第6話#蓋
「蜜〜!蜜はどこ行ったんだ〜!」
テレビ局の廊下でマネージャーの叫び声が響き渡る。大橋チャンだ。
「大橋チャン、ご苦労さまだね。」
「蓋っ!蜜がどこ行ったのか聞いてないっ?!もうプロデユーサーとかみんな
カンカンなんだよっ!お、俺の首が危ないんだよ〜〜〜〜(泣)」
「呂氣!蜜の居場所とか検討つく?」
「さっぱりだな。アイツの行動はまったく理解できね〜もん。
てか蓋!見ろよ!俺さっき人気AV女優の理奈チャンからケー番教えてもらっちゃった〜。
マジ感動っっ!!」
「・・・・・呂氣、お前女なら誰でもいいのか。」
「うんっ!!テヘ(笑)」
呂氣はかなりの女好きで、メンバー1のプレイボーイだ。
金色に染めた短髪で顔の至る箇所にピアスがついている。
身長も高く、誰にでも優しく(特に女)、よく笑っているので
モテ度も高い。年下から年上まで気にいられている。
「音は??お前もわかんねーよな・・」
「蜜ちゃんって自分のこと話さないから〜。わかんない。」
「だよな・・・。それはそーとお前今日は一段とかわいいな。
女の蜜よりかわいいいなんてどーゆー事だよ。」
「蓋くん、今度俺のことそんないやらしい目で見たら俺バンド抜けるからね!」
「馬鹿、冗談だよ!」
このちっさい小僧は音。
自分では身長165以上はあるとか言ってっけどたぶん嘘。
どう見ても160あるかないかだ。男のくせに肌もきれいで目もでかい。
一見女の子と間違うほどだ。
でもそれを言うとかなり怒る。
「はー、どこ行ったんだろな。アイツ・・」
そしてこの男はリーダーの蓋。
メンバー全員が彼を頼りにしている。
いつもクールで穏やかでお姉さま方からモテる。
感情を表情に出さないので何を考えてるのか分からなくなる時もたまに・・
でもやっぱりみんなの「蓋」なのだ。
蜜が何も言わずに朝からいなくなった日は歌番組の収録日だった。
生放送なので後で編集するわけにもいかず、
ボーカルがいないバンドは出演しないことになった。
「なんか俺達、そーとー蜜に振り回されてね?」
「呂氣・・」
「だってアイツ、ボーカルだろ?アイツがいなきゃ俺達だけじゃ
テレビも出してもらえねーのが現実じゃん。
超人気バンドとか言われてるけどさ、結局人気なのは蜜だけだろ。」
「俺もそう思うかな・・蜜ちゃんには悪いけど・・」
「音・・・」
蜜のわがままの度がすぎると俺達はいつもこうなる。
壁にぶつかるっていうか・・まとまりがなくなる。
「まっ、しょうがねーじゃん!俺らももっとがんばろうぜ?・・なっ?」
「蓋・・・」
「蓋くん・・・」
蜜と俺達の出会いは高校生の時だった。
同じ学校の先輩、後輩だった呂氣と音。
二人とも軽音学部に入っていて、その頃からバンド活動はしていた。
俺は全然音楽に興味はなくて暇つぶしに行ったパンクライブも最初はつまらなかった。
飽きて帰ろうとしたその時に、
パンクライブな筈の会場にやさしい音色とバラードが耳に入ってきた。
ステージの上にはアコーステイックギターを膝に抱えて
マイクも使わず、地べたに座り込んで歌っている蜜がいた。
客はパンクライブ目当てに来ているもんだからブーイングが飛び交い
「ひっこめ!」コールが会場全体を包む。
マイクを使わず歌っている蜜の声は当然聞こえていない。
やがてライブハウスの中の客は飽きて帰り始めた。
でも俺はなかなかその姿から目を離すことが出来ず、その場に立ち尽くしていた。
俺のほかに客は2人・・
空っぽになったライブハウスにまた蜜の生声が戻ってくる。
目は閉じたまま、しゃがれた声のお前は一人歌い続けていた。
演奏が終わり、俺は拍手をしようとした。
その瞬間お前はいきなり立ち上がって持っていたギターを力いっぱい床に投げつけた。
何度も何度も・・
ギターが完全に壊れるのを見てお前は何も言わず去って行った。
呆然と見ていた俺に残りの客2人が話しかけてくる。
「なあっ!お前今あの子の事かっこいいと思ったよなっ?」
(なんだ?この顔面ピアスだらけの馬鹿丸出しな男は・・)
「絶対かっこいいと思ったはずだよ!ねえ!!?」
(お、男だったのか。この子。背もちっせーし喋らなかったら女と間違われるだろーな)
「お、おう。なんていうかオーラがすごかった・・」
俺は小さくつぶやいた。
「だろっ?一緒にバンドくもーぜ!!?お前顔いいから絶対ファンつくと思うんだ!」
ピアスの男がいきなり変なことを持ちかける。
「は?俺がバンド?!」
「うん!一緒にやろーよ!俺達、綾南高校でバンド組んでてギター探してたんだ!」
このちびっ子もピアスの仲間か・・・
「ちょっ・・待て。俺はギターなんかできねーぞ!」
「だいじょぶだよ!練習すれば誰でも弾けるよーになるからっ!」
そんなに簡単に弾けるわけねーだろ・・・
「おし!じゃあ決まりな!明日から早速練習開始だ!お前高校どこ?」
「芦屋だけど・・」
「お!なら俺らんトコと、ちけーじゃん!学校終わったらここのスタジオに来てくれ!」
「なにコレ」
ピアスがスタジオの宣伝が書いた紙を渡してきた。
「地図だよ!迷うといけねーし!」
「でもボーカルは?いんの?」
「さっきのあの子に決まってるじゃん!!あの子に俺達のバンドのボーカルになってもらう!話聞いてもらいに行こうよ!!」
そう言ってピアスの男とちびっ子は強引に俺をひっぱてステージの裏に行ったお前の後を追いかけていった。
その時掴まれた腕をふりほどこうと思えば簡単にできた。
「音楽なんか興味ねーし」って。
でも他に何にもすることもなかった。
まあ、いっかってノリで引き受けたあの頃はちょうど今から8年前・・
ピアスの男とちびっ子は今も俺と一緒にいる。
呂氣と音。
この二人がいなかったら今の俺はなかった。
なんとか蜜を説得して仲間に迎えいれたのはそれから1か月も後の事。
すでにこの頃から捻じ曲がっていた蜜はよく俺以外の2人とケンカをした。
まあ・・ケンカするほど仲がいいっていうし。うんうん。
音楽の方向性を話し合うと1秒もかからないうちに決まった。
「パンクバンドでいくにきまってんじゃん!!」
呂氣の一言。すかさず蜜が割って入る。
「パンクなんかだせーよ。そんなのこの世が終わってもやだ。」
「それだっ!世界の終わり・・・英語にするとワールドエンド。
これにしよーぜ!バンド名!」
呂氣は一度言い出したら絶対折れない。
蜜は愕然として、音は何気に気に入ったらしい。
だいたい呂氣と音は高校の時からつるんでいるのもあって考え方や趣味が似ている。
(見た目は正反対だが・・・)
俺は早く決まれば何でもよかった。
俺の青春時代がフラッシュバックする。
懐かしい思い出。
「アイツ、帰ってきたらたっぷり説教だな!」
そんな独り言を言いながら今日も蜜が戻ってくるのを待つのが
俺の役目。
実は大のビジュアル系好きな私。この話も私が前から書いてみたかったバンド内の友情アンド恋愛話・・。学生の頃はよくライブに行ってましたが社会人になってからは全くというほど縁がなくなってしまいました・・
あ〜〜〜〜〜!!ライブいきて〜〜〜〜〜っ!