1-12 ラブ・イズ・ザ・メッセージ(3)
「アズミ、今回、順番ラストでやらないか?」
ユウタが言った。
アズミはびっくりして、
「え?
ぼく?」
と目を丸くする。
「ああ。
今回は、ニシキさんが来てくれる。
アズミにとっても、オレらにとっても、スペシャルな日だ。
そやから、アズミにトリを飾ってもらうということでどうやろう。
……みんなもOKだよな?」
マキとアリヤが声を合わせて、
「OKでーす!!」
と声を上げた。
きょうは水曜日。
大学近くのカフェでの、いつものイベントミーティング。
パーティー『Four Layers』の次回は、来週の土曜日だ。
先日、マキがユウタに、
「いつもどおりにやればいいよね!」
と言ったように、マキはあらためて、ここでもみんなにそのことを強調した。
「いつもあたしら、来てくれる人みんなに対して差別も偏見もない、楽しくて最高のパーティーやってるやん!
そやからさ、今回もいつもどおりにやればいいんよ!」
とはいえ、やはりことはそう簡単ではない。
気持ち的には、なかなかいつもどおりというわけにはいかないようだ。
特にアズミと、そしてアリヤには。
ニシキが来るということで、4人の間には微妙な緊張感が漂っている。
アズミは、少々うろたえた様子でユウタに言う。
「……ニシキが来るからといって、あんまりぼくを特別扱いしないほうがいいんじゃないかな?」
ユウタはマキと顔を見合わせた。
そしてユウタが、少し考えてからこう話す。
「いや、特別扱いやない。
いままでアズミがトリをやったことないし、これがいい機会やと思ったんで提案しただけや。
もちろん、アズミがやりたくなければ、やらなくてもいい。
自主性重視や」
アズミは、気持ちが揺れ動いているようだった。
もちろん、ニシキの前でいいプレイはしたい。
しかし、他の3人が自分に気を使ってくれているような状況は好ましくない。
それでも結局、アズミはよく考えた末、ラスト担当を受け入れた。
***
ミーティングの帰りに、アリヤがマキを誘った。
「……ちょっと、別んとこで話しない?」
「ん?……いいけど……」
別のカフェで、アリヤがマキに話した。
「……正直言って、アズミのラヴァーが来る、っていうのは、微妙な気分よ。
……だって、もしかしたらもう知ってるかもしれんけどさ、あたし、アズミに告って振られたねん。
けど、まだ未練があるんよね……」
「え……!?」
マキは、アリヤの思いがけない告白にびっくりした。
自分からこのことを話すとは思っていなかった。
アリヤ、なんでもないような様子をしてたのに、まだ引きずってたのか。
「リチェルカーレ」でのあのハイテンションも、その思いを隠すためだったのだろう。
マキはアリヤになんて言ってあげればいいのか、あれこれ考えてみたのだが、かけるべき言葉が思いつかない。
アリヤとアズミのことはすでにユウタから聞いている、そのことは伏せておこうと思った。
それで結局、こんな言葉しか出てこなかった。
「……そなんや……」
「そうやねん……」
アリヤは自嘲するように笑った。
マキはそれでも、言わなくちゃと思ったことを言う。
「……けどな、もうこうなったからには、アズミとニシキの二人を応援してあげるのに徹するしかないと思うんやけど……」
アリヤは、片手にアイスコーヒーのグラスを持ち、持っていないほうの手をひらひらさせながら苦笑した。
「……マキ、わかってる。
そのとおりよ。
そのとおりなのはわかってんやけど……。
でもホント言うとさ、まだね、気持ちがね、割り切れてないんよね……」
マキは、アリヤがこんなに傷心しているさまを見るのは初めてだった。
いままで、いつも陽気なアリヤしか見たことがなかっただけにショックだ。
アリヤは冗談めかして言った。
「あー、マキ、気にせんといて。
これ、ただの愚痴やから。
言いたいこと全部言ったら、たぶん、スッキリする……」
しかしその言葉とは裏腹に、アリヤは話すごとにどんどん落ち込んでいくように見える。
マキはアリヤにやさしく言った。
「……アリヤ。
無理せんでええよ。
もしいややったら、今回は出ないってのもありと思う。
……そりゃ、アリヤがいないのはすごく寂しいけど……。
でも、つらい思いしてまで出る必要はないよ」
「……うん……。
……いや、けどな、やっぱりあたしは出るべきやと思うんよ。
あたしが忘れるために、ね」
「忘れるために……?」
「そ。
あたしのアズミに対する思いを断ち切るために。
ニシキって人にちゃんと向かい合って、いつもどおりプレイやってさ。
それやってこそ、忘れられるんやないか、って思うんよ」
マキは、そう話すアリヤの痛々しい表情を見ていて、胸が締め付けられる思いがした。
でも一方で、アリヤの決意もよく理解できた。
マキは、アリヤの両肩を抱いて言った。
「アリヤ、アリヤがそうしたいんなら、あたしもそれを尊重するよ。
でも、無理はしないで。
アリヤが一番いいと思う、自分ができると思う方法を選べばええよ」
マキのその言葉を聞くと、アリヤはしゃくり上げながら泣き始めた。
その泣き顔に、マキは自分も泣きそうになって、それをぐっとこらえる。
「マキ……ごめんな……。
好きになった人が女を好きにならん人やった、って、やっぱりショックよ……」
マキは、言うべきことばが見つからず、ただアリヤをぎゅっと抱きしめた。
いまの自分がアリヤにしてあげられることは、それだけだと思った。
カフェのお客さんが何人か、二人を驚いたように見ていたが、いまの二人にそんなことを気にしている余裕はない。
そうして、マキはアリヤを強く抱きしめながら、慰め続けた。
***
次の週、土曜日。
パーティー『Four Layers』の日だ。
朝からよく晴れている。
そして昼が過ぎ夜になると、外は心地よい風が吹いていた。
心斎橋のクラブ、Club Orbit。
ユウタ、アズミ、マキ、アリヤ。
4人がそろった。
いつもどおり、最高に楽しいパーティーをするために。
「ま、意識せず、いつものように楽しんでいこうな」
とユウタ。
「はーい!」
とマキ。
「オッケー」
と、ちょっと緊張してる様子のアズミ。
「ハイよー!」
と、いつもどおり陽気にアリヤ。
前回のパーティーで故障したCDJは、すでに修理が終わって帰ってきている。
もうすでにいくつかのイベントで使われていて、問題なく動いているということだった。
店長のハギさんがブースにやって来て、みんなに話した。
「CDJも直って帰って来てる。
それと、あらたにCDJ-3000を2台買った。
したがって、CDJが合計4台ある。
……出費、痛かったけどな。
メインはこれまでどおりCDJ-2000NXS2だが、ご希望でCDJ-3000をメインにするのもOKや。
いつでも言うてくれ。
それと、もし4台使いしたいときもな」
「おおー!!」
ユウタとマキが、思わず声を上げる。
「ハギさん、思い切りましたね」
「ユウタ、思い切ったどころやないぞ。
清水の舞台から飛び降りて、骨折した気分や!」
ユウタとマキが、あはは、と笑う。
一方、アズミは、CDJに自分のUSBメモリを挿して、出音を確認していた。
アリヤはアズミと離れてブースの隅近くのベンチに座り、自分のノートPCを開いてヘッドフォンをかけ、DJソフトのプレイリストに入った曲を聴き直している。
マキはそんな、離れてそれぞれ自分の仕事に没頭する二人を見ながら、ちょっと切ない気持ちになる。
「……そっとしておいてやろう」
ユウタがそんなマキに小声をかけた。
マキは、
「うん……」
とだけ返事する。
オープン時間だ。
今回のオープニングはマキの担当だ。
テンポがスローめなエレクトロニカ。
電子音による癒しの音。
まだ早い時間。
オーディエンスもまばらだ。
それでも、その数人のために、マキは心を込めて選曲する。
そして、アリヤのためにも。
アリヤはマキがプレイを始めると、ヘッドフォンを外してマキの奏でる音に聴き入っていた。
アリヤにもわかった。
マキ、あたしのために選曲してくれてるんやな……。
マキは振り向いてブースの後ろを見た。
すると、アリヤが自分を見つめながら、ゆらゆらと頭と身体を動かして聴き入っている姿が目に入った。
それだけで、アリヤの気持ちはじゅうぶんに伝わってくる。
アリヤは自分に、ありがとう、と言ってくれてる……。
しばらくすると、エントランスから1人、オーディエンスが入ってきた。
ニシキだ。
黒いTシャツに、黒に金色の縁取りの入ったベスト、黒のレザーパンツ。
ユウタもすぐ彼に気がついた。
駆け寄って、ニシキに握手して出迎えた。
マキもその様子を見ていた。
あの人か、ニシキさん……。
美しいな……。
マキはBPMを少しずつ上げていった。
エレクトロニカ、ニュージャズ、オーガニックハウス、ディープハウス……。
アズミも近寄ってきて、ニシキと話している。
二人とも、とてもうれしそうだ。
アリヤはしばらくの間、ユウタとアズミ、ニシキの様子をじっと見つめていた。
そして、やがてそこから目をそらすと、再びマキの音に聴き入った。
ニシキもアズミと話しながら、マキの奏でる心地よい音に身をゆだねているようだ。
マキは、心の中でひとりごとを言った。
……イケメン二人か。
画になるな……。
マキは、徐々にテンションも上げていく。
持ち時間の終わり近くに、マキはGlenn Undergroundの「Vital Rhythm (Main)」をチョイスしてプレイした。(注1)
……本来なら、ユウタが選びそうな曲やけど、まあ、たまにはええよね……。
そう思いながら、ユウタを見る。
するとユウタが笑顔でマキを指さして、無言でグッ!と親指を立てる。
マキは舌をペロッと出して、こちらも親指を立てて返す。
注1:Glenn Underground「Vital Rhythm (Main)」
Glenn Undergroundの2022年リリースの曲。
グレン・アンダーグラウンドは、シカゴハウスやジャズの影響を受けた、テクノに近いテイストを持つディープハウスの曲を多くリリースしている。
アリヤがマキのそばに来た。
もうすぐ交代だ。
アリヤがマキの耳元で言った。
「……マキ、すごいよかったよ。
癒された。
グラッツェ、ありがとね」
マキは笑顔で、首を横に振って答えた。
「ううん、こちらこそ。
アリヤ、リラックスしてやってね」
「だいじょうぶ。
……でも力入れるわ!」
アリヤはそう言って、マキがUSBメモリを抜いた側のCDJのスロットに自分のUSBメモリを挿しこむ。
そして、マキと抱き合った。
「マキ、いろいろとすごい感謝してる……」
「ううん、あたしはなんにも大したこと、してない。
アリヤが元気になってほしい、ただそれだけ……」
「グラッツェ……」
そう礼を言うと、アリヤはマキの頬にキスした。
そしてCDJに向き直ると、真顔になった。
マキがかけていた最後の曲に、自分の1曲目を少しずつミックスしていく。
最初の曲は、Lucciano 「I Know The Feel Around (Extended Mix)」 。
マキの作った流れを引き継ぎながら、少しずつ自分のテイストに持っていく。
アリヤは決めていた。
ニシキさんを、あたしがロックしてやる。
アズミといっしょに。
アズミが愛する人ならば、アズミともども、あたしが魅了してやるんだ。
それがあたしの、今夜の役目。
そして、それがあたしなりの、二人への祝福であり、アズミを吹っ切るため。
アリヤは、プレイに全身全霊を傾けた。
テックハウス、プログレッシブハウス、ミニマルテクノ、エレクトロハウス……。
縦横無尽にジャンルを飛び越えていく。
ニシキは、他のオーディエンスに混じって立ち、ブース上のアリヤを黙って見つめながら聴いていた。
常連のオーディエンスたちは気軽にニシキに声をかけ話してくる。
ニシキは、その様子に少し驚きの表情を浮かべながらも、笑顔で会話した。
そして、ニシキの表情が次第に緩み、素直な喜びを表すものに変わっていくのが、マキには見えた。
やがて、ニシキは腰を振って踊り出した。
始めは控えめに、しかし次第に生き生きと。
ニシキはこの空間を心底楽しんでいるように見える。
マキの隣にユウタが寄って来た。
「ニシキをノせてるよ……」
マキはユウタの顔を見て答えた。
「うん。
……すごいよ、アリヤ……」
「ああ。
ニシキの心を開いたな……」
「ほんま……」
ブースの奥にいたアズミも、フロアに降りてきてニシキのそばに来ると、いっしょに踊り始めた。
二人は笑顔で見つめ合いながら、アリヤのプレイに合わせて踊る。
およそ1時間半のプレイ。
アリヤはオーディエンスを、そして二人を見事にロックした。
ユウタが、交代のためアリヤにそばに寄って来る。
「アリヤ、盛り上げてくれてありがとな。
すごいよかったよ」
アリヤはユウタに顔を向けて、
「おかげさまでね」
その眼には、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。
ユウタはアリヤにやさしく耳打ちした。
「おつかれさん。
……オレの時間はチークタイムになっちまうな」
そう言うと、アリヤがUSBメモリを抜いてくれたCDJのスロットに、USBメモリを挿した。
「ユウタ、グラッツェ。
……これで、吹っ切れた」
「おう……。
よかった……」
ユウタは、アリヤから次につなげる曲を選んでロードした。
そしてその曲を、アリヤの最後の曲に少しずつミックスしていく。
テックハウスだ。
今夜はテックハウスとミニマルハウス、ディープテック多めで行こう。
オレの後がアズミだし、きれいにつながるようこの心地よい流れを保ちたい。
そう考え、ユウタは選曲していった。
ユウタのいつものテイストとはちがう選曲だったが、アリヤからの流れを継いでちょっとテンションを高めに保つようにもっていった。
オーディエンスにも、そのユウタの選曲は大いに受けた。
つい先ほどまでニシキと踊っていたアズミが、交代のためユウタのそばに来た。
「ありがとう、ユウタ。
テイストずっと寄せてくれて」
「ま、オレにしてはめずらしい選曲かもやけど、楽しかった」
アズミと手を握り合って、バトンタッチした。
アズミがUSBメモリを挿す。
フロアからは、ニシキの鋭い視線が真っすぐにアズミを見つめているのがユウタにもわかった。
その視線にちょっと緊張する。
……アズミがいつもどおり、リラックスしてやれればいいが……。
一方、アズミは淡々と準備を進める。
曲をCDJにロードした。
ユウタのディープテックの次にアズミがつないだ曲。
Space Motion 「Run Again」。
アップでキャッチーなメロディックハウス。
オーディエンスは一気に盛り上がった。
ニシキも両手を上げて叫ぶ。
アズミは、はにかんだような笑顔で片手を上げて応えた。
メロディックハウス、テックハウス、オーガニックハウス、テクノ……。
アズミは、次々に曲を繰り出していった。
その選曲は緩急自在、変幻自在だ。
意のままにオーディエンスをドライブしていくプレイ。
いつの間にか、ニシキも他のオーディエンスといっしょに踊りまくっていた。
細い身体と手足を動かして。
まるでマイケル・ジャクソンのように華麗に、激しく。
そんなニシキの様子を見て、ユウタはマキに言った。
「いい感じやな……」
「うん……。
いい感じ……」
パーティーもラストの時間が近づいてきた。
ラスト30分間は、4人のB2Bタイムだ。
アズミの後にマキ、マキの後にアリヤ、アリヤの後にユウタ。
そしてラスト、アズミが締めることに。
4人とも、それぞれの個性に合った曲をプレイし、次々につなげていった。
最後のターン、アズミが選んだのは彼にしては意外な曲。
ユウタのかけたBPM120の曲から、さらにBPMを落として最後の曲が鳴る。
イントロが流れた瞬間、ユウタが、
「おう……」
と思わず声を上げた。
アズミの選んだ曲は、MFSB「Love Is The Message (M+M Mix)」。
かつて1980年代、NYのクラブ、ゲイパーティーで幾度となくプレイされていたであろうハウスの名曲。
最初の音が鳴りだしたとたん、ニシキは身体を止めて立ちつくす。
感動のあまりか、微動だにせずに、ただ聴き入っている。
ニシキの頬を、涙が伝っているのがユウタには見えた。
彼はただ涙を流しながら聴き入っていた。
ユウタにはニシキの気持ちが、そしてこれをラスト選んだアズミの気持ちも、手に取るようにわかる気がした。。
オーディエンスからも歓声が飛ぶ。
至福の時間。
オーディエンスも、アズミやユウタたちDJ4人も、その間はみんな一体になった気がした。
最後の音が鳴り終わった。
ユウタが、静寂を破ることを惜しいと思いながら、マイクでパーティーの終わりを告げる。
「今夜も、みなさんのおかげで、いいパーティーになりました。
DJ Azumiに拍手を!」
オーディエンスみんなが、大きな拍手を送った。
もちろん、ニシキも。
ニシキがブースの前にやって来て言った。
「みなさん、すばらしかったです」
ユウタがニシキのそばに来て礼を言った。
「ありがとうございます!
そう言ってもらえて、うれしいです」
ニシキはユウタに語り始めた。
「今夜来て、あなたがたのこのパーティーが、アズミを同じ仲間としてまったく平等につき合ってくれていることが、よくわかりました。
ボクが、偏見であなたがたを見ていたということにも気づかされました。
そのことをお詫びします、ユウタさん。
今後のアズミのDJ出演については、現状どおりで変更なしということで、承知しました……彼も心底そう望んでいるのだということが、よく理解できましたので。
『Pink Love』は現状のペースのままで開催し、それとは別のパーティーを並行して開催するということにして、あなたがたのパーティーには影響ないように対応することにします。
……とにかく、この機会をくださったユウタさん、あなたには深く感謝申し上げたい」
態度のうって変わったニシキの対応に、ユウタは少し驚きながら答えた。
「い、いえ、こちらこそ……。
でも、そう思っていただけたなら、よかったです」
ニシキはアズミにも声をかけた。
「アズミ。
きみのプレイ、最高だったよ。
正直、『Pink Love』のときにも増して、いいと思った」
「いやあ……」
とアズミは照れくさそうに頭に手をやる。
続いてニシキは、マキにも声をかけた。
「……マキさん、あなたのプレイもすばらしかった。
とても癒されました」
マキも照れながら頭を下げた。
「……いえ、ありがとうございます……」
ニシキは、アリヤにも声をかけた。
「……アリヤさん」
ブースの奥にいて片付けをしていたアリヤは、ニシキに呼ばれた瞬間、身を震わせたように見えた。
「……あ、ハイ!」
「あなたのプレイには、ホントに感銘を受けました。
とてもすばらしかった。
……で、もし、あなたがいやでなければの話なんですが、今度ボクが主催で、ゲイもヘテロも性別を問わず参加できるクラブパーティーをやるんです。
……よかったら、そちらにDJ出演していただけませんか?
ギャラも、多くはないですがお支払いします。
日時と場所は、9月23日、秋分の日の17:00から、梅田の『ミント』です」
アリヤは驚きのあまり、声が出なかった。
それはユウタも、マキも、そしてアズミもそうだった。
それでも、すぐアリヤはいつもの陽気な笑顔にもどって答えた。
「……それは、お誘いありがとうございます。
その日、だいじょうぶです。
あたしでよければ、お引き受けします……」
「ぜひ、お願いします!
……アズミも、いいと思うだろ?」
アズミも笑顔で、
「もちろん!
アリヤさえよければ、ぼくからもぜひお願いしたい」
アリヤは満面の笑みを浮かべて、
「お二人ともありがとね、グラッツェ……!」
そう言うと、ニシキとアズミの二人を抱きしめた。
三人は抱きしめ合って、喜びを分かち合った。
ユウタとマキはそれを見て、おたがいに笑顔で見つめ合った。
「よかったな」
「うん!」
***
心斎橋駅までの道を、ユウタ、マキ、アリヤの三人で歩いた。
アズミはニシキと朝食を食べに行くということで、いっしょに先に出ていった。
マキがアリヤに言った。
「アリヤ、今回はホントにお疲れさま!」
アリヤは、マキとユウタの二人に、
「ありがとね、マキ、ユウタ。
今回は本当に、いろいろと助けてもらったわ」
ユウタが、
「いや、当然のことや。
……オレたち、仲間やろ」
アリヤはうれしそうに笑った。
「……そやね。
おかげで、思いもしなかったオファーももらったし!」
ユウタが言った。
「アリヤ、どんどん出世していくな。
……オレらん中で、いちばん出世が早いかも」
マキもはしゃぐ。
「そうそう、ほんと!
アリヤ、もうプロDJ、目の前やん!」
アリヤは、ふふっ、と笑って、
「いやー。
プロDJの道はそんな甘くない、ってわかってるよ。
でも、今回はうれしいね」
そして、遠くを見ながら言った。
「……それに、これで吹っ切れた」
アリヤは、もうすでに明るくなった朝の空を見上げて、はるか上を指さしながら声を上げた。
「いつかあたしもさ、素敵なラヴァ―見つけるよ!
……アズミとニシキさんのように」
それから、マキとユウタに向き直り、二人を指さすと、
「……そして、マキ、ユウタ!
あんたたちのように、ね!」
マキとユウタは、顔を見合わせて赤くなった。
「……ちょ、ちょっと、アリヤ、なに言ってんの」
「ア、アリヤ、おまえな……」
「ふふっ……負けないよー、あんたらにはー!」
アリヤはそう言うと、いつもの陽気で元気な様子で、片手の拳を突き上げた。
マキとユウタはそんな彼女に、思わず吹き出した。
「……もうー!!
そんな恥ずかしいこと、言わんといてー!!」
「だってあんたら、ホントにお似合いやからさー。
……絶対に末永く仲よく、ハッピーになってやー!!」
ユウタはマキを見た。
顔を赤くしたマキと目が合った。
一瞬、二人とも言葉に詰まってから、同時に思わず、くすっ、と笑いが出た。
そして、いっしょにアリヤを追っかける。
「おい、アリヤー……!!」
「もうー、アリヤ―、待てー!!」
ユウタとマキは笑いながら、逃げるアリヤを追っかけた。
楽しそうに笑いながら走って行くアリヤを追いかけながら、マキは思った。
……よかった……。
アリヤ、今回のことで前よりもさらに強くなったように思える……。
これからのアリヤも、もっともっとハッピーな道を進んでいけますように……。
三人はそうやって笑い合いながら、駅までの道を歩んでいくのだった。