VEMSTER③
――☆☆☆――
「や……った…………?」
再び我に返った時、目の前のオブジェクトは、ボロボロのガラクタとなって地面に転がっていた。再び宙に浮かぶでも、再び蟲を作り出すでもない。
「私たちは……生き残った……?」
冷静になって周りを見る。既に、私の周りで立っている人間は十余名しかいない。誰も皆、疲れ果てた様子で勝利を喜ぶ余裕もない。
「ご苦労だった」
一言の労いの言葉。おそらく、田中が例の『裸蟲』と戦闘を開始した以降は、ずっと私のことを周りの蟲たちから守ってくれていたんだろう。
「労いの言葉、痛み入るばかりです、隊長」
「いや、お前はよく頑張ってくれた。こんな戦場に連れてきて悪かったな」
「いえ……自分が、望んだことですから」
自分が望んだ戦場。結局、私がいることでみんなに迷惑をかけただけだった。
「残存勢力はもう殆ど片づけた。残骸の処理は、一旦戻ってからだ。この人数じゃ、いくらなんでも片づかん」
「あまりに多くを、失いましたね……」
「全くな…………」
私たちは、ふらふらと帰りの道を行く。本当は虫の息の班員を救助したりする必要もあるのだろうが……殆ど自分たちが虫の息だと言っても過言ではないだろう。
その証拠にか、私は道中躓いて派手に転ぶ。
足下を見ると――
「………………え?」
――切り落とされた田中の首があった。
「…………あ、あ…………」
「どうした? ……っ!? ケンタ…………」
田中ケンタ。三銃士の一人。
私よりはるかにつき合いの長いはずの隊長のショックは、私なんかが慮れるものではないだろう。
私たちはしばらくうつむいて……物言わずに、涙の粒を落としていた。
「行こう。一度帰ったら、こいつの身体も探してやらないとな」
「…………そう、ですね…………」
「こいつがやられるなんて、いったいどんな蟲に…………」
隊長はそんなことを呟く。だが、呟くと同時に、何かを悟ったように顔をあげた。そして、私に何か言おうとした。
しかし、胴体と離れつつあった首では、私に何も伝えることはできなかった。
「だって、トップエースだもんね」
そんなことを呟き、私は目を閉じる。もう、何も見る必要はない。
「いつか、また会えたら喧嘩の仲直りしようね」
――あっちで待っててくれたらいいのになぁ……
そんなことを考えながら、私の意識は途絶えた――
――VEMSTER――
三題噺
鬼門
魔法学
解剖
の3つのお題で書きました。