023◇地域&渇望◇凄惨で平和
食人鬼の王者と異界の神様と吸血鬼の長と魔界の女帝……しかし女帝に自覚無し。
次回は渇望らしい渇望になると思います。
今回はまたホラー色無いですが少しでもお楽しみ戴けたら倖いです。
20130401
☆☆☆
散歩がてら自販機を求めてテクテクと歩きました。ガシャンと落ちた炭酸飲料を取り出して、その場で開けます。ゴミを増やすのも面倒だし、飲んで帰ろうと思ったのです。
たまには森林浴と洒落込むかと山の出前の緩やかな斜面を散歩がてら登りました。
山まで行く気はありません。あちらはある意味魔境と呼んで差し支え無いので、余り関わりたくない。そして麓にはビックリする程の豪邸が有りますが、そこの住人とも関わりたくありません。
遠目に大きな館が見えますが、あそこまで行かずとも充分緑は堪能出来ますからね。
しかし。
滅多にしない行動を取るなと云う警告ですかね。血の匂い。本当に……酔う程の血臭とは、このようなモノなのでしょうか。
しかも、森林浴を諦めて踵をかえす前に、斜面を下る煌めく美貌を視界に映す事になりました。
人外とは、人に有り得ぬ美貌の持ち主を呼ぶ言葉なのでしょうか?
眩しい程の光を纏う、煌めかしい男性が私を見て微かに笑いましたよ。でも何故か親しみの湧く微笑みです。なんと云うか、少し怠そうで……面倒臭がりの匂いがします。でも仲間認定は出来ません。あなたはアチラ側の方ですよね?
一瞬見つめあってしまいました。そして人外の美貌から血の匂いがする茂みに視線を戻した。
何の気配もしません。しかし、私にはワカル。見える気がしてならない。そこに………ケモノが存在する。
そして、恐らくそのケモノは、二本の足を持っている。
人外の知り合いなど増やしたくは無いのです。そして、知人の人外証明も見たくない。だから……私が背を向けても。
襲い掛かったりしないで下さいね?
☆☆☆
結論を云えば、私はその場から逃走する事を許されませんでした。
あの後ガサリと茂みを掻き分けて、極めて危険なイキモノが姿を現してしまったし、キラキラ王子さまなお屋敷のご主人は興味深そうにそのイキモノを眺めたし、彼らに勝るとも劣らない小さな王者も現れたのです。
茂みが揺れて、現れた男は美しい獣の様でした。右手に引き摺る獲物は、どう見ても瀕死で…………どう見ても人間でした。少なくとも外見は、人間に酷似していました。
ただ……この二人はある意味で「同じ」だと私は感じました。これは多分、共食いと云われるモノなのでしょう。
「彼。人間では無いよね?」
「ああ。」
屋敷のご主人は煌めく見掛け程には繊細では無いようで、血生臭い光景にも怯む事なく問い掛けました。恐らくは我が校の副会長三ツ木と同族の男は、同じく同族の男をヒョイと持ち上げてかぶり付きました。無造作に牙を立てた肩の肉が有り得ない程に、柔らかく映りました。それほど簡単に齧り取られ、引き千切られたのです。その肉の本体が、血飛沫を散らしました。吹き出す赤い飛沫に、濃厚で甘い血臭。身の内でナニかが蠢いて、本能がざわめき自身の人間性を否定した気がした。
気の所為に決まっています。こんな光景は、狂っていると思います。興奮して酔いそうな感覚になど、決して身を委ねる積もりはありませんでした。
男が喰らう姿を見て、感じたのは奇妙な迄の艶でした。齧られ肉を裂かれた男の方も、苦痛では無く官能に身を震わせているかに見えました。悲鳴が嬌声に聴こえて、私は眉を寄せました。
私はただ黙って、逃げる事も近付く事も出来ず、立ち尽くすだけだけでした。
そんな私を、食人鬼の男がジッと見つめました。初めて見るイキモノを目にする様な眼差しに、私は更に眉を寄せました。私は違う。普通の人間です。何処にでも居る人間で、お前たちみたいな特殊なイキモノでも無く、特殊なチカラも持ちはしない。
そう。ただ……こうして、人外のイキモノと接触する機会がやたら多いだけの、単なる人間なのだ。
そんな目で見られる筋合いは無い。
反発心からでしょうか。私は男を睨んだのかも知れません。
「……。」
三ツ木にも感じた事のある圧迫感。三ツ木の時にはアヤフヤなくらいの感覚が、この男からはハッキリと感じ取れました。恐らくは同じ一族でも、三ツ木とはレベルが違うのだろうと推測します。吸血鬼の湊川やお向かいさんと、垣間見ただけの彼らの主の気配が段違いで在るように、この男は三ツ木の主筋にあたるのかも知れないと考えました。
そんな食人鬼の王者の様な男を前にしても、尚異彩を放つのがお屋敷のご主人で、本当にこの人は一体何者だろうかと思いました。
唇をペロリと舐めて、凄絶な迄の色香を放つ食人鬼の王が、ゆっくりと口を開きました。
「共食いをするとは聞いてないな。」
暢気に響く甘い声が割って入り、食人鬼は私から視線を外しました。
「普通はな。」
食人鬼の王者が低く婀娜めいた声を発した。
その時、更に割って入った声がある。
子供の声。
だけど、支配者と知れる声。
「なら、その理由を聞かせて貰おうか。」
一人の小さな王者が、明らかに夜の住人達を従えて、その場に現れたのです。
そう。以前にも垣間見た事があります。吸血鬼たちの主でした。
ナニかもう。
日常って何だろう。
今日は厄日かも知れない。いや、毎日一人ずつと遭遇するよりマシだろうか?
そんな風に思いました。
☆☆☆
「俺らのテリトリーで物騒な気配ばらまいてんじゃねえよ。」
言葉遣いは非常に乱暴でしたが、吸血鬼の少年はお子様な外見に見合ぬゆとりと風格が感じられます。下品には決して見えず、育ちが良いのだろうと一見して判ります。
「悪かった。コレを追っていたら近付き過ぎたようだ。」
と云うか。この辺りって、吸血鬼さんのテリトリーなのですか?そうですか。知りたく有りませんでしたそんな現実。
「ラアシーリン。不用意にコチラの世界に踏み込むのは止めてくれるか?」
「はいはい。」
幼い王様は中々苦労人の様だ。暢気な屋敷のご主人に、はあと溜め息を吐いている。
「で?どうしてソイツを追う事になったって?あんた達が共食いするなんて、聞かないけどな。」
「コレは俺の獲物を喰った。俺はソレヲ喰らわずにいられないだけだ。」
「……成る程な。」
何でそれで納得出来るのかは不明ですが、人外には人外の掟でも有るのでしょう。幼い王様はその説明で理解を示しました。
「まあソイツを追う理由は判ったが、わざわざ人間の前に姿を現したのは感心しねえな。一般人巻き込んでんじゃねぇよ。」
「人間?」
オイコラ。その視線は何ですか?私が人間だと意外ですか?正直そんな視線にはウンザリですよ。しかし小さな王様の好感度は上がりました。
口は悪いけれど、流石に上に立つ人は違いますね。
「……。」
「人間だ。」
「……。」
食人鬼が私を見て口を開き、幼い王様が断言した台詞に口を閉じました。何を云おうとしたのかは知りませんが、知りたくも無いから別に構いません。
そして、幼い王様は私を見上げました。
綺麗な綺麗な顔ですが、その存在感は顔立ちより尚強烈です。幼い王様は大人びた眼差しで私を見ました。その眸は、老成していると云っても過言では無いでしょう。
吸血鬼の王様なのでしたね。好感度が上がっただけに人外過ぎて残念です。
「あんたも巻き込んで悪かったな。早く帰って忘れてしまいな。」
「………そうするわ。」
小さな王様への好感度は更に上がったけど、関わる気にはなりません。金輪際近付く気も有りませんでした。
私はゆっくりと踵を返し、彼らに背を向けて帰宅しました。
忘れてしまえ?
当たり前です。
こんな非日常は、幾ら私でも荷が勝ち過ぎます。
食人鬼も吸血鬼も、それらに警戒される美貌の青年も。
今まで知る誰よりも、日常からかけ離れた存在でした。
帰宅して部屋に籠った私は、迎えてくれたエロ影にウッカリ和んだくらいです。
いや……エロ影も充分非日常ですからね。本来はね。
自らに云い聞かせはしましたが、同じ食人鬼や吸血鬼でも、学校や御近所さんの存在は……あの三人に比べたら然したる脅威では無い様な気がしました。
「………三人と云うか………人間じゃ無いけど。」
それでも私は人間だから、彼らを「あの人たち」と云ってしまう。三人、と云ってしまう。
人間では有り得ないと知り乍ら、そんな事実に気付いた自分の目を塞ぎたくなるのです。
クラスメイトの人外たちも、彼らに比べれば………余程人間に近いと云えるでしょう。
あの人たちに関わらずに生きていけるなら、彼ら程度は何程の事があるでしょうか。
何となく。
ちょっぴり強くなった気がしました。
単なる強がりですけどね。
私は二度と関わらないだろう、彼の言葉をそっと胸の奥に仕舞いました。
「人間だ。」
強く、断言された。
人外の人に、あんな風に云われたのは初めての経験でした。
☆☆☆




