017◇地域◇未来編〜闇媛01
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私は彼の翼を引き千切った。文字通り、根元から捩じるようにして、引き剥がした。
出逢って直ぐに、私はエッちゃんに命じて彼を押さえつけ。
その翼に手を掛けた。
何故そんな凶行に及んだか?
翼が無ければ。
彼は逃げられないと思ったからです。
彼は叫びました。
泣いて赦しを乞いました。
哀れな虜囚に、私は寛大になれるでしょう。
そう。虜囚に対してならば。
だから。
逃げないように。
私は翼を奪ったのです。
だって。
そうでもしなければ。
二度と逢えないでしょう?
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この世界が現実だろうと妄想だろうと構わない。彼が手に入るなら何でも良い。
それは奔流のように私の心を浚った。
狂おしい程の想いが、一瞬にして私を造り変えた。
実際に。
私は人間とは云えないモノになったと後で聞いたが、特に何とも思わなかった。
翼をもいで、ボロボロと泪を流す悪魔にキスをした。
人間の薬が効くかどうかは解らないけれど、治療すべく立ち上がった。
そこに。
紅い闇がいらした。
「………人間は時に、神さえも驚かせる。」
初めて彼の方に見えた日、私は足が竦んで動けなかった。
今は、そうでも無かった。
その、オカシクなりそうなエロ声も、確かに強烈で反応しないでは無かったが。
現在の私はこの悪魔がすべてになっているから、紅き闇に対する跪きたい衝動にさえ堪えられる。
私は微笑んでいた。
紅き闇の神に願いたい事が有ったから、その顕現は丁度良かったとも思った。そんな不遜な考えが自然に浮かぶ。それは昨日までの私には考えられない事態だった。
そう昨日までの私だったなら。
紅い闇は、畏怖の対象でしか無かった。
その出現は、極めて迷惑でも有った。
自らの狂気を誘う、恐ろしい存在。それが、この神だったのに………怨霊や言葉の通じない妖怪よりも尚理解出来ない、次元の違う存在。
そんな存在だった筈だ。
だが、何故か現在の私は知っている。
紅き闇の神は、私「の」神に他ならない。
闇に仕える、私の上位者。私が仕えるべき相手。
私は、闇のチカラを身の内に感じていた。
「この悪魔を私に下さりませ。」
私は私が仕える主に願った。
強請った、とも云う。
「それは魔界の王だ。私が頷いても意味は無いだろう。」
冷ややかで、甘い。ドロドロとした官能を誘う声に、悪魔が身震いした。
私は嫉妬したのだろうか?悪魔を足蹴にして、血を流し続ける背中を踏みにじった。
途端に上がる悲鳴に、私はうっとりと嗤った。
そう。それで良い。
悪魔の意識は。
私に対してだけ向けられるべきだと思う。
私はとうとう狂ったのだろうか?
だとしても構わない……とさえ思う。多分、私は「変わって」しまった。人間でなくなった以上に。私は昨日までの私ではなくなった。精神が、心が、想いが……違う。魂の有り様が違ってしまった。
私の全ては悪魔に向かい、私は悪魔を得る為なら何でもするだろう。
昨日までの私は、こんな事は出来なかった。
悪魔の翼をもぎ取る事も。その傷を抉るように踏みにじる事も。
悪魔が欲しいと………紅き闇の神に直接願い出る事も。
出来る訳が無かった。
私は。
確かに。
昨日までは人間だったのだ。
今まで疑っていた。
信じたいと祈りつつ、不安に怯えていた。
私は人間では無いのではないかと、いつも狂気と正気の狭間に揺れていた。
本当に人間でなくなった現在になって、漸く判った。
理解した。
私は人間だった。
そして。
現在は人間では無い。
種族は知らない。
悪魔では無いようだとは判る。
悪魔を踏みつけたまま、私は首を傾げた。
闇の神が、静かに嗤う気配がした。
「そなたは魔界の女帝となるだろう。それが、魔界の王であるが故に。」
それ……と神が指した言葉が、悪魔の事だと理解しない訳も無い。
私は頷いた。
ならば、私はその「魔界」に行くのだろう。
悪魔が魔界に在るべきだと云うなら、私がそこに行かない訳が無かった。
「下さりませ。」
「それは、既に願う必要も無い事だ。」
再度乞うた私に、紅き闇が告げた。
そうなのだろうか?既にこの悪魔は私のモノなのだろうか?
それとも。
私がそう決めたから叶う。
そのチカラを私が手にしたから、「そうなる」と云う事かも知れない。
「名前は?」
何の気なしに訊いた。
けれど、気付いた。いや、知った?知っていた?
私は人間でなくなったと共に、ある種の知識も得たようだった。
悪魔に質問すると共に、その知識が脳裏に浮上した。
名を得る事は、相手を縛る事にも通じるのだと。
もちろん、下位の者が上位の相手の名を口にしたからと云って、そこには無礼な行為が咎められるだけで、効力など無きに等しい。
そもそも、捧げられた名前にこそ、その効力は宿るのだ。
名前を聴いても、知っても、本当には意味は無い。だから、神々や冥界に残る忌名の風習にも、本当は然したる意味は無い。その「名」を支配するのは、相手の魂を一度でも支配する必要が有るからだ。
見上げた眼差しが懇願と怯えと期待を宿す。そこに愛情など無い。しかし、確かに悪魔が私に惹かれている事実も理解した。
チカラに惹かれているのだ。
紅き闇ですら、一目おいた私のチカラに。
チカラは美に通じる。
私は神々の条理に組み込まれた。そのチカラを得て、その属性を纏った。
私は。
既に神なのだと知った。
美しさは、チカラ。チカラ有ると云う事は美しいと云う事。私は悪魔を魅惑する程に美しいのだろう。人間で在った時には、有り得ないチカラを身の内に感じる。
そのチカラを、悪魔の眼差しにこそ実感し、私は満足の吐息を漏らした。
悪魔は私に逆らえないのだろう。
知らず笑みが零れた私を、見惚れたように見上げる悪魔の唇が微かに震えた。その唇が紡ぐ『名』は。
確かに。
私に捧げられた供物だった。
私は舌の上で転がすように、その名を確かめた。
悪魔は身を震わせる。
支配の網が、悪魔の身体に纏いついたのが見えた。
名を呼ぶ事で契約は成り、悪魔は私のモノに成った。
こうして。
私は、魔界の女帝として新たな生を享けたのだ。
因みに。
この時、黒き闇が顔を出し、その支配から逃れる為に、紅き闇の寵を得る事になったのは。
蛇足と云うべき出来事である。
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