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第14話 婚前旅行は突然に!?

今朝、13話の前に14話を上げていたことに気づきました。

13話を更新しましたので、改めて、14話をお届けします。

紛らわしいことになり、申し訳ありませんでした。

次からの更新では、気を付けます。

 継母が行ってきた数々の仕打ちと浪費癖についてヴィンセント様たちにお話したら、ローゼマリア様は喜んで協力すると言って下さった。ヴィンセント様も、当然のように頷いてくださり、願ってもない協力者が出来たことに、私は思わず涙を流してしまった。


 感極まった私に向かって、ローゼマリア様は、唐突な提案をされたわ。


「婚前旅行に行ってらっしゃい」

「……え、婚前、旅行?」

「婚礼は一か月後に行いましょう。その前に、アーリックへ報告に行ってらっしゃい」

「で、ですが……こうしている間にも、継母は財産を──」

「心配ありません。協力者が一人でも多いに越したことはないでしょ」


 困惑する私をよそに、ローゼマリア様は、そうと決まったら旅支度をしなければなりませんねと言いながら立ち上がった。慌ただしくベッドを離れ、若いメイド達を呼び集め始めて、何やら指示を出し始める。


 旅行だなんて、私はそんな気分になれないのに、どうしたらいいのかしら。


「アーリックはレドモンドの魔法繊維を気に入っている」


 ベッドの端の腰を下ろしたヴィンセント様は、突然そう言ってきた。

 アーリック族が、うちの魔法繊維を気に入っているなんて、初めて聞いたわ。


「そのレドモンドの令嬢と私が婚礼を上げると知れば、大歓迎するだろう」

「……つまり、それは……アーリックとの商談が出来る、ということですか?」

「あくまで、結婚の報告をしに行くだけだが、そこから商談になっても、誰も咎めはしないだろう」


 つまり、協力者と言うのは新しい交易先を作ろうということなのかしら。


 そもそも、ヴィンセント様のお母様の故郷だから、ご報告に行かなければならないというのも、仕方のないことなのかもしれない。


「分かりました」

「うん。ヴェルヘルミーナは、物分かりが良い子だ」


 そう言ったヴィンセント様は朗らかな笑みを浮かべ、私の頭をそっと撫でた。


 何だか、これって子どもを褒める大人みたいだわ。ヴィンセント様は、私を子ども扱いされているのかしら。もしかしたら彼の中の私は、小さかったあの頃のままなのかもしれない。

 ふとそんなことを思うと、なんだか心の奥がもやもやとし始めた。



 翌朝のこと。

 アーリックまでは何日かかるのだろうかと、不安に思いながら朝食を終えて旅支度をしていると、ヴィンセント様が迎えに来てくださった。


「滞在は一晩だ。荷物は最小限で良いだろう」

「何を言っているのですか、ヴィンセント。お洒落(しゃれ)は淑女の(たしな)みですわよ」

「こちらと違い、アーリックに夜会はありません。ドレスやアクセサリーは不要です」

「あちらでご挨拶をするのに、旅装束では失礼じゃありませんか!」

「この装いで十分でしょう」


 ちらりと私を見たヴィンセント様は、ローゼマリア様が用意してくださったほとんどの荷物を、若い侍女達に片付けるように言い始めた。おそらく、夜通し揃えてくださったのだろうに、申し訳ないことをしてしまったわ。


「皆さん、申し訳ありません。私のために用意をしてくださったのに……」

「ご心配には及びません」

「若奥様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「お帰りをお待ちしています」


 片付けている侍女たちに声をかければ、彼女たちはにこにこ笑って答えてくれた。

 ほっと安堵していると、ヴィンセント様は私の手を引いて部屋を後にした。後から、鞄に最低限の荷物を詰めたダリアが着いてくる。どうやら、ついてくる侍女は彼女だけのようだ。


 連れられるままに来たのは中庭だった。


 まさか、朝からお庭でお食事なんてことはないわよね。そもそも、朝食を頂いた後だから、お茶をといわれても一口も喉を通りそうになかったのだけど。


 不思議に思っていると、庭の中央にあるモザイクタイルの上で、ヴィンセント様が足を止めた。

 なぜか、そこには馬が二頭いる。


「あの、ヴィンセント様、どうして馬が」

「アーリック族の住む森の近くまで、一気に飛ぶ」

「え? と、飛ぶ、というのは……?」


 言っている意味がさっぱり分からずにいると、当然、腰へと大きな手が回された。体を引き寄せられ、思わず硬直して言葉を失っていると、足元から光の柱が空に向かって打ち上げられた。


 風が吹き上がり、スカートがバサバサと音を立てて翻った。


 ヴィンセント様の右手が空を撫でると、私たちの周辺に、文字が浮かび上がる。

 光り輝く文字が帯となり、私たちの周囲を取り囲んだ。


 あれは、古代魔法言語。それも、随分複雑な術式のようだわ。読むことは辛うじて出来そうだけど。


「飛ぶ瞬間、目を瞑っていた方が良い」

「は、はい……」

「そんなに、がっかりした顔をしないでくれ。魔法言語に興味があるのなら、そのうち教えよう」


 言語を目で追って観察していた私は、どれだけがっかりした顔をしていたのだろうか。だって、教本でしか見たことのなかったものを、目の前で見られるなんて、感動じゃない。

 ヴィンセント様は少し笑いを堪えていらっしゃった。


 顔から火が出ていると勘違いするほど頬が熱くて、私は目を瞑るのにかこつけて顔全体を手で覆い隠した。


 ヴィンセント様が静かに何かを唱えられた。きっと、この転移魔法の詠唱ね。そんなことを考えていると温かい風に包まれ、バラの香りが一層濃くなったように感じた。


 その十数秒後、ヴィンセント様の「目を開けてごらん」という声に促され、顔から手を放してそっと目を開けると、そこには鬱蒼(うっそう)と茂った森が広がっていた。


「おいで、ヴェルヘルミーナ。アーリックまでは、ここから一刻ほどだ」


 優しいバリトンボイスを振り返ると、いつの間にか馬に乗っているヴィンセント様が手を差し伸べられていた。

 それから舗装されていない獣道も同然の森の中を、私はヴィンセント様に背中を預けて進んだ。ダリアも、手慣れた手綱さばきで後ろからついてくる。


 一刻ほどで森が開け、その先に広がる光景を見た私は感嘆の声を上げた。

 山のふもとに広がる森の中、これほど整った集落があるだなんて誰が思うだろうか。


 私たちが暮らす町と遜色のない整った住居は、規模こそ小さいが、木材や石材で丁寧に建てられていると分かる。たくさんの花々に彩られ、足元もきちんと舗装がされている。辺境地の村よりも整備が行き届いていそうだわ。


 私がきょろきょろと辺りを観察していると、ヴィンセント様が馬を停めた。


「お待ちしていました、坊ちゃま」

「……ウーラ、その呼び方はやめてくれないか?」


 苦笑を浮かべながら馬を降り、私に手を差し伸べられたヴィンセント様は、出迎えてくれた老婆に「(おさ)はいるか?」と尋ねた。


「お待ちですよ。して……そちらのお嬢様が、ヴェルヘルミーナ様でございますかな?」

「ヴェルヘルミーナでございます。急な訪問にも関わらず、お出迎え、ありがとうございます」

「ほほほっ、気になさらず。坊ちゃまは、いつだって急ですからね」

「だから、ウーラ……その呼び方はいい加減やめてくれ」

「この老い先短い(ばば)に、今更、ヴィンセント様などと畏まれと?」

「……ウーラなら、あと百年は生きるだろう」


 どういった事情かは分からないけど、ヴィンセントはこの老婆ウーラさんに頭が上がらないみたいだわ。


 矍鑠(かくしゃく)とした様子のウーラさんの後を着いていくと、集落の中心にあるお屋敷へと辿り着き、中へ通された。そこで待っていたのは──


「久しぶりですね、ヴィンセント」

「ご無沙汰しています。伯母上」


 ヴィンセント様によく似た、美しい女性だった。

 伯母上ということは、もしかしなくとも、ヴィンセント様の亡くなられたお母様の姉妹ということかしら。


 執務室に飾られていた肖像画を思い出した私は、その面影を彼女に重ねた。


「いらっしゃい、ヴェルヘルミーナ。会いたかったわ」


 ヴィンセント様は、いったい私のことをいつ知らせていたのだろうか。

 まるで、結婚は当然のような歓迎ムードに拍子抜けをしつつ、私は完璧な淑女の挨拶(カーテシー)を披露した。

次回、明日15時頃の更新になります


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