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お話があります

 部屋に流れる音楽が俺の携帯が奏でる着信報告であることに気づくまで、約三十秒を要した。

 それほどまでに聞きなれないものであり、それが特定の人物からの着信専用に設定されたものであることに思い至るまでさらに時間がかかるほど、久しぶりに聞いたものだった。

 ディスプレイに表示された名前は利香。そうだった。この音楽は利香からの電話だけに設定したものだった。これを最後に聞いたのはきっと、春休みだった気がする。後は全部メールとか、直接会って話してたし。

 まあ、記憶を引っ張り出しているうちに利香が諦めてしまうと元も子も無い。一応ルールとして居間から出て、ずいぶんと寒い廊下を歩きながら通話を始める。

「……もしもし」

〈あ、響君?〉

「この状況で俺以外が出たら怖いな」

当たり前な返答にわざわざ突っ込んだだ俺がおかしかったのか、利香が声を絞って笑う。

 〈……それでね〉

一通り笑った後、収まらないのか震えた声で、利香はその件は最早終わったものとして話を進めてきた。もちろん、俺に異論など無いが。

〈今週の土曜日、というか明日、空いてる?〉

その言葉に、半ば無意識にカレンダーを探す。が、ここは廊下、壁にかかっているのは小さな鏡くらいだ。居間に戻ればあるのだが、ここからならどちらかと言えば自室の方が近いだろう。

「ちょっと待ってくれ」

 足早に廊下を通り抜け、自室のカレンダーを調べる。明日は十六日、予定は特に書き込まれていない。

「空いてるぞ」

〈……そっか……あのね、ちょっと付き合って欲しいんだ〉

そう言った利香の声音は、どこかしおらしい。引き込まれて、俺まで不思議な気分になりそうだ。

 妙な事を口走りそうな自分を抑えて、会話を続ける。心臓が、やたらとうるさかった。

「どうかしたのか?」

〈ちょっとね、話を聞いて欲しいの……ダメかな?〉

何でそんな事を俺に、と言いかけて、一週間ほど前の記憶が蘇る。天体観測に向かう途中、電車の中での会話だった。確かに、利香の話ならいつでも聞くと言った。利香はそれを覚えていたのだろう。記憶力が良いのか、たまたまか。どちらにせよ、利香の頼みを無下にするつもりは毛頭ない。

「ああ、良いぞ。どこか行くのか?」

〈あ、うんとね、中学校の近くに喫茶店が出来たんだよね。そこでいい?場所はメールするから〉

「分かった。何時頃だ?」

〈えっと、夕方の三時くらいでどう?〉

「ああ、じゃあそれで。また明日な」

〈うん、また明日〉

 通話が途切れ、画面が変わる。電源ボタンを一度押し、明日出かけることを告げに部屋を出た。

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