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都市伝説エトセトラ ハニーファニーランデブー  作者: 入羽瑞己
もじもじくんとくねくねちゃん
20/30

もじもじくんとくねくねちゃん④


 ――★★★――


「なぁ……道中になんかいたか? それか、変なものを見たとか」

「なんだよ、信彦ー、びびってんのか? なーんも、怖いもんはなかったぜ!」

「何言ってんのよ。行き帰りでビクビクして一向に私の手、離そうとしなかったくせに」

「ばっ! そ、それはだな……」

「怖かったんでしょ」

 信彦が帰ってきた連中に聞き込みをやってくれている。反応は様々だが……概ね「青春の一ページを刻んだ」といったものが殆どだ。惚気にも近いような反応を返す脳天気な若者ばかりがあふれる中、出発予定の時間は刻々と迫ってくる。

 行かないという選択肢――。

 その選択をするためには理由がいる。企画が始まる寸前まで怖がっていた周りを茶化し、煽っていたのに、いざ自分の番が始まる時には怖くて前へ進めない。いくら何でもそれは許されない。

 何か明確な問題があるならば、その選択に対して寛容な態度を示してくれる同輩も多いだろう。だが如何せん、何の問題もないどころか、終わりには仲良く手を繋いで「楽しかった」「良かった」などと笑顔で帰ってくる連中の前で、「問題がある!」と声高に主張することはどれだけ意味がないことだろうか。

 “戻ってくる”タイミングがもう少し早ければ、いたずらに周りを刺激しないどころか、体調不良のふりをすることだってできたはずだ。自分の力でどうこうできる問題ではないが、開始の一声を止められなかったのが悔やまれる。

「帰ってくる連中から異常はなし。一応、十組目以降の連中にも気を付けるよう伝えたが……あんまり意味ないだろうな」

 意味がない。それは気を付けても対処のしようがないという意味か――はたまた、気を付けようにもその対象が元から存在しないという意味か。

 ふと目を移すと、十組目が肩を寄せ合って帰ってくるのが見える。どうやら肝試しの道中親交を深めたようで、少し離れた位置からでも明らかに距離感が縮まっているのがわかる。

 その様子を見てか、あるいは別の要因からか。信彦は安心したような、あるいは半ば楽しそうな表情を浮かべている。私の話を聞いて、もしかするとどこかでそういった異形との邂逅を楽しみにしているのかもしれない。それか、異形と戦って私のことを守ることで株が上がる、なんていう妄想でも浮かべているか。

 しかし、信彦の少し高揚している表情とはうって変わって、私の表情は晴れない。これから先には地獄のような展開が待っていると言うのに、どうして楽しそうな表情なんて浮かべられようか。

「つかさ、大丈夫か?」

「………………あぁ」

 力無い返事を返す。そんな中、十組目が笑顔で、

「お化けなんていなかったぜー」

「えー、でも怖かったー」

 などと言って帰ってくるのを尻目に、私たちは出発することになった。

「………………」

「………………」

 お互い無言で歩いていく。

 こういうときはむしろ、話でもしなければ落ち着かない。

「そういえば、十組目の連中に十一組目と十二組目とすれ違ったか聞けば良かったな」

 などと、今更どうしようもない話でもしようかと思ったが、そんなことを今言って、「戻って聞いてみよう」なんて言われてもたまらないと思って口を開くのをやめた。しかしながら、黙って歩いていると、手や額から冷や汗とも脂汗ともとれる汗がしきりに滴るばかりである。

「………………」

「………………っておい!? なな、なんのつもりだ」

「たまには手を繋ぐくらいいいだろうに。幼馴染みで水くさい」

「そ、そそれは、だなぁ……」

 信彦の手が私の手を捕まえる。突然の出来事に、どうにも情けない反応を示すことしかできない私がいた。

 手は汗だらけだったし、こんな恥ずかしい真似はしたくなかったが、信彦が手を繋いでくれて動揺する気持ちとほっとする気持ちが私の中で混在していた。手を繋ぐくらい昔に何度も造作なくやったことでも、この状況でやられると慌ててしまうらしい。……いや、それは立場次第で誰でもか。

「あんまりにも怖がってたようじゃ、何でもかんでも化け物に見えてしまうぞ、つかさ」

「わ、私はちゃんと白い何かを見たんだ!」

「じゃあ、白い怪物がいない今は手を繋いでやる必要はないな」

「そ、それとこれとは――っ」

 刹那――信彦の足が止まる。手を繋いでいたものだから、数寸先を進んでいた私も、つまずきそうになりながら足を止める。

「お、おい。急に止まるな」

「見ろ。……いや、見ない方がいいか?」

「はぁ?」

 直立不動でそんなことを言う信彦の視線の先に目を移すと、そこには二つの白い何かが見えた。その時は「あぁ、出てきた! やばい」なんて、一瞬思っただけだったが……しかし、その白い何かを正確に捉えた時、私の気持ちは「こんなはずじゃなかったのに」と表すのが正しい。

「なん……で……?」

「おー、委員長。もう最終の出発か。早いもんだなぁ、全く」

「あーあ、どうせなら私が信彦くんとペアが良かったのにー」

「…………『無事』確認だな」

「…………ああ」

 そこには、それぞれ懐中電灯を手にして、手を繋いだ十一組目の姿があった――。

「あ、なんだ信彦、その言い方ー」

「なになに、私たちがラブストーリーは突然にしちゃうと思ったの? ないよー、それはないー。ちゃんと今回も気を付けてたしー」

「え、あれ、そういう意味だったの? まじかよ、てっきり幽霊の類が出るかもってことだと思ってたぜ、信彦」

「いや、何もないならそれでいい。まぁ、幽霊なんかが見えたら教えてくれ」

 「いねーよ、そんなもん」「見えるっていうなら目の前に連れてきて欲しいよー」などと言いながら、十一組目は集会所の方へ戻っていった。

 普段の私なら彼らと同じような反応を示したことだろう。しかしながら、「幽霊」と言えるものでないにしろ、よくわからない異形を目にした経験があると、一笑に付すなんてことはなかなかできない。「目の前に連れてきて欲しい」なんて言うが、それこそ目の前に連れてきたら彼女は信じざるを得なくなるのだろう。

「……一回見たら、信じようという気持ちにもなる」

「俺は信じてるぞ、つかさ」

「私に気を遣ってくれるな。……十一組目は無事だったし、きっと私の言ってることなんて戯れ言やまやかしにしか聞こえないだろうな」

「そんなことないさ。俺はずっと信じてたし。…………まぁ、今度こそ無事に終われるなら、それに越したことはないさ」

「……そうだな」

 そう言って、私たちはまた歩みを進めていく。手はぴったりと繋いだまま。

 しばらく無言だったが、手を繋ぐようになってからは随分と気持ちが楽になった。一歩一歩進む度に周りの光景が気になっていたさっきまでとはうって変わって、余裕を持って周りを見ることができている。

 気持ちに余裕ができた今度は、中間地点の地蔵くらいから降りてこちらに向かってくる二つの光が、十二組目の持つ懐中電灯によるものであることを理解することができた。

「おう、信彦ぉ! もうこんなところまで来てたのか」

「だぁー、茂。離れろ。歩きづらいったらない」

 目の前の二人は手を繋ぐとかそういったものでは飽きたらず、片方が腰にだきついて歩いているようだった。なるほど、歩きづらいのはもっともだと思ったし――こんなに周りが肝試しを楽しんでいる中、自分だけがびくついているのが段々と馬鹿らしくなってきた。

「そんなこと言うなよな、隼人。あたしだって人並みの女の子なんだ、怖いもんは怖い」

「ウソつけ、どの口が言う。前回お預け食らったから、張り切ってるだけだろ」

「怖いのはマジだってぇ、隼人ー」

「相変わらず仲良いな、お前ら」

 本当にそうだ。イチャイチャとかそういうのではなく、どちらかというと兄弟とか、やんちゃな友達とかそんな雰囲気。こんな明るい雰囲気の中、私まで真似して信彦に抱きつこうとは思わないが、なんとなく手を繋ぐところから腕くらいは組んでみたくなる。流石に誰かに見られている前だと恥ずかしいので、二人と別れた後に、だが。

「まぁ、俺たちは信彦が言うようなものは何も見てないが……まぁ、その、なんだ。ちゃんと帰ってこられるといいな」

 そう言って十二組目も十一組目と同様に集会所の方へ足を向けていった。

 そして後には私たち二人だけが残され、再び折り返しとなる中間地点へと歩みを進めだした。

「……化け物や幽霊なんていないさ。少なくとも、ここには」

「ふふっ、どうしたんだ、急に」

 ふと呟いた私に、信彦は小さく笑いを返す。

 そりゃ、あれだけビクビクしていた人間が突然そんなことを言い出したら笑われても仕方ないかもしれないが、本来私はそういったものは信じないタイプの人間だ。あんな暢気な連中とばかりすれ違って、そんなところに幽霊なんて場違いも良いところだ……なんて考えると、自然とそんな言葉も出てくるだろうに。

「わ、笑うことないだろ! すれ違った連中を見てると、化け物におびえてるのが馬鹿らしくなっただけだ」

「ははは、そうか。いつものつかさが戻ってきてくれて嬉しいよ」

「別に、私はお前に嬉しがってもらわれても嬉しくない」

 信彦は良い笑顔を見せる。そして、つられて私も少し膨れて笑顔になる。……始めからこんな肝試しだったら良かったんだ。

 みんなが日常から非日常へと少しだけ足を踏み込む。非日常って言っても、それは化け物とか幽霊とか、そんな怪異や都市伝説が関わってくるようなものじゃなくて。

 いつもと少し違った日常――いつもは喧嘩したり、特別仲が良いわけでもなかったりする男女が、この機会に少しだけいつもと違ったことをする。足並みをそろえて、得意でもない雑談をして、時には身体を触れ合わせる。そして非日常が終われば、その非日常の記憶をほんの少しだけもって日常に戻っていく。肝試しの非日常なんて、それが本当の意味で日常から乖離したものだったら、それは非日常なんていう生やさしい言葉じゃなくて、きっと「異常」や「怪奇」なんていう言葉を当てはめなくてはいけなくなるんだ。

「こういうのは名残惜しいと思える内が華だ。楽しくなってきたところで、中間地点までさっさと行くぞ」

「あ……うん、そうだな!」

 中間地点――。

 十一組目も十二組目も無事だった。誰も変なものも見ていない。きっと大丈夫。

 壊れた地蔵なんてない。そう思って私は足を進めたはずだった。

「………………あれ?」

 そこにあったのは私が期待する光景ではなかった――。

「どうした、つかさ」

「祠……?」

 そこには祠があった。いや、正確には“祠しかなかった”と言うべきか。

「祠だけ……?」

「いや、よく見てみろ。ちゃんとくじはある」

 信彦に言われて見てみると、祠の端っこにポツンとブリキ缶が置いてある。そして、ブリキ缶の中には二つ折りにされた紙のくじが一枚入っていた。

「いや、そうじゃなくて。その……地蔵は……?」

「……そんなものは元からない」

「元からないわけないだろうに。第一、地蔵を目印に決めたのはお前だったじゃないか」

 地蔵がない。それは私の記憶が怪しいのか?

 本当に元からないのなら、肝試し開始当初から錯乱して、またおかしなことを言ってる様を信彦に見せていることになる。しかし、地蔵のある無しに関する記憶は昨日今日のものではない。地蔵の状態に関する記憶がたとえ多少曖昧だったとしても、地蔵そのものがないなんていうのはあまりに納得がいかない。

「そうだったか? だが、現実としてないだろ? 別に怖いものがあるわけでもないし、それで良いじゃないか。さっさとくじをもって帰ろうぜ」

「それはそうだが……信彦。お前何か隠してないか?」

 私は信彦に対して組むように繋いでいた手を離す。そして信彦の顔を見る。

 その顔はいつもの信彦だった。そう――いつも隠し事をするときに、不自然なくらい平静を保とうとするその表情は。

「隠すもなにもなぁ……。別に隠し事があるわけでもないが、とにかく戻ろうぜ。長居は無用だ」

「やけに急かすじゃないか」

「そりゃ、お前は白い化け物が怖いんだろ? 俺だってそんなのがいるなら遭遇するのはごめんだ。なら、さっさと帰った方が良いだろ?」

「もっともらしいことを言うんだな。本当にそういったものに会うのが怖いなら、いつものお前だったら中二病よろしく大層大げさに言うはずだ。それをさも常人のようなセリフで私を納得させにかかろうというのだから、おかしいことこのうえない」

「おいおい、まるで普通のことを言って変人扱いか? それはないぜ」

「らしくないからな」

 私の言葉に信彦は言葉を詰まらせる。そして、その口は何かを呟いている。

「――つかさを――――のか、俺は」

 断片的に聞き取れたその言葉には、私は自分が含まれていることしかきちんとはわからない。ただ、その言葉があまり良いニュアンスを含んでいるようには思えなかった。

「信彦?」

「あぁ、すまん! そ、そうだよな。いやぁ、結構これでも無理してるんだぜ、俺。だけど、あんまり格好悪いとこ、つかさに見せたくないじゃないか」

 その顔は努めて平静だった。いや、むしろ明るくあろうとすらしていた。

 しかし、先ほどとはうって変わって、その顔には焦りにも似た表情が浮かんでいる。顔の表情は不自然に緊張し、言葉は少し震えている。

 ――そんな顔をされたら、思い出しちゃうじゃないか。

 嫌なイメージが頭によぎり、それを消すため目線を一度下におろす。

(今回はおかしなことなんて地蔵がないくらいしかないじゃないか。何を怖がってるんだ、私は)

 そう思ってぎゅっと目を閉じる。大丈夫だ。今回は、ちゃんと肝試しを終えられる。

「……つかさ?」

 「あぁ、大丈夫だ、問題ない」と言って顔を上げようとしたとき、それは私の視界に入ってしまった。ここまでこんなにも順風満帆で来たのに、それは突然私に突きつけられる。

「白い……」

『早クミンナノトコロニ行コウ、つかさァ』

「い……」

 電子音が頭の中で直接響く――

「いやぁあああああああああああああああ!」

 その時、既に大声をあげて駆けだしていた。

 そして私の足は、再び命を落とした山の奥へと向かっていた――。

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