第7話#遥
「あんた料理上手いんだね。」
「え!?」
ものすごい勢いでオムライスを食べ終わった彼女が
唐突に言う。
「料理は好きで結構作るんで得意です!」
「自信満々だな。」
初めてあたしに見せた笑顔。
笑ってた方がかわいいのにな。
「誰もいないじゃん、家。」
「あ、いつも昼間はたいてい一人です。両親は共働きで、弟は学生だから・・」
「ふーん。そうなんだ。・・遥っていくつなの?歳。」
「な、なんであたしの名前??!」
「財布届けにくる為に免許書見た。」
「あ〜・・」
「佐藤 遥、歳は?」
「えと・・20歳です。み、蜜さんは?」
「蜜でいーよ。あたし24。アンタより4つも上。超ババアじゃん。」
「えっ!24?!あたしてっきりもう30手前ぐらいかと思ってた!」
「お前、失礼なやつだな・・」
彼女はあたしの言葉に驚いて髪をクシャっとかいた。
いつもはテレビやワイドショーしか映らない芸能人があたしの前で、
あたしの作ったオムライスを食べて、あたしとフツーに喋ってる。
なんかこの出来事があまりにも当たり前みたいな気がして実感がわかない・・・。
「ちょっと付き合ってほしいとこあんだけど。」
さっきまでのんきに喋っていた彼女が急にまじめな顔をする。
「どこ行くの?」
「初恋の人んとこ。」
外は風が冷たくまだ7時にもなっていないのに辺りは真っ暗。
あたしんちを一足出たところで蜜は深呼吸を1回した。
初恋の人のとこって言ってたけど、
こんな突然、芸能人が行ったりしていいのかな。
しかも何にもかんけーないあたしまでついてっちゃって・・
蜜はあたしより身長も高くて、歩く幅も大きい。
蜜の4歩後ろから早歩きで着いて行くあたしを
彼女は時々振り返って微笑む。
何も会話はなかったけど、すごく優しい空間があった。
「あのっ・・!まだですかっ!?もう結構歩いてるよ!」
「息、切れてやんの。お前もうちょっと体力つけた方がいいぜ?」
またイタズラした男の子みたいにニカッと笑って見せる。
今まで笑った所を見た事をなかったあたしは動揺する。
「着いた。ここ。」
家を出てからひたすら30分近くは歩いただろう。
やっと彼女の長い足は止まってくれた。
見上げてみるとそこにはきれいな3階立ての新築アパートがたっていた。
「たしかここの2階。」
アパートの下にある集合ポストを確認する。
「あった。201、坂下。」
「ほんとに行くんですか!?大丈夫なのっ??」
「だいじょぶだろ。あんたは心配しなくていいよ。」
「で、でも・・」
コツコツッと蜜のブーツが階段を上る。
あたしは何も言わないまま着いて行くだけしかできない。
201号室。
ピンポーン・・・
中からこっちに向かう足音が聞こえる。
そんな事なんておかまいなしに彼女はドアに鍵がかかってない事を確認すると、
何のためらいもなくドアを開けた。
まさか勝手に自分の家のドアを開けられようとは思っていなかったのだろう。
そこの居住者らしき男の人は、自分が玄関に辿り着く前に開いていたドアを
びっくりしながら見つめていた。
「み、蜜・・・?」
「よ。」
その人はこの現状が理解できていないように、目を大きく見開いていた。
彼女はそれでもいつもどうり落ち着いた様子で彼の事を見ている。
家の奥からヒョコッと顔を出してこちらを覗いてる人が二人いた。
若い男の人と、女の人。
女の人は晩ごはんでも作ってたのだろう、エプロンをしている。
「ど、どうしたんだよ。いきなり。」
「別に。元気かなーと思っ・・」
蜜の言葉は止まり、家の奥から覗いている女の人を見ていた。
「あ、今みんなで飯食ってて・・彼女のサクラと友達の真智。」
「彼女・・?」
「ああ。」
一瞬凍ったような蜜の表情。
なに?どうしたの??
「わっ!!なんで?本物のワールドエンドだ!どーゆー事?センパイ!」
もう一人、奥から覗いていた男の人が興奮した感じで近づいてくる。
「なんかわかんねーけど、よかったらお前も一緒に食うか?
後ろの可愛い子も。」
「・・帰るぞ、遥」
「へっ??」
「どーぞ彼女とお幸せにな。結婚式にはでねーから。」
蜜があたしの手を引っ張る。
あたしはぽかんとしてたもんだから、いきなり手を引っ張られて危うく転びそうになった。
「ちょっ・・!蜜!おいっ!なんか話があったんじゃねーのかよっ・・蜜っ!!!」
彼女が初恋の相手と言った相手が大声で引き止めるけど、
蜜は聞かず、早足で来た道を戻る。
途中蜜が小さな声で呟いた。
「バカだな、あたし。なにやってんだか・・」
その人のアパートが見えなくなっても蜜はあたしの手をつかんだままだった。
つかまれた手はびっくりするほど冷たくて
儚げで、小さかった。
今日は天気が悪くて月が見えない。
あたしの横にいる蜜も
さっき来るときのように近くに感じられない。
肌寒いくらいになった気候の下で
蜜は震えていた。
それが寒さが原因かどうかはわかんないけど。
月が出てなくてよかった。
じゃないと、
月の明かりが彼女の顔を照らしちゃうから・・
今は彼女の顔は、見れない。
豪と蜜・・どうなるんでしょうか。
たぶん上手くはいかないでしょうが・・(暴露)
見守ってあげてください。