終話~Fifteen years later~
寄せては返す波の音が、体中を包んでいく。そこに時折混じる子供特有の甲高い笑い声に愛おしさを感じながら、俺は水面に反射する夕陽に目を細めた。
「……響、寒くない?」
「そんなこと言うなら、お前こそ寒くないか?結構薄着だろ」
暦の上では春で、桜も咲いたとはいえまだ四月。夕暮れ時の砂浜で黙っているのは冷えるだろう。そろそろ、引き上げ時か。
「……利香、そろそろ引き上げるか?」
砂浜と道路の境目に作られたブロックに腰掛けた利香は、波打ち際で走り回る三人の子供へと目を向け、ゆっくりと首を横に振った。
「まだもう少し良いんじゃないかな」
「そうか。なら、そうしとくか」
利香の隣へと腰を下ろし、子供たちを見つめる楓を間に座らせる。
「……私も久しぶりに利香に会ったから、もう少し話をしたい」
「そうだね。思い出話でもしようか」
その声に、今までの思い出が次々に頭を過ぎる。そのどれもが、色褪せてもなおアルバムの中で輝いていた。
「……大学入って、利香とまた話ができるようになった事とか?」
「そう。私が二人の結婚式で泣いちゃったこととか」
「その後昔は好きだったとか言い出して大変だっただろ」
「そんなこともあったね。三人で色々でかけて、響君が私の彼氏に怒られたりとか」
利香と再び関わったのは、大学二年生の頃だっただろうか。アドレス帳の中でうずもれていた番号から電話がかかってきて、楓と二人で通っていた中学校近くの喫茶店に来て欲しいと言われたときは、飛び上がるほど嬉しかった。楓なんかは涙を見せたほどだ。
その後から少しずつ関わりが増えて、様々に出かけたり遊んだり。昔のように無邪気にとは行かなかったけれど、十分すぎるほど楽しかった。
そして、俺たちの関係が様々に変化したあの秋から十五年以上経った今、あの時感じた痛みや苦しみ、喜び、そんなものまでも思い出として語り合えるようになっている。それは、あの時願い、誓った、果てしなく遠い道のりの先の解決策だ。そこに到達できた事は、僥倖以外の何物でもないことを、俺は今まで生きてきて知った。
「……ねーパパー!?」
「どうした?真衣」
波打ち際から俺たちの座るブロックまで、パタパタと駆け戻ってきた長女、真衣が俺の脚に抱きつく。少し砂の混じったその髪を撫でながら、出来るだけ優しい表情で尋ねた。
「一緒に遊ぼー?」
「そうだな、少しくらいなら良いか」
「ママもー!」
「はいはい、分かったよ」
「あー!じゃあお母さんも来てー!」
真衣の動向を見ていたのだろう、利香の長男である遼も、波を避けて走りながら叫ぶ。思い出に浸る静かな雰囲気から一転、騒がしくなった世界に少し飽きれながらも、真衣に手を引かれるがまま小走りに駆け出した。




