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プロローグ〜必然的な偶然に〜

「香里奈!!いい加減勉強しなさい!!」


 お母さんの怒声が響く中、鍵のかかった部屋は今日も明るかった。


 もう、全てが手遅れで。何かしようともこの現状は変わらない。そう信じていた6年間。2026年の春は、私をまた追い込んでいます。


「ごめんってばぁ!ね?来週はいけるかもしれない!あー…うん。お母さんに聞いてみなきゃ…」


 高校一年の江藤 香里奈(えとう かりな)。いわゆる私です!自慢は生まれて一度も骨折をしたことがない。

 比較的、人生はスムーズに進んでいて、手相もぴーっと一本線で、織田信長と同じものだとか。

 でも実際は、何もかも上手く行ってるわけではなく…一番優れていて欲しいことに限って、全く意味を為さない。


 それが、絵を描くことだった。


 母の影響で小4から6年も絵を描き続けた私。小5からはSNSでの投稿も行い、自分は才能があると勘違いしていた。

 でも、実力と人の心を掴む才能は別。努力が実るのも嘘。私は、万人受けしない絵を愛して描き続けた。結果が———


「ぅあーーーもう!!!」


 クッソ陰キャ予備軍になっていた。


「なんっで1000回再生しかいっつもいかないの!?こっちの小学生は10万だってさ!!ふこーへーだッ!」


 絵に没頭というか、全てを与えすぎて勉強もろくにできないまま高校生になった。常日頃暇でしかないのに、友達のお誘いは断る。そんな時間があれば絵を描ける。

 学校の人には自分の絵を見せないし、基本部屋に閉じこもったまま。一人でぶつぶつ言いながら白紙と向き合う日々。


 自分の感情を絵に乗せるだけの私の絵に、SNSで誰もが目を引くパワフルさも可愛さも無い。ぐちゃぐちゃで歪んでて、オエって感じ。(?)


 バイトすらやらない私は、ぐちゃぐちゃに丸められてゴミ箱に投げられる薄っぺらい紙と同じ価値です。



─────────────────────


「…よし。」


 自分では全てがうまくいってるこの絵も、他人からすれば目につかない絵なんだ。


 絵描きとして、何より寂しいのは、褒めも批判もないこと。「上手」と言われることも無ければ「下手」と言われることもない。

 1000回も再生してもらえること自体喜ばしいことなのかもしれない。けど、わからない?


 自分より優れてる人を見れば、自分が何より無価値に見えるこの感覚。誰か私を見つけてー。


「……なんてね。」


 筆を再び動かしたその時、キャンパスに赤いものが付いてしまった。


「うーわ最悪…」


 でも、それは。自分の鼻血だった。イケメン男性を描いていたためか。そうなのか。自分って変態だな。気に留めず筆を動かそうとした私。


 バタンッ。


 世界は真っ暗ー。精神的に?いや……物理的に……。


─────────────────────


「っ…ここはどこ…?病院…?」


 アニメとか漫画とかでよく見る、目を覚ました瞬間の感じを表現しましたが違います。

 ここは病院でも家でも無い。外。地面に這ってる私。


「……は?」


 あたりを見れば、綺麗で上品な和服を着た女性や男性。小さな子供が走り回って慌ただしく鳴るゲタの音。

 そして、私自身。薄くピンクがかった赤い可愛らしい着物を身につけている。髪は下ろされてて、倒れた時みたいにボサくれていない。


「どこ…ほんっとにどこ…!?」


 無い。我が家がない。母の怒声も、父の車も無い。キャンパスだって。無い。スマホも無い。無理。


 和な日本に来てしまった。いや、元々日本住まいだけど。だけど!!時代がわからない…ような、古代?って感じの日本。語彙力。

 とりあえず恥ずかしいから起き上がる。おぼつかない足。通行人にぶつかって、メチャクチャに頭を下げておいた。


「……っと。」


 落ち着こう。香里奈、落ち着こう。広く賑やかな道。両脇には、商店街。八百屋や、雑貨屋。喫茶店に煙草屋まで。


「今じゃ…こんなのイオンに行けば全部あるのに…」


 わざわざ、買うものによって別の店にはしごするのは面倒だろう。まずもって家はどこだよ。私の家は。

 進んでいく先に、道が割れた。その向こう側に、広い庭のある屋敷があった。この時代にしては綺麗で、屋根も紅色で色落ちもない。


「建って間もないのかな…」


 気にせず通り過ぎようとしたその屋敷の庭に、イケメンがいた。


「………おっとぉ?」


 これはなかなかの逸材である。片目が前髪で隠されてる、長髪の男性。私と同い年くらいだろうか。にしては、大人の色気を出しすぎている。

 ……美しい。彼は、キャンパスに絵を描いているようだ。何を描いているかは見えない。


「…あのー!絵、お好きなんですか?」


 めっちゃ不審者だが、背伸びして庭の塀越しに彼に話しかけた。興味が勝った。下心じゃない。

 当たり前だが、彼はビクゥッとしてしまった。


「ぁ…すみませーん!」


 反省はしてない。


「っ………」


 少し固まった末彼は、私に手招きをした。



 必然的な偶然にも、こんな異世界で私は彼とたまたま会っただけ。これはきっと、名無しの絵描きと、白紙の恋の予感。


 start…!

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