005◇渇望◇僕のゴハン
002の息子です。
最初に弁解しておきます。
これは。純粋に食餌なんです………。
一瞬18禁バージョン考えた私が云える台詞では有りませんが……( ノД`)…
違うの。そんなキャラとは違うの。
☆☆☆
可愛いなあ。
と。そう思った。
真っ赤になって、俯いたところも。気合いを入れて顔を上げ、僕を見つめるキラキラした瞳も。
その造作自体が可愛いから、どんな表情をしても、どんな仕草をしても、可愛いと思う。
「好きっ!」
嬉しい。
本当に、嬉しくて。僕は泣きたくなった。
何でかな。何で僕は、ココで頷いたらイケないのかな。
嬉しいと、素直に、正直に。
どうして。
云ったらイケないんだろう。
「みつきくんが、好き。ずっと好きだったの。」
勢いに任せて、ちょっと怒鳴るような口調が一転して。
囁くような、甘い口調に変わった。少し、舌足らずなところも。ベタに可愛い。
ベタと云えば、呼び出されたココも。
本校舎の裏とか云う。
ベタベタな場所で、ベタベタな美少女から。
世の男共に呪い殺されそうな、可愛い告白。
頷かないとか。
莫迦じゃないの?って思う。
「ゴメンね?」
僕は莫迦だった。本当に、何で。頷いたらイケないんだろう。
でも、解ってるんだ。
頷く方が………莫迦だと僕は考えてる。本当に。莫迦だ。
彼女の瞳を見つめ乍ら、僕は葛藤を繰り返していた。
「………っ。」
不思議そうな眼差し。驚いた表情。何か云おうとして、唇を咬んで俯いた。
次に………上げられた顔は、少し無理が垣間見える笑顔。
そんな表情さえ。
彼女は可愛い。
愛しさに胸がつまる。
「やだな。恥ずかしい。私………OK貰えるとばかり考えて。好かれてるとか、勘違い……して。」
震える声が、愛しい。
抱きしめたくて、僕は自制心を総動員しなければならない。
「みつきくんは、………っ、思わせ振りな事なんか、一度もっ云わなかったし、……しなかった……のに、ね。」
無理して、笑って。
でも。
大きな瞳から泪が零れた。
思わず、手が伸びた。
抱き寄せて、抱きしめて。
一瞬。理性が飛びそうになる。
いや。理性は既に飛んでる。抱きしめてどうする!?でも、我に返って離れようとしたら。
「待って!」
しがみつかれた。
悲痛な声が。
哭いてる声が。
「もう少しだけ………っ誤解なんかっしないから!お願いっ!!」
小さく叫んだ。
僕は、身動き出来なくなった。
せめて。
これくらいなら……と。
甘い薫りと、柔らかい感触に耐えた。
彼女は、自分がどんな危険に晒されているかも知らない。知らないまま、僕の胸で泣く。
嗚咽する彼女を、もう僕は抱きしめない。
離れてくれと……念じ続け。
その拷問を、享受した。
彼女が、勘違いしたのは当然だ。僕は、確かに頷かない。彼女を好きだなんて、口が裂けても云わない。
でも………僕は彼女が好きだ。
どうしようもなく、彼女が好きだ。
だから、多分。
彼女は本能で気付いたんだ。
だから。
これは、罰なんだと思う。
苦しくて、辛くて、理性が揺らぐ。
抱きしめたい。その甘く芳しい薫りを、思うさま嗅ぎたい。吐息を奪い、深く口付け、柔らかい肌を探り、味わいたくて堪らない。
その血を啜り、肉を味わい、骨を噛み砕き………そんな妄想が、止まらなくなる。
何で、頷いたらイケないんだろう。
最初のゴハンは、彼女が良かった。それは僕らの本能で、当たり前の話なのに。
何で僕は「ゴメンね」とか云って、今も我慢して。
せっかくの獲物を………逃がそうとしてるんだろう。
僕は……莫迦だ。
本能を忘れて、莫迦な真似をしている。
自覚してるのに。
それを改める気にもならない。
そんな莫迦な真似をせず、本能に従うほうが莫迦だとも考えてる。
僕のなかで、矛盾した二つの声がする。
「ゴメン……ね。明日は、ちゃんと、笑って……挨拶するからね?」
赤い瞳をした獲物が、ようやく落ち着いて、グシグシと手のひらで目をこすり乍ら云う。
そんな仕草も可愛い。
狙ってやってるんじゃねえのか?狂暴な本能が理性を押し退けて、顔を覗かせる。
誘われてる。誘惑されている。
甘い薫り。柔らかい肉が………。
僕の理性を融かそうとする。
僕は、拳を握りこみ。
歯を食いしばる。
気付かれぬように。
深く、静かに呼吸する。
彼女が立ち去った時には、もはや疲労困憊の態だった。
「ふうん?振っちゃうんだ?」
びっくりした。
いつから覗いてたのか。
裏山の茂みから、クラスメイトが顔を出した。
「わりい。見ちゃった。」
少年は、悪びれなく僕のほうに近付き乍ら続ける。
「でも、最初にココに来たのは俺だからな?別に覗きに来たんじゃなくて、お前らが………どうした?」
無防備な獲物が。
不思議そうに、見上げるように、僕の笑みを覗き込む。女の子だったら、もっと良かったんだけど。
僕はそう思い乍ら、彼を抱き寄せた。
せめて、可愛い少年で良かった。
「ゴメンね?」
もう我慢出来なかった。
コレが、丁度来てくれたのは、本当に、本当に、僥倖……と云うモノだろうね。
「お………おい?なに……を!?」
喉に。
噛みついた。
ゴリリ……と、骨が砕ける。吹き出る血を、そのまま喉を鳴らして呑んだ。
結構……美味しい。
彼女ほどでは無いだろうけど。
と、逃した獲物を惜しむ気持ちと。他の食事でも満足出来そうな自分に安堵する気持ちが交差する。
女の子なら、もっと良かったんだけど。
そう思うのは仕方ないけれど、可愛い顔をしてるし、結構美味しいし。
贅沢は云えないよな……とも考える。
ヒューヒューと微かな吐息を感じ、力無い……抵抗にすらならないが、確かに動いた手足を感じ、まだ生きているのかと驚いた。
「………」
微かに唇が震えている。蒼白と云って良い顔色は、多分貧血の所為だろうか?少し、嬉しくて、僕は彼に口付けた。
「甘い……。」
吐息が、甘い。やはり、生きているほうが、美味しい。本能が望むまま、深く口付け、その舌を噛み切った。弾力が面白い食感で、僕は陶然とする。喉から噴き出す血は、既にダラダラと流れるだけだ。クプクプコポリ……少年の口元から奇妙な水音がする。
ギリギリで命を引き止める事に成功して、僕は満足の吐息を漏らす。
「本当に、君が来てくれて良かった。」
美味しいし、それなりに可愛いし。女の子よりは固いかも知れないが、少年の肉はオスに成りきらない柔らかさがある。癖の無い清潔な薫り。甘い肉。
「女の子、知らないんだね?」
生臭くない、キレイな肉。
まるで、丁寧に育てた牧場のお肉みたいだ。
うちの一族は、最初はハントするのが掟のひとつだから。
まだ、養殖ものは知らないけれど。
多分。天然で、これだけキレイなお肉って珍しい……と云う事くらいは判る。
僕の運も、そんなに悪くも無いと云う事だろう。
獲物を吟味して、その品質に満足する気持ちがある。
その……当たり前の自分を、嫌悪する気持ちがある。
「何で………。」
僕は、笑い乍ら。
クラスメイトを。今朝も………バカ話をした相手を。友人………だった少年を。
喰らい乍ら。
血を啜り乍ら。
笑い続け乍ら。
呟いた。
「何で僕は……人間じゃ無いんだろう。」
光を失った少年の眸を見て、ゆっくりと唇を寄せた。眼球を吸い出し、口の中に転がして。うっとりと嗤った。
頭蓋骨も噛み砕き、バリボリと、骨と、骨に染みた脳ミソの甘さに酔い痴れる。
「美味しい。」
歓喜に満ちた声が零れ、………嗤う。
何で。…………。
僕は………。君を美味しいと思うんだろう。
嗤い乍ら、思わずにはいられなかった。
「何で、来たのが君だったんだろう。」
意味が無いと知っていて。
云わずには。
いられなかった。
僕は。
彼の痕跡。生きた証。欠片すら遺さずに、すべてを。キレイに。
喰らい尽くした。
美味しくて、とても満足して。
僕は嗤った。
嗤い続けた。
「何で。」
最後に。
「………美味しいのかな。」
呟いて………立ち上がった。
せめて。
と。
僕は思う。彼の残骸。制服……を燃やして。見えない彼に、もう居ない彼に。
せめて。
と。語り掛けた。
「彼女は……喰らわない。」
彼を犠牲にしてまで、護った命だ。
彼女の命は、逃がしたアノ瞬間より。
ずっと重くなっていた。
彼にしてみれば、勝手な事を……という台詞だろう。犠牲になど、なりたくて成った訳でも無いだろう。
それでも。
僕は。
彼女を喰らわない。
親友だった………少年に。
謝罪も………、出来ない相手に。
僕はせめて……と。
誓ったのだ。
もしも彼女を喰えば、少年は何の為に「居なく」なったかわからない。
そんな、勝手な事を。
勝手な理屈を。
僕は心に呟いていた。
「ねえ。何で、僕に心が有るんだろうね?」
誓いにも。
質問にも。
応える者は、誰一人居なかった。
☆☆☆