最後の希望
ユウマが長々と語る回です。目はお大事に。
「なんだ?居たのか、弟よ。練度上がってね?」
「まあ、兄さんにも気付かれないのならばマシになった方ですね。盗み聞きして申し訳ないです。申し訳ついでに、兄さんにはご退室願いたい。」
兄、リメークが「…?そうかい、分かったよ。」と少しの沈黙があったが申し出を受け入れ、部屋から出ていったのを見ると「さて、」とモヤンは続ける。
「ユウマさん、ここからは僕から説明しますね。兄さんは伝えるのが不器用なもので」
「…ああ、分かった。頼むモヤン。」
「どうやら、今は変なあだ名を付ける余裕もないご様子ですね。では、まずアラムについて軽く話をしましょうか。」
ユウマは無言になり、話を聞く姿勢をとった。
「現在、クラリム島に封印されているアラムは2代目です。」
「は?待て、それはおかしいだろ。質問だ。」
話を聞く姿勢を取ったのにも拘らず、聞き捨てならない言葉が聞こえた。
モヤンは食い付いてきたユウマに「どうぞ」と自分の掌をユウマに見せた。
「今が2代目ってことは1代目は誰が…?そして初代が子を産んだってことはもう一体居るはずだろうが。」
「1つ目の問いに答えますと初代のアラムは今から100年ほど前、『ガルズ』という名の剣士により倒されたと伝承されてます。兄が正しくは2人と言ったのはそういう事です。」
「剣士に?それじゃあ勇者の力は無くても倒せるんじゃ…俺要らなくね?」
「いえ、ガルズ様は勇者の力も持ち合わせた剣士だったらしいです。」
「成程な。勇者の器も持ってて更に剣も扱える人物が100年前にも居たのか。多分『天元の剣』もガルズが扱っていた剣か。それで、どうして2代目は生まれた?そしてもう1体はどうしてるんだ。」
「2代目アラムは卵から産まれました。初代アラムが密かに産んでいたのでしょう。それとユウマさんはもう1体居るはずだ、と考えているようですが生憎、それは間違いです。」
「どう、いう?」
「アラムは『魔獣』です。動物や人間とは何もかもが違います。別次元の生き物、と考えてもらうのが1番かと。アイツは1匹だけで、パートナー無しでも卵を産めます。」
「…!それじゃあ2代目のアラムにも卵を産まれたらキリが無いじゃねえか。倒したところでまた…」
「いえ、2代目アラムはユウマさんの前の勇者様の功績で幸い弱っている。なのでいくら魔獣と言えど卵を産む体力は無い筈です。」
ユウマはそうか、良かった。と胸をなで下ろした。それを見てモヤンは「話を移しますが」と繋ぐ。
「王女様は治す事がほぼ不可能な病にかかっています。しかしながら、1つだけ治す方法があります。それは…」
「……アラムを倒す、か?」
「ご明察。先ほど触れたガルズ様の娘さんがログメル王女様と同じ病を患っていたんです。ガルズ様はどうしようもなかったので、ある賭けに出ました。倒したアラムの一部を剥ぎ取り、薬の材料として使う様に医師に頼んだそうです。数日後、その薬を飲んだ娘さんは徐々に回復し、3日後には完治したと。」
「それは偉い賭けに出たな…つまりはアラムの体はその病を治す薬の素だったと…なんか上手く繋がってんな。てかテンプレじゃね?」
「てんぷれ…は良くわかりませんが、アラムの体に関してはその通りです。兄の『倒さなければならない。』という言葉の意味が説明する前よりはお分かりになられたかと。貴方が最後の希望なんです。どうかアラムを倒して王女様を…お願いします。」
「モヤりんちょ」
「はい?どうされました?」
「俺がいつ、諦めたと思った?」
「……それは…」
「図星、か。とんだ弱虫扱いされてたみたいだな。俺はお前に言われる前から誓ってたよ。その魔獣ぶっ倒してやろうって。まあさっきまでは少しだけ、ほんの少し絶望してたのは事実だ。あんなに元気そうに、可愛らしく笑っていたログメルが実は病気で、しかもあと少しで亡くなるって聞かされた時は。」
ユウマは「でもな、」と続ける。
「お前が話してくれた。アラムを倒せばログメルの命を救えるんだってな。生憎、諦めるなんて選択肢は俺には元から無いよ。ログメルと契約を結んだから仕方なく、じゃないからな?契約する前から、ログメルにこの世界の状況を聞いてから、だ。契約なんて無くても逃げる気は全く無かった。…勿論、返り討ちにあってそのまま死ぬ気もな? だからお前らは安心して俺のサポートをしてくれ。俺は剣も、勇者の力も完璧に扱えるようになって…そうだな。初代アラムを倒したガルズよりも強くなって!さっさと魔獣ぶっ倒して王国ログメルの人達全員を、王女ログメルを心から笑わせてやる。分かったか?…あ、喋りすぎて喉が痛いたすけて」
「…理解が追い付きません。貴方は…ユウマさんはどうしてこの国を、王女様を、他人を…そこまで助けてあげようと思えるんですか…」
「どうしてって、決まってんだろ?」
モヤンは次の言葉を待つ。
「宮殿まで歩いてみて分かったけどな、この世界の人達は無理に笑顔を作ってんだ。無理矢理にでも笑顔を作って、恐怖を誤魔化そうと必死だ。乾いた笑顔を俺は見たくない。怯えて暮らしながらの作り笑顔よりも、怯える必要が無くなって幸せそうに笑う本物の笑顔を俺は見たい。そして何より、お前らはこの俺に、勇者様に助けを求めた。俺はそれに応えたい。これまでの勇者の無念も、俺が果たす。この国を覆った見えない暗闇を取り除いてやんよ。」
文字で見ると恰好付けてるように見えるが、実際は喋り過ぎた関係で声が掠れている。そういば今までこんなに喋ることが無かった。喉弱い。
だが、モヤンはそんな事はお構い無しに首を振る。年齢に見合った仕草で何度も、何度も頷く。そしていつもの大人びた心を捨てて、ただ純粋な思いをユウマに言った。
「王女様の目に狂いは無かったみたいですね。お願いします、アラムを。この国を。そして王女様の生命を。本当に…お願いします。」
「言われなくてもやる気満々だよ。勇者様の成長ぶり見とけよ?モヤ太郎」
ログメルと契約を結んだ時のように、ニッコリと笑った。
ログメルと契約を結ぶ前よりも語ってますね…。
ドベちゃんは語りt(ry やめときます