第3話#再会
今日も暇だな〜・・・
最近は雨ばかり降っている。
図書館のカウンターに一人座って、降り続く雨のしずくをボーっと眺める。
住宅街にあるこの図書館はあまり知られてないせいか
めったに人が来ない。
その割に閉鎖もしなくて給料もなかなかいい。
人付き合いが苦手なあたしにとっては天国ともいえる。
「それにしてもあのワールドエンドとか言うバンドのボーカル、
報道とかで叩かれる訳がわかったわ。あの人、ほんっと最低!」
一人で文句を言っていると、図書館の入り口のドアが開いた。
「あ。いた。」
「!!?」
入ってきたのは今あたしが文句を言っていた帳本人だった。
「ワ、ワールドエンドのっ!」
「覚えてるよな?あんだけあたしに罵声あびさせたのに、
忘れたとは言わせねーよ。」
「なっ!!なんでっ?!」
あたし殺される!?
「この前のことはごめんなさいっ!!だっ、だから殺さないで〜!!!!」
「はあ〜??何言ってんだよ。コレ!忘れて行っただろ!」
差し出されたのは財布だった。
あの日、かなり激怒していたあたしはアヤちんに飲み物を買おうとしていて
財布を手に持っていた。
そこにあなたが現れてあんな事を言い出したもんだから
財布を近くのイスに置きっぱなしにしてそのまま忘れて帰ってしまったのだ。
気づいたのは帰りの電車の切符を買う時だったけど、
アレだけ周囲の目も気にせず大声で怒鳴った後に戻るのも気が引けて
アヤちんに電車賃を借りてしぶしぶ帰っていた。
(こーゆー事がよくあるあたしは、使おうと決めたときにしか大切なカードとかを財布に
いれないようにしていた。)
「心配しなくても何にも取ってねーから。てか取りに戻れよ。」
「えっ!でもなんでバイト先まで分かったの?」
「アンタんちに電話したらココ教えてくれた。」
「で、わざわざ!?芸能人なのにっ??」
「暇だったから。それにこの図書館、あたしの親父が経営してるから。」
「えっっっ!!!!???」
「アンタさっきからいちいち声でかいよ。」
あまりの突然な出来事に頭の中がグルグル回る。
まさかこの図書館を彼女のお父さんが経営してるなんて。
「全然人いないんだね、ここ。よくつぶれねーな。」
「あ、あの・・」
「なに?」
「ありがとう。」
「別に。」
そんなに悪い人じゃないのかもしれない。
わざわざ届けにきてくれるような人だもん。
より一層激しく降りだした雨音が静かな館内にこだまする。
彼女はあたしに財布を渡しても席を立とうとしない。
人気絶頂バンドのボーカルなのに、服装もTシャツにジーンズとシンプルな
格好で変装用のサングラスなどもしていなかった。
「戻んなくていいんですか?」
「戻ったってつまんないし。ココにいた方がマシ。」
「あの、なんで歌手になったんですか?・・・楽しくなさそうなのに。」
「アンタ結構ズバっと言うよね。」
「ご、ごめんなさい。」
「あたしは別になりたくて歌手になったんじゃない。
デビューもしたくなかった。でもメンバーがどうしてもやりたいっていうから。」
「は、はあ・・・」
「芸能界なんかアンタ達が思ってるような世界じゃない。
どこ行っても何してても監視されて、テレビ用に笑顔作んなきゃいけない。
自分らしくしてていいって言うからあたしはこのままの自分でテレビに出たら
バッシングとか中傷とかめんどくせー事になるし。最悪だよ。」
彼女はあごに手を付き、うつむいた。
「・・・あの!お腹すきません?」
「え?」
そう言って半ばあなたを強引に外に連れ出すと
さっきまでドシャ降りだった雨が嘘みたいに止んでいた。
どうせ誰もこないだろうと思って図書館を空けて足早に住宅街を駆け抜ける。
少し困った表情の彼女。でも手を離せなかったのは、
彼女の胸の奥に深い深い暗闇が見えたから。
蜜と遥の再会・・・。無理やり再会させました。
現実にはない事だとは思ったのですが・・まあ、これからもお付き合いください・・・