夜の公園
夜十一時を過ぎると、その公園は街から切り離されたように静まり返る。
風に揺れるブランコが、誰も乗っていないのに、ギィ……ギィ……と小さく鳴る。
高校二年生の悠斗は、その音を聞きながら公園を横切っていた。
スマートフォンの充電は残り3%。
街灯は一本おきに消え、薄暗い遊歩道の先は闇に溶けている。
その時だった。
「……ねぇ。」
小さな女の子の声。
振り返ると、赤いワンピースを着た少女がブランコに座っていた。
年は七、八歳くらい。
夜中の公園にはあまりにも不自然な存在だった。
「お兄ちゃん、遊ぼう。」
少女は笑った。
だが、その笑顔だけが妙に冷たい。
「こんな時間に一人? おうちは?」
悠斗が尋ねると、少女は首をかしげた。
「ずっと、ここだよ。」
風が止んだ。
周囲の虫の声も消える。
世界から音だけが抜け落ちたような静寂。
少女はゆっくり立ち上がる。
その足元を見ると、地面に影がなかった。
悠斗の背筋を冷たいものが走る。
「……帰るよ。」
そう言って踵を返した瞬間。
後ろから、
「鬼ごっこ、しよう。」
耳元で囁く声。
振り向く。
誰もいない。
だが次の瞬間、公園中の遊具から一斉に音が鳴り始めた。
ブランコ。
滑り台。
鉄棒。
シーソー。
誰もいないはずなのに、まるで見えない子どもたちが遊び始めたようだった。
笑い声。
足音。
拍手。
それらは徐々に近づいてくる。
悠斗は走った。
出口まで一直線。
あと十メートル。
あと五メートル。
だが出口は近づかない。
何度走っても、公園の中央へ戻されてしまう。
息が切れる。
心臓が悲鳴を上げる。
そして少女は再び現れた。
今度は目の前に。
「帰っちゃだめ。」
笑っている。
なのに目だけが真っ黒だった。
「一緒に遊ぼう。」
その手が伸びる。
指先は氷のように白く、長く、まるで人間ではない。
悠斗は反射的に目を閉じた。
「ごめん!」
叫んだ瞬間、どこかでカラスが鳴いた。
一羽。
二羽。
三羽。
突然、公園中の音が止まる。
恐る恐る目を開けると、少女はいなかった。
空は白み始めていた。
朝だった。
出口も、すぐ目の前にある。
夢だったのか。
そう思いながら家へ帰り、震える手で靴を脱いだ。
その時、ポケットの中でスマートフォンが震えた。
画面には、撮った覚えのない一枚の写真。
夜の公園。
ブランコに座る自分。
その後ろには、何十人もの子どもたちが立っている。
全員がこちらを見て笑っていた。
写真を拡大した悠斗は凍りつく。
少女だけが笑っていない。
彼女は画面のこちら側を指差し、口をゆっくり動かしていた。
「……みつけた。」
その瞬間、部屋の奥から、あのブランコの音が聞こえた。
ギィ……
ギィ……
振り返る勇気は、もう残っていなかった。




