第1話#それぞれの日々
「うざいアンタ達に一言。嫌われて結構、なんとでも言え。」
大勢のレポーターとカメラ。
テレビに映った奇抜なメイクとファッションの出で立ちな彼女はそう言って
世間を騒がしていた。
暑い暑い夏の午後。
あたしはあなたを知ったんだ。
あたし、佐藤 遥<サトウ ハルカ>20歳。
都心から少し離れた場所にひっそり建ってある煉瓦造りの図書館でアルバイトしている。
「い、以上!ワールドエンド、ライブ直前の控え室前からの中継でしたっ。
スタジオに返します!」
「いや〜、鈴木さん。彼女の毒舌ぶりは相変わらずですね〜。」
「そっ、そうですね〜。今後も期待しましょう!でわ、続いては占いでーす。」
久しぶりのバイトがない日曜。
お昼過ぎまでさんざん寝まくったあたしは、リビングでせわしく鳴っていた報道番組を
なんとなく見ていた。
「ねーちゃん、寝すぎ。もう3時回ってんじゃん。」
「いーの!バイト今日ないし。」
弟の大地。18歳。専門学校生。
「ねえ大地、さっきからやってるこの報道なに?どこのチャンネルにしてもこればっか。」
「え”っ!!知らねーのかよ。最近デビューしたパンクバンド。」
「パンクバンド??」
「うん。演奏の時のパフォーマンスが超迫力!ボーカルもすげえべっぴんサン!
でもなんかテレビとか見てるとヤベーよ。」
「ヤバイって何が?」
「イッちゃってるもん。」
時計は夜9時をさしている。
真夏の夜は風がなく、呼吸がしにくい。
空は重く、真っ暗だ。
ライブが終わった会場からたくさんの人が出てきている。
泣いている子
興奮している子
怒っている子
怪我をしている子
いろんな人がぞろぞろ帰って行く。
「ライブ大盛況だったな!みんなお疲れっ。でも蜜のテレビインタビューは最悪!
マネージャーの俺が頭さげなきゃいけないんだからさ〜。頼むよ〜。」
「まあまあ、大橋チャン!今日のとこは大目に見てよ。」
「そうそう!ライブも成功したし。」
「蜜ちゃんのそーゆーとこがウリなんだし!ねえ蜜ちゃん」
「いやなんだからしょうがないじゃん。別にあたし好感度とか興味ないし。」
今世間を騒がしているパンクバンド。
WORLD END
ボーカル兼作詞担当、灰吹 蜜<ハイブキ ミツ>
ギター兼作曲担当、蓋<ガイ>・・・リーダー。まとめ役。
ベース担当、呂氣<ロキ>・・・無類の女好き。
ドラム担当、音<オン>・・・バンド内のマスコット。
紅一点の彼女率いるこのモンスターバンドがモノクロだった日本に
光を与えた。
あー、もう。
マスコミとか、テレビとか、取材とかクソくらえだ。
みんなうぜえよ。
だからメジャーデビューなんかしたくなかったんだ。
どこ行っても同じ喋り方するやつばっか。
たまには違うこと言えねえのかよ。
こんな世界、早く終わりがきたらいい。
こんな世界にあたしの居場所なんか・・・ない。
「はーい!真智くん!目線こっち。」
とあるスタジオでカメラのシャッター音が鳴り響いている。
「終了〜!!おつかれ!ポラ確認しといてね。」
「はい!おつかれっす。」
ふー。疲れた。足いてえ。
腹減ったなあ・・・よし!帰りは牛丼食って帰ろう!
外あちー、無風じゃん。
この暑さ異常だな。
「あっ、あの!読者モデルの真智クンですよねっ??」
「あ、そうです。」
「えっと・・・迷惑だとは思ったんですけど、これ差し入れですっ!」
「ありがとう!中身何?」
「クッキーです。」
「マジ?オレ甘いのすっごい好き!」
「ホントですか!?よかった〜!あ、あのじゃあ頑張ってくださいっ!
それじゃっ。し、失礼します!」
「えっ、あ!あの・・・」
足、はえ〜・・・。
「真智はモテんな〜。うらやましいったら。」
「先輩!見てたんなら声かけましょーよ。」
「わりっ。そんままファンの子お持ち帰りするか見たかったんだけど。
謙虚だな〜、真智クンは」
「先輩じゃないんだからそんな事しませんよ。」
「お〜??言うな、てめ。罰としてメシおごれ!行くぞっ!」
「なんすかソレ!?ちょっと待って下さいよ〜!」
オレ、和泉 真智<イズミ マチ>。23歳。
某有名雑誌の読者モデル兼、大学生。
ぶっちゃけ女にはモテる。この仕事のおかげもあって。
でもオレは女には興味がない。
ここまで言えばわかると思うが・・・
オレは・・・・
まあその辺はあえて伏せとこう。
オレの想い人は雑誌のトップモデルの豪<ゴウ>先輩。28歳。
まあ〜浮気癖はあるは、フラフラしてるは、風船みたいな人だけど
芯は硬くて、何でも自分が納得するまでとことんやる人だ。
オレの想いは絶対叶わないけど、先輩の側で友達としてやっていくだけでも幸せだ。
世の中のオレのかわいいファン達よ、スマン!!
「遥〜!こっちこっち!」
「アヤちん!久しぶり〜っ!!や〜変わってない〜!!あはは!」
「そこ笑うとこか!?早く入ろっ。あたしお腹ペコペコ!」
「うんっ!」
今日は高校時代の友達と久しぶりの再会をしている。
雑誌で取り上げられたりしているおしゃれカフェで夕ごはん。
「おいし〜〜!!幸せっ」
「ぷっ!遥って食べてる時の顔、かなりウケるよ」
「何でよ〜!アヤちんこそ変な顔だよ!」
「これは元々の顔じゃ、バカちん」
アヤちんは高校一年の時から、三年間ずっと同じクラスで
入学当時、クラスになかなか溶けこめなかったあたしに一番最初に声をかけてくれた。
人なつっこくて明るくて、オシャレさんな上に運動神経もスタイルも抜群っ!
おとなしかったあたしをいつも引っ張っていってくれた。
あたしの大切な親友。
「コレさ職場の先輩にもらったんだけど、遥一緒に行かない??」
「え?なーにー?」
「今話題のワールドエンドのツアーチケット。
なんか先輩達が仕事入れられて行けなくなっちゃたらしくて貰ったんだけど、
一人で行くのも寂しいしさ〜・・・」
「あ!知ってる!よくテレビ出てるよね?」
「そうそう!パンクバンドって苦手だけど、もったいないし。
タダで貰ったから行ってみない?」
あたしもパンクは興味ないな〜・・・
でもせっかくアヤちんが誘ってくれてるし・・タダならいっか!
「うん!行こうよ!もったいないもん」
「ほんと〜!?じゃあこの日空けといてね。また近くなったら連絡する!」
9月5日。
ちょうどバイトも運よく休みだった。
今思えばこれは神様が仕組んだ事だったのかな。
「なんかスゴイね!このバンドのファンみんな濃ゆいわ〜!
遥っ!!離れたら一貫の終わりだからねっ!どこに流されるかわかったもんじゃないよ」
「アヤちん〜あたしすでにギブかも〜。死ぬーーー」
ライブハウスは思いのほか狭くて、ぎっちぎちに客を入れてるから
前の人が足踏むわ、横の人の腕が当たるわ、後ろの人が押してくるわで
身動きが全くとれない。
熱気がすごい。
まるでサウナ状態だ。
まだライブは始まってないのに全身の毛穴という毛穴から汗が吹き出している。
体力がないあたしにはかなりツラい。
ダンっ・・
ドラムの音が鳴った。
それに続きベースとギターも入ってくる。
「ちょっと遥っ!メンバー全員イケメンじゃない!?」
「えっ??何?全然聞こえないよ〜!!」
アヤちんが隣で何か言ってるけど聞こえたのは最初のあたしを呼んだとこまで。
もう一度聞き返そうとしたその瞬間、オーディエンスが更に一気に増した。
「蜜ーーーーーーー!!!!!!!!」
小さな会場めいいっぱいに響く声。
彼女が現れた。
「てめえら、死ぬ気でついてこい。」
唖然としたあたしの目に映ってきたのは、
長い黒髪。
スラッとした手足。
真っ赤な口紅と、真っ赤なネイルカラー。
ハスキーすぎる声。
歌っているのか、叫んでいるのか分からない。
演奏が始まってまだ30分も経ってない時だった。
隣にいたはずのアヤちんが波に押されて隅の方にいったと思ったら
いきなり姿が消えた。
途端に暴動がおき始めた。
「アヤちんっ!!!!」
目まぐるしくライトが光ってみんな興奮状態になっている。
ベースの音が重く心臓に響く。
鼓膜が破れそうなくらい激しいドラムの金属音。
今にも倒れそうだ。
アヤちんの姿を確認した。
彼女は足元でうずくまっていた。
手で額を覆っている隙間から血が見えた。
「アヤちん!!ちょっとどいてっ!!!どいてっ!」
人並みを必死にかきわけてアヤちんがいる場所にたどり着く。
うるさく鳴り続いていた演奏が止まった。
「演奏聴かないやつは帰れ。やる気なくした。」
そう言って彼女は暴動が起きている方にマイクスタンドごと放り投げ
ステージの裏に歩いて行った。
みんな凍りついている。
静まりかえった会場にアナウンスが流れた。
「えー、ただ今乱闘がありまして負傷者が出ましたので演奏中止とさせていただきます。
申し訳ございませんがすみやかに退出してください。」
「なんだそれ!ふざけんな!」
「こっちは金払って見にきてんだ!まだ1時間もたってねーじゃん!」
「そうだそうだ!金返せー!!!」
ブーイングの嵐の中、ステージに彼女が戻ってきた。
「うるせえ!!こうなったのはてめーらのせいだろうがっ!!
消えうせろハゲ!二度とくんな。」
ライブハウスがもぬけの殻になった頃、たんかで運ばれたアヤちんは
ライブハウスの裏の医務室で手当てを受けていた。
アヤちんの横でケンカがおきてたらしく、巻き添えをくらってしまっていたのだ。
幸い怪我は額を少し切っただけで大事には至らなかった。
「アヤちん!!大丈夫?!」
「うん!全然平気!びっくりしたけど。」
「申し訳ございませんでしたっ!!!」
横で青ざめてひたすら謝っているのは彼女達のバンドのマネージャーさんだった。
奥からそれぞれバンドのメンバーが走って駆けつけた。
「大丈夫ですか!?」
「すみませんでした。警備の体制が甘かったばっかりに・・」
「血、とまりましたか??!」
改めて目の前にする4人のメンバーはみんなとてもきれいな顔立ちをしていた。
アヤちんは怪我の事なんかそっちのけで握手をしたり写真を撮ったりしている。
「なんだ。元気じゃん。」
ずっと後ろで腕組みをしていたボーカルが初めて口をひらく。
「蜜!なんだとはないだろう。俺らのライブで怪我させたんだ。謝れ。」
ギターの人が彼女をどなりつける。
この人がリーダーなのか・・・
「あの、私なら全然大丈夫ですんで!」
「ちょっとアヤちんっ・・」
「ホラ。大丈夫つってんだからいーじゃん。大体パンクバンドのライブなんだし、
こんぐらいの怪我でわーわー騒ぐなよ。その程度の怪我なら日常茶飯事なんだよ。」
「蜜!」
ギターの人が彼女の名前を呼ぶのとほぼ同時にあたしは怒鳴った。
「あやまって!」
「あ?」
自分でもびっくりした。
まさかあたしがこんな事言えるとは・・・
「小さい怪我で済んだからいいかもしれないけど、一歩間違ったら大怪我だったんだからっ!
自分のバンドのせいで負傷者が出たんだから謝るのは当然でしょ!!」
「遥っっ、あたしなら大丈夫だか・・」
止めるアヤちんの言葉を封じこめる。
「大丈夫なんかじゃない!!」
「・・・てめ、誰に言ってんのかわかってんのか」
鋭い目をあたしに向けて低い声で彼女が言う。
「あなたに言ってんの!!こんなバンド最低!いこ!アヤちん!」
「あっ、ちょっと待ってよ遥!すいませんでした!もう気にしないでください。
失礼します!・・・・・遥ー!!」
「クソが。あの女、ナメた口聞きやがって」
「蜜にあっこまで言える女の子がいたんだな。」
「蓋!!黙れ。」
「す、すいません・・」
「は〜また大変な事になったな〜。今からまたドッとマスコミが来るぞ!
みんな早く着替えてホテルに帰ろうっ!」
「ねー大橋チャン、オレ腹減った〜。」
「そんなのあとだー!!!」
初めまして、凛屡と申します。今回初めて小説を書いて見て改めて難しいなと思っています。
文章が気になる箇所もあると思いますが、どーぞ長い目で見てやってください。。。