表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

夜の公園

作者: 暮橋みおせ
掲載日:2026/07/05


夜十一時を過ぎると、その公園は街から切り離されたように静まり返る。


風に揺れるブランコが、誰も乗っていないのに、ギィ……ギィ……と小さく鳴る。


高校二年生の悠斗は、その音を聞きながら公園を横切っていた。


スマートフォンの充電は残り3%。


街灯は一本おきに消え、薄暗い遊歩道の先は闇に溶けている。


その時だった。


「……ねぇ。」


小さな女の子の声。


振り返ると、赤いワンピースを着た少女がブランコに座っていた。


年は七、八歳くらい。


夜中の公園にはあまりにも不自然な存在だった。


「お兄ちゃん、遊ぼう。」


少女は笑った。


だが、その笑顔だけが妙に冷たい。


「こんな時間に一人? おうちは?」


悠斗が尋ねると、少女は首をかしげた。


「ずっと、ここだよ。」


風が止んだ。


周囲の虫の声も消える。


世界から音だけが抜け落ちたような静寂。


少女はゆっくり立ち上がる。


その足元を見ると、地面に影がなかった。


悠斗の背筋を冷たいものが走る。


「……帰るよ。」


そう言って踵を返した瞬間。


後ろから、


「鬼ごっこ、しよう。」


耳元で囁く声。


振り向く。


誰もいない。


だが次の瞬間、公園中の遊具から一斉に音が鳴り始めた。


ブランコ。


滑り台。


鉄棒。


シーソー。


誰もいないはずなのに、まるで見えない子どもたちが遊び始めたようだった。


笑い声。


足音。


拍手。


それらは徐々に近づいてくる。


悠斗は走った。


出口まで一直線。


あと十メートル。


あと五メートル。


だが出口は近づかない。


何度走っても、公園の中央へ戻されてしまう。


息が切れる。


心臓が悲鳴を上げる。


そして少女は再び現れた。


今度は目の前に。


「帰っちゃだめ。」


笑っている。


なのに目だけが真っ黒だった。


「一緒に遊ぼう。」


その手が伸びる。


指先は氷のように白く、長く、まるで人間ではない。


悠斗は反射的に目を閉じた。


「ごめん!」


叫んだ瞬間、どこかでカラスが鳴いた。


一羽。


二羽。


三羽。


突然、公園中の音が止まる。


恐る恐る目を開けると、少女はいなかった。


空は白み始めていた。


朝だった。


出口も、すぐ目の前にある。


夢だったのか。


そう思いながら家へ帰り、震える手で靴を脱いだ。


その時、ポケットの中でスマートフォンが震えた。


画面には、撮った覚えのない一枚の写真。


夜の公園。


ブランコに座る自分。


その後ろには、何十人もの子どもたちが立っている。


全員がこちらを見て笑っていた。


写真を拡大した悠斗は凍りつく。


少女だけが笑っていない。


彼女は画面のこちら側を指差し、口をゆっくり動かしていた。


「……みつけた。」


その瞬間、部屋の奥から、あのブランコの音が聞こえた。


ギィ……


ギィ……


振り返る勇気は、もう残っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ