試験
私達は無事、体育が終了し、Dクラスに戻ろうとしていたが、エドが何故か納得がいかないような顔をしていたので、声を掛けてみた。
そのままの不満げな顔をこちらへ向けて口を開く。
「いや、だってよ…本当にお前Dクラスな訳?俺と一緒なんてありえねぇだろと思ってな」
なんだ、そんな事か。
私はまだこの学園に来たばかりなのだから出来ようと出来まいと最初は誰でも原点からだろう。
「最初は誰だってDクラスなんでしょ?私今日転校してきたばかりなのよ?そんな一日で上に上がれるわけないでしょ?」
「ああ、そうか……そうかもな、あはははは」
苦笑いするエドに少々溜息を吐く私。
ストレス気味で倒れないだろうか…
「転校してきたばかりならよ、初回試験があるんじゃないのか?」
「初回試験?」
「ああ、まああれだよ。まだお前の情報取れてないから、どんなのか調べるんだろ?」
「そういう事ね、よく覚えておく」
「初回試験は俺らと同じ試験の時に同時に実施するらしいけど…あれ、俺ら試験いつだっけ?あれ…」
大丈夫かコイツ。
明らかにコイツ勉強不得意だなってわかるんだけど。
「勉強なんて滅びればいいのにな。どうやったら勉強好きになれるんだよ、絶対無理なんだけど」
「勉強好きな人なんてそうそう居ないわよ、私だって嫌いだし…苦手だし」
そうボソッと言えば、はぁ?とありえないだろうという表情で私を見てきた。彼はなんというか、感情がすぐに表情に出るから言葉はいらないような気がするのだが。
「お前に苦手なもんなんてあったのか?見た目からして全然弱点が無さそうだけどなあ」
「よく言われる」
容姿がそう見えるのか分からないが運動以外は結構苦手なものが多い。虫も案外嫌いだし、幽霊とかはもう絶対無理で…ようは臆病って事。
家系が家系だったからそう見えるだけなのかもしれないし。うーん、どうしたものか…と悩みどころだが、とりあえずDクラスに戻った。
エドはDクラスの教室の壊れかけの扉をガタガタしながらも開けて中に入ると、立ち止まった。驚いたように教室を見回し、動揺する。
「うおおおぉおお!?めっちゃ綺麗になってないか!?」
「うん、癒麗ちゃんが綺麗にしてくれたんだよ」
シロナがハイテンションなエドにそう言えば、「マジで?!」とやはりキョロキョロしながら嬉しそうな声を上げる。
先程からリアクションがオーバーなエドに私は、はぁ…と溜息を吐いた。
というかこのDクラスは綺麗好きとか掃除しようとかそういう人は居なかったのであろうか。あんだけ汚いのによくその空間に居られたな。寧ろそちらの方が尊敬する。
微妙な顔をしながら教室全体を見ているとふと、背後から声が掛かった。
「あれ?新入り?」
後ろを向けばエドと同じ朱色の髪が背中くらいまであるのか、三つ編みをしており、頭にはニット帽をしていて、目が透き通った青色をした私よりも20cm以上身長がありそうな青年が風船ガムを口に含みながら私を凝視していた。
やはり美形だ。この学園にブサイクという言葉は存在しないのではないかと甚だ疑問だ。
名前を言って挨拶をすれば、目がすでに座りかけていて、とても眠そうな声で、「へー、俺ジョレン=ベクターっつーんだ。まあ好きに呼んでくれ」と言い、下手に笑うとそのまま床に寝そべった。
寝そべった時に気付いたのか「なんか教室綺麗だな」と呟いていた。
個性的な人だな…と寝そべったジェレンを見ていて、先ほどの言葉に引っかかった。
え、あのホコリだらけの教室で寝てたの?と。普通ならありえないと言いたいが、Dクラスならありえそうだなと内心頷きながらもダンボールに座る。
言うまでもない、勉強をするのだ。
学力テストのためにも成績は良くしておかねばならない。というか此処にずっと居座るのは嫌と言うのが本音だ。
ダンボールに座って勉強というのがとても窮屈で集中が儘ならない状態で勉強をしているとリラが何してるの?と歩み寄って来て、横から覗きこんだ。書く手を止めずにつらつらと文字を目で追いながらも答える。
「勉強に決まってるでしょう。近々、私は初回試験なんだから頑張らないとこの窮屈な空間から抜け出せないじゃない」
「初回試験?んー、ああー、あったね…」
リラがそう言うと皆は急に黙り込んだ。いきなり静寂する教室に私は何かまずい事を言っただろうかと周りを見渡す。何か言葉を発しようと口を開けたそのときに、
『ああああああ!!!!!!』
一斉に皆は大声を上げてきた。
私はこの教室にいたら、いつか鼓膜が破れて耳が聞こえなくなりそうだ。きーんと耳鳴りのような現象が続く中、いきなり叫ばれて少々キレた。
「うるさいんだけど」
逆ギレしてみても効果は無い、ジェレン以外は真っ青にしながら慌てている。
ふと頭の中に浮かんだ。もしやと思い、ある事を問いかけて見た。
「もしかして、アンタ達もあるの?」
試験と付けくわえて言って見ると、ぎこちなく頷いていた。
完全に忘れてたんだな
そう思った。
というか絶対そうだ。
エドがそういえばそうだった!と今更ながらに思い出した表情をしたのを見て、私は再びため息を吐く。完全なる馬鹿だ、阿呆だコイツら。
というわけで、すっかり忘れていたお馬鹿集団、Dクラスの勉強会が始まりました。
「今月こそは点数取ってクラス上がるんだからァー!!」
「え?クラス上がるの?」
「新入りは知らねぇだろうよ」
面倒くさそうに言うジョレンにちょっとイラっときた。
どうやら、3月下旬とあって、試験と実技試験が同時に行われるらしい。実技試験は1ヶ月に一度行われ、試験は2ヶ月に一度行われる。私が通っていた学校と然程変わらないが、実技試験というのがどういうのかわからない。そして試験というのは、言うまでもなく知識を身につけ、理解してそれをペーパーテストでやるようなものであることは変わりないらしいが、どういう内容なのだろうか?と聞いてみれば、案外普通だった。
「えーと、Dクラスは魔法の性質と効果について…とその他、理数、文系科目と知識までが範囲だそうなんだけど…あぁー私無理かもです…」
シロナは頭を抱え、床に寝そべる。
初めから諦めてどうすると言いたいどころだが、それほど難しいのだろうか?
「申し訳ないんだけど、その試験範囲の資料は持ってる?」
「あぁ、俺試験やらねぇから貸してやるよ。つかいらね」
興味なさそうに呟き、立ち上がるジェレン。
コイツはDクラスに一生留まるつもりか?
「だってめんどくせぇじゃん」
そう言いながら鞄をあさっている。
適当すぎだろ。もうこの子将来諦めちゃってるよ。希望が全く見えないよ。お先真っ暗だよ。