵が何人か並んでいる。
「遅いですよ。陛下を待たせるとは何事ですか」
いけしゃあしゃあとサーラスが言う。
「申し訳ございませんわ。少し寄るところがありましたの」
サーラスの嫌みにも、クレア様は涼しい顔だった。
「それで、用件とはなにか」
陛下が訊いてきた。
もちろん、謁見申請の際に用件は伝えてあるので、これは芝居である。
「陛下。サーラス宰相の罪を告発しに参りました」
クレア様は堂々とそう言った。
サーラスの表情は変わらない。
「サーラスの罪とは何か」
「陛下。この者たちは私にありもしない言いがかりをつけているのです」
「い、言いがかりなどではありません」
サーラスは飽くまでシラを切るつもりのようだ。
国王大権が発動されていないことを知っているからだろう。
リリィ様が悲しそうにそれを否定する。
「君たちはまだ、私が不義密通をなどと言うつもりですか?」
「いえ、そうは申しませんわ」
クレア様の言葉に、サーラスが怪訝な顔をする。
クレア様は続けた。
「サーラス様の罪状……それは外患誘致ですわ」
「……なんですって……?」
サーラスの顔色の瞳が鋭く光を弾いた。
クレア様は構わずに続ける。
「サーラス様は、敵国であるナー帝国と通じています」
「馬鹿なことを言わないで下さい。そんなことがありえるわけがないでしょう」
やれやれ、とばかりに首を振るサーラス。
陛下は静かに聞いている。
「陛下。この国で起きている一部の過激な平民運動は、何も陛下のご政策のせいばかりではありません。サーラス様がナー帝国と組んで、扇動を行っているのです」
「馬鹿馬鹿しいですね。陛下、このような与太話に耳を傾けませんよう」
サーラスは謁見はここまで、とばかりに話を終わらせようとした。
「証拠があります。そうですわね、レイ?」
「はい」
私は鞄からそれを取り出した。
「ば、馬鹿な……!」
私が手に持っているものを見て、サーラスが絶句した。
少し古びた記録の魔道具である。
私は魔道具に魔力を込めた。
――王国で革命を起こせば、帝国は私に新政権のトップの地位を保証してくれるのですね?
――ああ、保証する。
――具体的な手はずは?
――そっちの愚王の政策を利用しろ。平民運動を過激化させるんだ。
――ああ、なるほど。それなら容易い。民衆は愚かですからね。
「もうよい」
陛下が制止したので、私は魔道具を止めた。
サーラスは顔色を失って立ち尽くしている。
「サーラス。何か申し開きはあるか」
「陛下、これは違います! その……策略です!」
「誰のどんな策略だというのか」
「それは……、それは……」
チェックメイトである。
「貴様ら……どうしてそんなものを……!」
サーラスが怨嗟を込めた問いに対しては、クレア様が答えた。
「もちろん、サーラス様の執務室にある金庫からですわ」
「馬鹿な! ダイヤルの番号は私しか知らないはずだ!」
「そこはこの者が上手くやりましたの。そうですわね、レイ?」
「はい。私というか、この子がやってくれました」
私は鞄を広げると逆さに振った。
ぽよんと透明で不定形のものがまろび出てくる。
「ま、魔物!?」
サーラスの叫びに近衛兵たちが一瞬気色ばんだが、陛下が制止した。
「従魔ですので危険はありません。ほら、核が金色でしょう?」
「ふむ。そのようだ」
陛下ってば胆力あるな。
私はレレアを抱え上げると、サーラスに示した。
「この子、何かに似ていると思いません?」
「なんのことを言っている?」
「あなたの部屋にある氷のオブジェですよ」
「……あ」
種明かしはこうだ。
サーラスと偽の取り引きをした時、私はこっそりレレアを部屋の中に放っておいたのだ。
そうしてレレアの擬態能力であるウンディーネで部屋のオブジェの中に紛れ込ませた。
サーラスの部屋から去る際に言った記録の魔道具が消えるという一言は、サーラスに金庫内の魔道具を一度確認させるため、ひいては一度ダイヤルを操作させるためだ。
後はそれを見ていたレレアを回収して、同じ事をさせればいい。
元魔物と侮るなかれ。
うちの子は賢いんです。
「貴様……謀ったな……!」
「ええ」
「か、観念して下さい、お父様!」
近衛兵がサーラスを取り囲んだ。
サーラスは水の中適性だが、戦闘能力には長けていなかったはずだ。
この場には近衛兵の他にクレア様や私もいる。
サーラスに切り抜けるすべはない。
「年貢の納め時ですわ、サーラス様」
「……くくっ」
「?」
「くふっ……くぁーはっは!」
サーラスが哄笑を上げた。
乱心でもしたのだろうか。
「いやぁ……やられた。大したものだ、クレア=フランソワにレイ=テイラー」
「リリィ枢機卿もですわよ」
「いや、そいつは大して役に立たなかったはずだ。思い返してみるがいい。そいつが一度でも私を害するような行動を取ったことがあったかどうか」
世迷い言だとは思ったが一応、振り返ってみる。
すると、リリィ様はサーラス様を問い詰めることはあったが、他の貴族に対してはともかく、サーラスに対しては実質的に何もしていなかったことに気がついた。
「だからなんだと言うのです」
「いや、滑稽だと思ってね」
「……?」
「仲間と信じていた者に裏切られるのは、どんな気分なのかな、と」
「!?」
私は思わずリリィ様をみやった。
リリィ様はといえば、父親が何を言っているのか分からない、といった顔でおろおろしている。
やはりサーラスの苦し紛れなのだろうか。
「リリィ、父を助けておくれ」
「ば、馬鹿なことを仰らないで下さい! お父様は、きちんと罪を償うべきです!」
「そうか。それならお前も償わなければな。自らの罪を」
「さ、さきほどから、何を仰っているのですか! リリィはお父様が何を仰っているのか分かりません!」
サーラスはこの後に及んで、リリィ様の寝返りを期待しているのだろうか。
いや、何かおかしい。
「リリィ……哀れな子だ。……主よ、憐れみたまえ」
最後の言葉が何かのキーワードだったのだろう。
それを聞いた途端、リリィ様が崩れ落ちた。
「リリィ枢機卿!?」
クレア様が慌ててリリィ様に近寄る。
私は猛烈に嫌な予感がした。
「クレア様、離れて!」
敬語も忘れて叫ぶ。
私がクレア様をリリィ様から引き剥がすと、銀色の弧閃がクレア様の金髪を数本散らした。
次の瞬間――。
「全く……、イヤになんなー」
場にそぐわない明るい声が響いた。
「お前は……」
「やあ、レイさんにクレア様、昨日ぶり」
全く変わった声色と表情。
特に声色は、あの仮面の男のものとそっくりだった。
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