勇者の力
食事を終え、それぞれが自分の時間を過ごしていた。ユウマも自室へ向かおうと思った矢先。
「おいドベ、ちょっと良いか?」
「呼び方ドベで定着してんのかよ。あ、俺もモヤンに色んなあだ名付けてるから言えた口じゃねえか。で、どったの?」
「お前、多分もう『勇者の力』使えるぞ。自覚はしてねえみたいだけどな。そして自覚してねぇってことは制御の仕方も分からないだろ?受けた俺には分かるんだよ。」
急に告げられた事が理解できない。そもそも、何故リメークが使えるか使えないか見分けることができるのだろう。
「え…」
リメークは「ただ、」と続け、
「ドベの力はまだ荒削りだ。おまけに発動条件も分かってないんだろ?最初の実験体が俺で良かったな。」
「…最初のって…初対面の時か?お前、まさかそれが分かってて俺に『闘え』って言ったのかよ。図体でかいくせに」
「バーカ。図体は関係ねえし俺はそんなに鋭くもねえよ。そもそもあの時はお前の事を勇者だと思っちゃいなかったしな。だがお前の一撃を受けた後、自分の掌を見て流石の俺でも気付いちまった。」
「それで?お前の掌はどうなってるんだ?」
「なーに、軽い火傷状態になっただけだ。しかしだな…」
「軽い火傷状態…か。悪いな。あ、ごめん。続けて?」
「うん、この程度で済んだのは偶然だな。」
「いまお前うん…なんでもない。そうか、もし俺の『勇者の力』が暴発したらお前は吹き飛んでいたかもしれないのか。ったく、我ながらすげえ力だな。」
危うく下ネタを言いそうになったが、真面目な話の途中だと言う事で制止した。
「吹き飛んでいた、で済んでたらまだマシなほうだぜ?」
ユウマはその言葉の意味が理解出来ず、首を傾げる。
「お前の力があの時もし暴発していたたら俺は多分、全身粉々になって灰になってただろうよ。想像するだけでも恐ろしいがな…」
「なっ…」
ユウマは言葉を失っていた。ログメルに強大な力を感じた、とは言われたがまさかそこまで破壊力のある力を自分が持っていたとは思いもしなかったからだ。そしてもう1つ、言葉を失った理由があった。ユウマは気付いてしまったのだ。
「ア…アラム…は…」
「あん?」
「俺が倒すと約束したアラムは、この『勇者の力』が無ければ倒せない程のバケモノなのか…?」
「はあ?お前…今更気付いたのかよ。俺らだけでどうにか出来てたら封印なんかしないでとっくに倒してるさ。それに、だ。これまでの勇者はただ1人…いや、正しくは2人かな?それを除いて皆アラムに敗れてきた。さあ、事の重大さが分かってきたか?」
「ん?待てよ。『2人を除いて』?意味が分からねえ。だったら今のアラムは?」
「ありゃ、もう1人は相討ちか。いや、それも違うな…」
リメークの遠回しの言い方に嫌気がさし少し怒り口調で
「焦らすなよリメーク、さっさと言え。」
と言うと、リメークは「おお、すまん。」と謝罪をした後に咳払いをし、話を始めた。
「アラムに立ち向かったある勇者は、自分が持つ『勇者の器』の限界を超えて力を出した。その勇者はその場で倒れ、途切れ途切れにこう言ったんだ。」
『俺はもう…力を出し切った。いや、出し尽くした…かな。だがアイツは仕留められなかったよ。バケモノだ。クソったれ…良いか、お前ら…これはチャンスだ…アラムは弱ってる。今ならお前らでも…アイツを封印する事ぐらいは出来るはずだ。俺が倒したかったが…力が足りなかったな。残念だが次の勇者に託す…今まで…ありが…とうな。』
「直後、勇者は力尽きた。そして彼が言った『次の勇者』 それがお前だ。ユウマ。」
「…俺に…倒せるのか…?」
「倒せるのかじゃない。お前は倒さなければならない。」
いつもユウマの前ではふざけていたリメークが神妙な面持ちになっていた。
「…何か意味ありげだな。続きを。」
「王女は。」
「…」
「この国の王女。ログメル様は。」
「まさか…」
何故か察しがついてしまった。
「あと1年経たないうちに」
リメークは途切れ途切れにログメルの状態を告げようとしている。
「待て、心の準」
「お亡くなりになる。」
「び…」
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色々な事をリメークに告げられ、冗談抜きでメンタルが壊れそうだと言うのに思わぬ追い打ちを受けた。そんな時、今まで全く気配を感じなかったのだが、ユウマの背後から
「希望はまだありますよ。全く、兄さんは意地悪だ。」と、モヤンが現れた。