無知な私
そして私は教室に招かれた。
見た部屋はというと…
「な…なにコレ…」
「え?何これって…教室?」
どこが教室じゃボケェイィィィイ!!と内心叫んだ。
流石に声に出すとマズい。私の視界の正確さからすると、ホコリまみれでボロボロである。
ボロいとは聞いていたがここまでボロいとは…
「ちょっといい?」
「なあにぃー?」
リラが返事をする。
この光景を目の当たりにしても微動だにしない彼女らはある意味素晴らしい。
前言撤回、綺麗好きの私にはこの部屋は意味をなさないことはありませんでした。
「これって、掃除をするのは禁止ではないよね?」
「うん、大丈夫だよ。でも家具は変えちゃ駄目らしいよ」
「分かった」
ダンボール箱や新聞紙生活だけではまだしも、ほこりだらけの中で生活するのは絶対嫌なので私は掃除を開始した。綺麗好き以前にこの環境に長時間居座るのは体に悪すぎる。
せっせっと手を動かし、モップや雑巾がけ、箒で埃溜まりを取り除いたりして、どんどん壁や床、寝床などは綺麗になり…ついに、ピカピカになりました。
「わあ!凄いね癒麗ちゃん!こんなピカピカに!」
「これはCクラスにも負けないくらいだね!」
「ただ掃除しただけでしょ?普通だったらこの位綺麗なはず…掃除してないだけだったんじゃないの?」
そう言った私の一言に二人は頷き、私は溜息を吐いた。
初日から大変だよ、これからが何だか遠くて頭が痛くなった。
「このクラスは二人しか居ないの?」
二人だけならばあまりにも悲しい話だ。
するとシロナは首を横に振った。
とりあえずまだ居たのかと安堵する。
「今体育の授業だと思うよ?私達は参加してないけど…もしかして行くの?」
体育は私の唯一の得意科目だ。
「それは行くに決まってるよ。私の取り柄は体育一筋だからね」
「えぇ…!?さ、流石アネキ!!」
「か…かっこいいわねっ!」
アネキは決定事項でした。
私が体育館に行くと言い出したら、リラ達は何故か動揺してたけど何でだろう?と疑問に思いながらも、私は体育館へと向かった。
「よっ!と」
ここが体育館か…
「広いな」
天井のライトが豆粒のようだ。
流石は地球とは規模が違うだけあるのか、体育館の広さは東京ドームにも劣らない。というか、それ以上…?
「おっ、お前噂の転校生か?」
テノールの綺麗な声がした方向を見ると、インナーを着た人が居て、先輩だろうかと疑問に思ったが、学生であのような服は見た事がない。
「先生でしょうか?」
「良く分かったな!よく生徒と間違えられるんだが…まあいい。俺は体育の先生だ。体育は選択授業なんだが…もしかしてやりたいのか?」
先生と一発で当ててもらってとても嬉しそうだ。
確かに見た目は先生というより生徒に近いかもしれない。顔が童顔だからかもしれないが、これは本人に言ったらトラウマものかもしれないので止めておこう。
「ええ、体育は好きなので…どういう事をやるんですか?」
「ま、まあ、色々あるんだが今はバスケットボールをやってるぞ。もしかしてやるのか?」
「はい」
なんでさっきからもしかしてって言ってるんだこの人は。さっきのリラ達の反応と同じだ。驚いたように、動揺して私を見ている。何故だかは知らないが…生憎バスケは得意分野だ。
「ところでお前、人間なんだろ?」
「そうですが…何か?」
「術式使えるのか?」
「えぇと…体育と関係あるんですか?」
「馬鹿っ、お前!術式は科目全般で使うんだぞ?」
体育で術式を使うのか?この学園は。
それは驚いた、というよりも想像出来なくて困る。バスケなんてボールをゴールに入れるだけなのにどうやったら術式を使う暇があるのか…と首を傾げる。
もしかしたらボール自体に術式を使って手で移動させず魔法でボールを移動させるのか?…いや、それはバスケじゃないな。とりあえず、どういうものなのか見る価値はある。
「そうなんですか?まあ、でもやってみる価値はあるでしょう?」
「…そこまでいうならやってみろ。恥かいても知らないぞー俺ー」
恥を掻くのは構わないが、この世界ではどういうスポーツが行われているのか、どういうことをやっているのかが知りたいだけだ。
というかやっぱりこの先生、生徒にしか見えなくなってきた。横目でニヤニヤと笑っている先生をひと睨みすると、ピシッと体が固まった先生。実にわかりやすい。
先程からバスケットボールをバウンドする音がする方へと目をやると、何人かでバスケをやっている人がいた。
―…まあ、普通な感じだな
特に見ている限りでは術式を使ったような様子は見られないが…というか自分は術式がどういうのとか知らなかった。無知だ。