004◇地域◇開かずの踏切
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私には秘密が有ります。実は霊が見えるんです。………いや、電波じゃないですから。ほんとですから。って云うか、絶対そんな風に云われるから誰にも云えないんですよね。
ふ……たまにね〜居るんですよ。幽霊が見えるだの、霊感が強いだの云う人がね。小さな頃は思ってましたよ?私一人じゃ無いんだ!っとかね。
でもね。その人たち…………平気で血みどろの頭や身体、踏みつけて歩くんですよね。
や、私も避けられずに踏む事は有りますよ?つうか、しょっちゅうと云うか。この地域、多いですしね。まあ、踏みつけて歩きますよ?だって自然に歩いたと見せかける為には、避ける事が出来ない事も多いですからね。
慣れって怖いですよね。全然平気です。それに意識して、相手を空気の様に感じ無いようにも出来るようになりました。小さい頃は、何か踏んだ感触がして厭だったけど。今も、うっかり踏んだ時は厭な感触が有るんだけど。
――カスミ。空気。
と。
念じて踏む時は、姿は見えるけど、一切感触が無くなるんです。有難いです。日々お祈りしてるからですかね。神様有難う!
ん?神様が居るか?
知りませんよ。そんな事は。
信じてるか否かで云うなら、信じたい時は信じてるし、そうで無い時は信じてないです。取り敢えず、宗教で語られる神様は信じてませんけどね。まあ、私が信じてお礼を云う「相手」もそうですが、神様って。結局は人の心に在るモノでしょう。少なくとも宗教はそうでしょう。つまり、人が信じたい神様を語る……騙るモノ。と、そう考える訳です。私はね。
もし「何処か」に神様が存在するとしても、私なんかを見てる筈は無いし、願いを聞いてくれる筈も無いと思うんですね。だから、私がお礼を告げる神様は、都合の良いお人形と同じな訳です。
辛い時には、酷いよ神様。嬉しい時には、有難う神様。困った時には、神様お願い!
と。ね?
都合よく語りかける、もう一人の自分な訳です。
だから。結局は、全ては努力しないと始まらないし、失敗したら自分の所為でしか無い訳ですが。
それを素直に認めるのも癪だから、「酷いよ神様。」などと詰ってみる訳ですね。まあ詰るだけで無く、お礼も云う訳ですが。こちらはつまり……自画自賛ですね。あはは。
私、頑張った!凄いぜ私!と、直訳するならこんな感じでしょうか?
いや。ホントに頑張ったんですよ?おもに我慢してただけですけど。
毎日毎日。血みどろや手足欠損や、何故か後ろ向きに走り続けるお姉さんや、匍匐前進する幼児と青年のコンビ。
出来るだけ触れないように、避けたいけど……避け切れなくて触れた感触。踏む感触。厭な。厭な。厭な感触。
「私、見えるんだよね。」
「僕には霊感が有るんだ。」
彼らは、その一切を避けようとしない。アソコに……と指差す先にも、確かにイルけれど。妊婦?何故妊婦?いや、アレはどう見ても戦装束のオッサン。
確かにソコにもイルね。ん?自殺した霊?ええ!?ノイローゼの学生?
無理が有るよ。アレは小学生低学年だよ。
彼らは多分見えてない。
私は、十六才になった現在。今のところ、本当に私と同じ世界を感じる人に出逢った事は無い。
時々。
不安になる。
もしかしたら、私は狂っているのかも知れない。見えているソレらは、本当にはソコに存在しなくて、狂った脳が幻覚を見せているだけかも知れない。
倖い、私は幻覚と現実の区別がついて、口にしないからマトモな振りが出来ているだけかも知れない。下手をしたら、厨ニ病を疑った彼らこそが本当に霊を見ていて、私に見えるのが単なる幻覚で霊感など無いから異なる世界だった………などと云う事も。
絶対に無いとは云えない訳だ。
それこそ、調べようもない。誰にも云えない。気が狂いそうになるのに、誰に相談する事も出来ない。悩み自体が世間から見たらオカシイだろう。言葉にした途端、病院行きになる事が確実だった。
解りますか?私の気持ちが。
私は、ずっと……本当にずっと。気が狂いそうな毎日を生きているんです。
ずっと、気が狂っているのかも知れないと。
自分自身を疑い乍ら、生きているんです。
だから。
あの踏切は。
時々、私の正気を。
確かめさせてくれる。
救い………にもなっているのです。
「ちょっ!?何っ???何でっっ!?」
幻覚では無い証拠に、アレが引っ張るチカラに、引き摺られる人が居ます。
この踏切はね。危ないんですよ。
凄く、開くタイミングが悪くて。
やたら長い時間上がらないから、開かずの踏切と呼ばれています。
急ぐ人が、痺れを切らせて、遮断機の下をくぐったり跨いだりして、走って通過しようとします。
普通なら。
充分な時間です。だって、本当に上がらないのがオカシイくらい、長い時間なんです。次の電車が来るまで、時間は有りますよ。
普通なら。
あの人は、向こうに渡れる筈ですね。
でも。
この踏切は、普通では無いんです。
無数の手が、影を纏い足首を、腕を、荷物を、服を。
掴み、引き摺り。曳いて、押さえ込む。
私は、目を背ける。
悲鳴と、……いつも通り、停止出来なかった車両が、それでも停止する音。
カンカンカンカン。遮断機は上がらない。また。暫く、上がらない事になりましたね。
カンカンカンカン。
響く音。ざわめき。
日常の声と、空気が戻り、私は溜め息を吐きます。
やっぱり。
アレらは幻覚では無いのです。
でなければ、こうして………人が曳きこまれる事は無い筈ですもの。
そうでしょう?
そう……思いませんか?
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