闘いの中で
街人に案内を頼み何とか宮殿に着いたユウマ。入口には若い、そして筋肉質の迫力ある門番が立ち構えていた。
「門番の兄ちゃんこーんちわー」
「……?誰だお前は。立ち去れ。」
「お前それ理不尽過ぎだろうが。俺はここの王女さんに呼ばれて来た勇者様だけど?」
門番はユウマの身体を観察し、少し考えている様子だった。
「ふむ。嘘は言っていない様だが…お前めっちゃ弱そう。本当に勇者?」
「うわ…その一言で傷ついたよ俺。本気でメンタルブレイクしたわ……」
「成程。怪しいな。そもそもメンタルブレイクって何だよ。」
「ああ、こっちでは通じないのか。いやそれより、本当だって!ログメル王女さんに聞けば分かるよ。」
元居た世界の言葉が通じない事に優馬は歯痒さを感じた。 そして門番に更に疑いを掛けられたことにも。
「しかし、スパイの可能性もあるからな。俺にも門番としての責任がある。…そうだ。俺と闘って勝ったら王女様の所へ案内してやるよ」
「話が見えねえな。なんでスパイから闘いの話になったんだよ」
好戦的な門番なのだろうか。それとも勇者の器を持つユウマを試そうとしているのだろうか。
「良いからほら、闘うぞ。そういえばお前の名前は?」
「悪いが俺は前から言ってみたかった事を言わせてもらうぞ。人に名前を聞く時は自分から名乗りやがれ!!!」
声を張り上げ、挑発するように門番に指を指した。
「おう、俺はリメークだ。ほらさっさとお前も名乗れ」
「俺様の挑発を軽くスルーとは中々のやり手だな…リメークか、宜しくな。俺は戸部優馬だ。ユウマって呼んでくれ。」
「了解だドベくん、バトルを始めよう。」
「いやドベくんって…うん。まあ好きな様に呼んでくれよ。で、どう闘うの?素手?それともお前が持ってる剣?できれば剣では闘いたくないんだが…てかそれ納めろよ。」
銀色に輝く刀身。そして鋭い矛先。おそらく位の高い者に与えられる剣だろう。 その剣の刀身をなぜ鞘にしまわないのかは分からないが多分威嚇のためだ。
「お前がこれでやり合いたいってなら別だが…俺は客人に怪我させたくねえからな。素手でやろうぜ。」
「冷静なツッコミ入れるけど素手でも怪我はするしそもそも闘いなんかしなけりゃ怪我しねえぞ?」
「細かい事は気にすんな。前置きが長くなったな。じゃあ…始めるぞ。」
リメークの迫力が増した。次の瞬間…目にも留まらぬ速さでリメークが蹴りを繰り出した。真空の刃が生まれユウマの肌を掠った。ユウマの肌にはいつの間にか傷が出来ていた。
「ちょ…おま…お前…少しは加減ってもんをだな?」
「ああ?物足りねえくらいだぞ?」
「これで物足りないってお前どんだけ強いんだよ…まあ良い。俺は故郷で空手っていうのを習ってたんだ。次はこっちから行くぞ。セイ!」
ユウマは掛け声を出し、渾身の一撃を繰り出した。その攻撃は常人が喰らえばかなりダメージを受ける程にスピードと重さがあった。リメークの堅そうな腹に直撃…したと思ったがリメークが片手で受け止めていた。
「ドベ、お前…舐めてんの?そんなんで勇者名乗る気かよ。」
「は?お前の手舐めてやろうか?今からベロに唾いっぱい染み込ませてやるから待ってろ。クチュクチュ…」
煽り口調のユウマには応じず、ため息をついている。リメークは失望しかけている様子だ。だが、自分の掌にある異変が生じている事に気付いた。
「…! クク…」
「ん?なに?俺の唾そんなに待ち望んでるの?楽しみなの?Mなの?」
「気付いていない…か。お前は面白い奴だな。俺は充分満足したよ。王女様の元へ連れて行ってやる。」
「…?うん、まあなんか分かんねえけど認めてくれたみたいで助かるよ。じゃ、案内頼むぞ。リメーク。」
「あ、ドベ。俺と居る時間短くしちゃって悪いけど案内はもう1人の門番のモヤンがやるから」
「やっぱその呼び方止めて!?あと別にお前と一緒の時間大切にしてねえよ…てかモヤンくん影薄!いつから居たの!?」
「…騒がしい方ですね。僕は影が薄い訳ではなく気配を消す事に優れているだけですよ。さあ、行きましょう」
モヤンはため息をつくとユウマに付いてくる様に言った。
一方、リメークは門の前に戻ると自分の掌を見た。そしてニヤリと笑い
「荒削り…だが、賭けてみる価値はあるな。」
とボソリと言った。
前よりは長く出来たかな…次話も宜しくですU-○ω○)