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都市伝説エトセトラ ハニーファニーランデブー  作者: 入羽瑞己
口と酒は女にとって災いの元かもしれない
13/30

口と酒は女にとって災いの元かもしれない①

 最近物騒になった。最近は実に物騒になった。

 何でも子どもを狙った変質者が現れるらしい。それも小学生ぐらいの男子が特によく狙われるようだ。

 幸いにも私はとっくに成人した女子であるため……っと、自分で言っていてなんだが、成人したにも関わらず自分のことを「女子」というのは苦しくないだろうか。

 常々思うのだが、もう子供を自称できるような年齢ではない。かといって自分のことを「女性」「女」と言ってしまうのも、生々しい感じがして抵抗があるし、「淑女」などというのも自分で言えるような代名詞ではないだろう。

 結局「女子」を自称する他無いのかもしれないが……それでも違和感は拭えない。というか、下手したら子供を連れているような年齢である。結婚適齢期やら、出産適齢期やら……そんな社会が決めた賞味期限(・・・・)と照らし合わせて考えると、私はギリギリの年齢であろう。三十代が目前に迫り、素敵な出会いもないまま日々を過ごし、賞味期限が切れるのを待つばかりの身である。

 いつまでも賞味期限が切れることはないだろうと悠長に構えていたら、気付いたらとっくに賞味期限など年単位で過ぎてて、まだ食べられるまだ食べられると主張しているが、結局ゴミ箱に捨てられてしまうバターと同じような存在になりかけている。有塩バターはまだ使ってもらえる機会も多いため、賞味期限切れの現実に直面することも少ないかもしれないが……無塩バターなど悲惨である。ふとケーキでも焼こうかと高い金を出して買ってみるが、結局はそのケーキを作るために使われて終わり。半分以上を残したまま殆どがその役目を終える。

 一ヶ月に数回お菓子を作るような家庭に購入されたのなら、まだ全てを使い切ってもらえる可能性がないでもない。しかし、数ヶ月に一回ともなるとむごったらしい現実が待っているのみだ。ケーキを焼こうかと思ったパティシエは、冷蔵庫に無塩バターがあることなどいつのまにか忘れていて、新しい無塩バターを高い金を出してまた買ってくる。冷蔵庫に眠っていた無塩バターは賞味期限が少ししか切れていないことをなんとか主張しようとするが、若々しい魅力を放つ新参無塩バターの魅力に敵うはずもなく、「まだ食べられるのに……」という言葉にならない無念さを抱えつつ、ただ汚らしいゴミ箱にボッシュートされる。

 なるほど、女の世界の賞味期限もそっくりだと思う。

 自分を魅力的に見せようと、皆こぞって化粧をし、着飾り、時には形さえ整えてしまう。そういった様々な添加物を纏った女は、本来の味など疾うにわからぬ状態でも、色々なところに上手に出荷されていく。結局中身が安物でも、味さえ良ければ売れるのだ。まぁ、世の殿方は味の経年劣化に大きく後悔することになるというのは常々言われる話だが……。

 稀に、無添加を好む消費者もいる。ただプラトニックな(甘い)お菓子が食べたいだけの消費者は、まるで飾っていない女を選ぼうとする。まるで飾っていないので、味など素材の善し悪しで全てが決まる。高級食材は素材そのものの味が旨いため余計な味付けをしなくても良いと言われ、そのままでも上等な値で取引されるというが……おそらくその通りなのだろう。

 逆に、素材が悪く、味付けもろくにしていない女は絶望的である。不味いことは分かりきっているため、そんなものに手を出そうとするのは一種の特殊な趣向を持つ人種のみである。そんな人種、絶対数が多いわけがないので、結局そんな女たちはただ売れ残っていく。そして、腐って――バターなど最初から腐っているようなものだが――やがて誰にも目をあてられない場所に捨てられていく。

 私はどちらかというと無塩バターなのだろうと思うが……バター自身に自らの素材の善し悪しなどわかるはずもなく……おそらく現在売れ残っている現状を考えると、そんなに良い素材ではないのだろう。

 着飾れば……などと思ったことがないわけでもないが、そんな資金があるわけでもない。着飾るにしても、良い装飾をしようと思えばそれなりにお金がかかるのだ。そんなお金を捻出できるほど、今の私には余裕はない。

 ……などと話が逸れた。

 とりあえず、私は小学生でも何でもないため、おそらく不審者に目をつけられることなどあり得ないだろう。聞くところによると不審者は丁度私くらいの年齢の女性で、夏なのに大きなマスクと赤い大きなトレンチコートを着用、時には鎌をコートの中に隠し持ってるとかなんとか。もう言うまでもなく不審者である。ロングコートを着用して、女子小学生の面前でバッと自分の矮小な愚息を見せびらかそうとする変態であれば、ギャーと叫び声を上げた後に渾身の蹴り上げで潰してやることもできるのかもしれないが……如何せん相手は女性で、しかもコートの内側から出てくるのがリトルボーイではなく鎌という立派な凶器とあれば、流石にどうすることもできないだろう。

 とりあえず夏場にマスクに赤いコートは遠目から見ても明らかに不審者だとわかり、大人の我々からしてみればまず好んで近付こうなどと思わない。……しかし、そこは小学生。危機管理の甘さか、あるいは小学生特有の好奇心からか、近寄っていってしまうのだろうか。おそらくその純真たる彼らの気持ちにつけ込んで、ショタコン変質者は彼らを執拗に追い回そうとしているのだろう。実に不純である。

 聞くところによると、その変質者は帰宅途中や塾に向かう途中の小学生男子を捕まえて、唐突に「あたし、キレイ?」などと問いかけるそうだ。もうこんな台詞を発している時点で、統合失調症などの精神疾患を抱えている人か、あるいは、そんなことを言って「キレイですよ」と世辞を言ってもらえることでしか自分を保てないイタイ(・・・)人なのだろう、ということは容易に想像できる。まずもって変人そのものであり、その発言が発せられた段階で世の小学生は無視を決め込み一目散に逃げるべきであるのだろうが……最近の子供というものは存外優しいらしく、律儀に立ち止まってそんな妄言を聞いてあげて、一応は「キレイですよ」と答えてあげるらしい。マスクで口元が見えない状態――目元だけを見ると相当な美人らしいとは聞くが、それでも本音にしても世辞にしても、見ず知らずの不審者に大人な対応ができる小学生は凄いと思う。

 だが、その後の変質者の対応が酷い。「これでもぉおおおおおお!!」と言ってマスクを取った顔を見せつけるのだ。何でも、口に特異な特徴のあるおぞましい顔面を。

 小学生が怯えることを分かりきった上でやっていると思わざるを得ない。よもや「それでもキレイですぅうううううう!!」などという回答を期待しているわけではあるまい。「キレイですと言わなかったから襲う」などというお花畑理論を展開するために、そいつはわざとやっているのに違いない。異常者極まりないとはこのことである。

 にしても、これは流石に尾ヒレがついた噂に過ぎないと思うが……何でもそいつは、百メートルを六秒フラットで走ることが出来るらしい。時速60kmで駆け抜けられる存在は全人類の中で最も速いのは言うまでもなく、それほどの実力があるなら小学生に構ってないで陸上の大会にでも出ればいいのにと割と本気で思う。しかも、ごわごわしたトレンチコートを着てその速度を出してくるのである。万全の体勢で臨めば、ともすれば亀仙人の五秒六のタイムにも迫れるのではないか。

 もし本当にできるならば――そいつに追われる小学生の気持ちはさておき――人類の宝として持て囃されるだろう。『陸上界に舞い降りた女神』というキャッチコピーで売り出され、顔にいかなるコンプレックスがあっても一定期間は「神々しい!」などと言ってもらえるに違いないのに……それをしないとは所詮変質者、どうやら頭が弱いらしい。ともすれば善意ある誰かがお金を出してくれて、顔の特異な特徴を取り除いてくれるかもしれないのに……などと思っても仕方がないのだが。

 頭が弱いといえば、そいつはべっこう飴に弱いらしい。べっこう飴を見ると我を忘れて(常に我を忘れているような気がしないでもないが)、拾い食いをしてしまうらしい。一旦地面に落ちたものだろうが泥が付いていようがお構いなく口に入れてしまうらしい。だから、逃げる際にはべっこう飴をそこらに散りばめらせれば、そいつはべっこう飴に興味が移り逃げ切ることができるようになるらしい。

 だが小学生も酷なもので……妙に悪戯好きで負けん気の強い男子が、変質者にやられっぱなしを良しとするわけもなく。時に、即効性の強力な下剤を混ぜたべっこう飴をそいつに投げつけたらしい。泥が付いててもお構いなしなのだから、下剤にも気付かないで食べるだろう、一泡ふかしてやろうという魂胆が彼らにはあった。

 ある種待ち望んだ邂逅を遂げた彼らは、一旦必死にそいつから逃げる素振りを見せ(といっても本気の形相で逃げたのだろうが)、下剤をばらまいた。限度を知らない彼らがばらまいた下剤入りべっこう飴は、数にして百。

 どうやらそいつは高いところには登れないらしいという情報を既に手にしていた悪ガキ共は、道がよく見える家の二階に避難し、そいつの食事を眺めたらしい。一つ、また一つと、一つずつではあるが手早く回収していき、十分もかからない内に全てのべっこう飴を処理し終えたそいつに、激烈な腹痛が襲う。

 いくら普段から汚いものを食べているとはいえ、今回は下剤入りを百だ。通常の感覚では、べっこう飴を百個食べることを想像するだけで胸焼けがして気持ち悪くなりそうなものだが……洗脳されているが様相、ある種の義務感にも似た覚悟をもって、そいつはやり遂げたのだ。途中からは「好きだけど、もういらない……」なんて思っていたかもしれない。

 いくら好きな食べ物でも限度を超えた量を提供されれば嫌になる。もうちょっと食べたいけど打ち止め! というくらいが、一番幸せな気持ちになれるのだ。限りない自由の中では人間は幸せを享受できず、制限付きの自由の中でやっと、人間は幸せの価値を見い出せるのだ。

 もう嫌々食べきったであろうべっこう飴が、今度は身体の中から攻撃を開始する。完食して解放されたはずなのに、依然としてべっこう飴はそいつに対して猛威を振るい続ける。

 下剤は泥やゴミとは違う。明確な便意をもって、かの者に腹痛を催させるのだ。お腹を壊すかもしれない泥やゴミと、お腹を壊させるためにある下剤とは、そもそも格段に威力が違うのだ。

 そいつは、かつて無いほどの腹痛に苦しんだ。次から次へと襲い来る便意に堪え続けた。そのあまりの激烈さに、もう二度と拾い食いなどするものかと誓ったかもしれない。ガキ共が寄越した得体の知れない物ではなく、今度からは自分でべっこう飴を買おう、知らない人から食べ物をもらうのはやめよう、と後悔したかもしれない。

 しかし、何もかもが遅い。そんなことを考えてる間にも、そいつの身体を下剤の成分が容赦なく襲い続けているのだ。

 ただ、そいつは涙を流した。一滴二滴ではない。だらだらと、だらだらだらだらと、涙を流し続けたのだ。あまりの苦痛を、その女はうずくまって涙で表現することしかできなかったのだ。

 これには流石に、悪戯好きなガキ共も困惑した。

「おいおい、女の人泣かせちゃったよ」

「あーあ、泣ーかせた! せんせーに言ってやろ」

「流石にやりすぎたんじゃねぇか」

「おい、お前が提案したんだろ」

「ち、ちょ! お前らだって大賛成だったじゃねぇか」

「警察行かれたらどうする……?」

「こ、こんなつもりじゃなかったんだよぉ!」

「でもよぉ、流石に女の人泣かせちゃうのはまずいわ。謝りに行こうぜ」

「ば、馬鹿! 行ったら殺されっぞ」

「でも、泣かせちゃったわけだし…………お詫びに下剤混ざってないべっこう飴持ってってあげよ?」

「………………………………しゃあなし、だぞ」

 などというやりとりを経て、案外可愛い声を上げて泣いているそいつに、ガキ共はべっこう飴を持っていったらしい。逆襲にでもあったらどうするつもりなんだと思うが、小学生の頭ではそんなことを考える余裕もなく。ただ大人の女性を泣かせてしまった罪悪感に堪えきれず、動くことしかできなかったようだ。

「さっきは、ごめんなさい。やりすぎました。これ、お詫びです」

 と主犯格がべっこう飴を持って寄り添ってみたが、そいつはそれを見るや否や子猫のような怯えた表情を見せ、首を横にぶんぶん振って、一目散に逃げていったという。

 それ以来、べっこう飴をそいつは拾い食いすることもなくなり、「べっこう飴をばらまく」という対処法で逃げることはできなくなったらしい。

 で、どのような対処法が流行ったかというと……

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口さけ女が狙っていたのは小学生男子だけって事は下剤入りべっこう飴を与えたのは男子ですか?
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