トランプとモビルスーツ
自転車の運転は慣れないうちは大層苦労するものですが、一度慣れてしまえばなんてことないものです。私は最近、うん十年ぶりに自転車に乗る機会があったのですが、全く問題なく運転できました。これは単純に運転技術を体が覚えていたというだけの話ではなく、自転車を仮想の自己として認識する能力が身についていたという事でしょう。要するに、乗り物を自分と別の物体として操作するのは難しいですが、自分自身が乗り物と一体化する感覚を持つことができれば乗り物の操作は容易になるという事です。重い荷物を持つ時なんかも、荷物を持つのではなく服として体に着るような感覚でいくと持ちやすかったりします。つまり人間は自己を拡張した認識を持つことができる生き物であるという事でしょう。ガンダムシリーズに登場するロボット兵器がモビル「スーツ」と呼ばれているのも、ロボットが単なる兵器ではなく人間の延長にある事を強調したいという事でしょう。
そんな自己の感覚の拡大としてのモビルスーツを、アムロは超人的なパイロット能力で縦横無尽に駆け回りバッタバッタとジオン驚異のメカニズムをなぎ倒し無双していきます。やがてアムロはニュータイプと呼ばれるようになりますがそれは単なるエスパーという話ではなくアムロが自分より大きい存在と一体となる能力を身に着けていったという事だと思います。もちろん戦争なのでただ無双するだけの話ではなく、アムロは戦いの中で心から分かり合えた人を殺してしまう事になります。他にもアムロにモビルスーツを破壊されて殺される一般兵士の姿が描かれたり戦争の恐ろしさもしっかり示されているのがガンダムという作品です。ガンダムはとにかくアムロがかっこよく無双するだけのアニメではありません。ガンダムも最後には乗り捨てられたようにモビルスーツも結局は道具に過ぎないという観念も感じます。重要なのは兵器を乗りこなして無双する事ではなく、自己の感覚の拡大そのものなのでしょう。その延長線上にこそ富野氏は希望を持っているのではないかという気がします。
以前富野氏がウクライナのゼレンスキー大統領を「ニュータイプの芽かもしれない」なんて言っていた動画を見たことがありますが、当初は「なんじゃそら」と思いましたが今となっては何となくわかる気がします。プーチンは自国民や「兄弟国」の国民が何十万死んでも平然としていますが、ゼレンスキーはウクライナという国家を自分の延長として感じ国民の苦しみを自分の苦しみとして受け取る事ができているように感じます。だからこそあんなに老け込みつつもギラギラした目をしているのだと思います。それは単に優しさとか共感とか愛国心とかだけの話ではなく、彼が自分より大きなウクライナと一体化する巨大な感覚を持っているという事です。この感覚は全体主義や欺瞞を孕んだ自己犠牲とも違っていて、地に足の着いた実体的な感覚のように見えます。そこに富野氏はニュータイプの芽を感じ取ったのかも知れません。
要するにニュータイプとは、感覚的に自分の肉体を超える事なのでしょう。自分の肉体を超えることで他者を理解する事ができるし、自分の肉体が滅んだ先まで長いスパンで物事をを考えることができます。極端な話、誰もが地球という乗り物に乗っている感覚を持ち自分が地球の一部である事に気づくことができれば戦争はなくなるし環境問題も解決するという事です。
私としてはそんなことは不可能だとは思っています。人間の感覚の拡大はいくら頑張っても国家が限度であり、利害の対立する国家を超えた地球市民としての感覚は現実離れしていると思います。それでも無理やり感覚を拡大していけば生活や血脈や現にある肉体の否定へと至り、自分だけ愚かな大衆の上に立つ神になったようなつもりにもなれるかもしれませんが、それはただ自我が暴走して傲慢になっているだけでむしろ自我にとらわれてしまっています。ガンダム作品でもちょくちょくニュータイプになれないオールドタイプを見下すような発言が見受けられますが、なんだか鼻に付くなあというのが正直な所です。そういうわけで私は手放しでニュータイプの考え方に賛成する訳ではありません。
しかし政治家を評価する上で「自己の延長としての国家」という感覚を持っているかどうか「ニュータイプの芽」を持っているかどうか、というのは重要な観点ではないかと思うようになりました。
その点トランプ大統領なんかは就任当初から幼稚な印象が否めませんでしたがイデオロギーの押し売りや戦争に関しては極力避ける動きが見られたので「もしかしたら深い考えがあるのでは?」「彼なりに自国の事を考えているのでは?」という気もしないではなかったです。アメリカファーストというスローガンにしても、非現実的な大言壮語よりも現実的で私はそんなに嫌いではありませんでした。しかし二期目になって不正選挙だのなんだの叫んだりグリーンランドをカツアゲしようとしたりベネズエラを政権転覆したりしだして「やばいなこいつは」としか思えなくなってきて、イラン戦争の件で完全にハッキリしてしまいました。所詮トランプ大統領はアメリカという上等なオモチャで遊ぶのが楽しいだけの子供に過ぎなかったようです。しかも質が悪い事に、自意識だけ巨大化しすぎているせいで認識と実際が大きくズレてしまっていて、調子に乗って勝てもしない戦争まで始めるのだから手に負えません。
彼は自意識を野放図にどこまでも拡大しているので一見大人物のように見えるかもしれませんが、中身は空っぽで結局個人的な感覚でしか物事を考えられないのでしょう。アメリカファーストなんて言ってるのも結局は口だけでアメリカファーストですらなく自分がオモチャで遊ぶことが至上命題で、プーチンと同様自分のせいで自国民が何万人死んだとしてもほとんど心を痛めることはないんだと思います。そういう厄介な子供がオモチャを振り回すごとに実際に生きる人間が殺されていくのが今の世界という事なのでしょう。
そんな荒波のような世界で我らが高市総理は「ニュータイプの芽」を芽吹かせる事ができるのでしょうか。まあ「世界を守れるのはドナルドだけ」とか言っている以上無理でしょう。正直、彼女もまた日本というオモチャで遊ぶのが楽しいだけの子供にしか見えないので、大変なことになってしまいそうな予感がします。この先どうなるか分かりませんが、まあ何とか生き延びていくしかないですね。




