006◇地域◇墓地の石垣、鈴鳴る踏切
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私はいつも、ゆっくりと歩きます。踏まないように。触れないように。
出来るだけ。
気を付けて歩きます。
真っ直ぐ歩いている振りをしているので、一度も触れないまま外出をする事は出来ません。
「おはよう♪」
私は、この道を通る事は余り有りません。開かずの踏切を渡れば、この道を通る事にはなりません。
ですが、開かずの踏切ですから、時には次の踏切に移動しなければなりません。
「お・は・よ・う♪」
「おはようございます。」
仕方なく、私はボソッと囁くように応えます。
墓地の石垣には、一組の男女がいつも腰掛けています。面倒なのは、彼らを無視すると、延々と着いて来る事です。
「何か云った?」
「ううん。どうして?」
不思議そうな友人の顔を、私はトボけて瞬きをして見つめます。
友人は首を捻りつつ、幻聴?とか呟いています。
墓地の二人の声は、時々他の人にも聴こえるのか、この墓地の前を通過すると。
見えない誰かに挨拶をされる……と云う、ベタな怪談が風評として流れています。
まあ、単なる事実ですけれど。
友人は、少し足を早めます。
けれど。踏切に近付くに連れて、足取りは重くなります。
それはそうでしょう。
開かずの踏切は、遮断機を越えない限りは、然したる危険は「滅多に」有りません。
ですが、コチラの踏切は。
リーン。
こうして。
リーン。シャンシャンシャン。
リーン。リーン。シャンシャンシャンシャン。
高く。澄んだ鈴の音が。怖いくらいキレイな鈴の音が。
海を目前とした河の堤防を左手に。右手は泥濘の手前の土手。
左の河を細く繋ぐ線路の、細く狭い路の延長に、小さな踏切が有る。
もうひとつ向こうの踏切は。
駅が有る。開かずの踏切も小さな駅だけど。何度も云うように、あそこは「滅多に」危険は無いのです。遮断機が上がるまで待てるなら大丈夫です。
でも、左手にひとつ。この踏切では鈴の音が誘う。もうひとつ、左手に進んだ駅は、少しだけ大きな駅で、人も居るのに。
駅のホームから「落ちる」人が多いのです。
この小さな踏切では、左右二つの踏切ほど「事故」は有りません。
でも、風評は一番多いかも知れない。
右手は背後に墓地。海側に大きな病院。
鈴の音と、病院から聴こえる悲鳴が。
この小さな踏切の恐怖を誘う。らしいです。
本当は、多分。
この細く短い路に、密集するアレらの所為だろうと思われます。
鈴の音と、悲鳴を。
より強く響かせる「空気」と化した「アレ」。
密集した、霊たち。
ヒンヤリと。時には生ぬるく。温度さえ変幻自在のアレらが。
その中心を通過する人の、三半規管を狂わせるのでしょう。
友人の顔色が、どんどん悪くなります。
触れる感触は、それはそれは厭なモノだから。
仕方ないでしょうね。
特に、私と一緒だと、何故か多いのも確かです。多分、私が一緒では無い時の「いつも」より、辛いだろうな……と思います。他人事だからどうでも良いし、私に何が出来る訳でも無いので、気付かない振りをします。
それでも。
「吐きそう………。」
「大丈夫?」
声に出されたら、仕方有りません。私は心配そうに彼女を見ました。
私自身は平気です。これらを「空気」「カスミ」と念じてるから、普通に厭な感じも無くすり抜けています。
日頃の努力の賜物と云うものですね。
踏切を越えて、嘆息しても。終わりません。
右手の開かずの踏切は、四本の線路が纏まるが故の「開かず」でもあるのです。
今の線路は二本。
後二本。
細い路の向こうに、線路が見えます。
因みに。
海側のほうが。
アレが多かったりします。
「………あ。」
私は、友人を見下ろして悩みます。
友人は、倒れてしまいました。
ここはやはり、救急車を呼ぶべきですかね?
ですが、あの踏切さえ越えれば、多分良くなるのですけれど。
緊急通信を、そんな事に使うのは抵抗が有ります。
ですが。
彼女がどうして倒れたか。
踏切を渡れば、回復するとか。
私は云う訳にもいきませんし。
仕方ないから、救急車を呼びました。
細い路ですから。
当然、救急車は入って来れません。
隊員の方には申し訳なく思いましたが、よく考えたら。
私が悪い訳でも無いですよね?
ちょっと。
ほんのちょっとだけ。
私の傍に、アレが沢山寄り付くだけで。
別に。
私自身が悪い訳では無い。
と。
思いたいのですが……ね。
無意識に、やはり申し訳ない気持ちになって。
妙に低姿勢な私が、そこに居た訳です。
面倒な体質ですよね。
ホント。
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