表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/23

第13話 「どうか、お力をお貸しください」

申し訳ありません!

間違えて14話を先に上げてました((( ;゜Д゜)))

修正させていただきます。

 それにしても、女性嫌いという噂は嘘だったのかしら。私の髪に触れるのも平気だし、会話をする彼の表情は微塵も固くない。むしろ、私の方がガチガチに緊張しているのは一目瞭然だろう。


 女性が嫌いな訳じゃないなら、どうして今までご結婚されずにいたのかしら。それに選んだ相手がどうして私だったのか。

 疑問は山のようにあるけど、それを口にしていいのか判断に困った。


「もう三十間近の私で申し訳ないが……結婚の申し入れを、受けてはくれないだろうか?」


 輝く琥珀色の瞳を見つめ、私は息を深く吸い込んだ。


「お受けする代わりに、条件がございます」


 一瞬、ヴィンセント様は眉間に小さなしわを寄せた。


「私の継母を、レドモンド家から追い出すご協力をお願いします! それが叶うのでしたら、貴方様の妻として一生尽くしましょう」


 汗ばむ手を握りしめ、私は交換条件を突きつける。それを聞いたヴィンセント様は、戸惑うことなく笑顔で「いいだろう」と即答した。


 大きな手が差し出される。


 おずおずと手を重ねれば、強く引かれて立つことを促され、私はヴィンセント様の胸へと倒れ込むようにして立ち上がった。


「申し訳ありません!」


 倒れ込んだ非礼を詫び、離れようとした私の腰に太い腕が回され、さらに引き寄せられた。

 心音が近い。

 早鐘を打つようなこの音は、果たして私の心音なのだろうか。


 そっと顔を上げると、綺麗な銀髪が日差しを浴びて輝き、ほんの少し眉を下げたヴィンセント様が私を見つめていた。


「ヴェルヘルミーナ、昔のように、また私をヴィンスと呼んでくれるかい?」


 女性なら誰でも酔ってしまうような端正な微笑みで、愛称で呼んでほしいとお願いするだなんて。恋になれた女性なら、すんなり、喜んでとお返事できたのかもしれない。

 だけど私は、どうお返事をしていいのか分からず、真っ青な空に視線を移して思考を斜め上に向けた。


 ひとまず、これで継母を追い出すための協力者を得られたわ。セドリック、お姉ちゃん、もっと頑張るわね。


 愛しのセドリックの笑顔を思い出し、心を落ち着けようと試みる。だけど、それをすぐにヴィンセント様の声が邪魔をした。


「ヴェルヘルミーナ? 聞こえているかい?」


 これは政略結婚よ。

 私は、セドリックのために結婚をするの。それが私の幸せであって──


 空を見上げてヴィンセント様から意識を逸らしていた私の視界に、再び綺麗なお顔がぬっと入り込む。


「相変わらず、ヴェルヘルミーナは照屋なようだね」


 ぼんやりとしか思い出せないヴィンスの笑顔が、彼に重なった。


 体温が一気に上がり、頭が熱くなっていく。

 何をどうお返事するのが正解なのか、全く分からない。考えるのも疲れてきたわ。


 ついに私の脳は考えるのを放棄した。


 視界がすっと昏くなる。

 私の名を呼ぶヴィンセント様の声と、ダリアの声が重なった。だけど、それに「心配しないで」と返すことすら出来ずに、私は意識を手放してしまった。



 声が聞こえる。誰かしら。

 何か、大切なことを言っている気がするわ……


「目を覚まして。あなたの──を思い出して」


 嗚呼(ああ)、肝心な部分が聞こえない。

 霧がかかっているようで、風が轟々(ごうごう)と吹くように言葉を消してしまう。


 私は何を忘れているというの。何を思い出さなくてはならないのかしら。それは、ヴィンセント様のことなのか。それとも、もっと別の何か──


 重たい目蓋をあげると、見慣れないベッドの天蓋が視界に映った。

 だけど、すぐには状況が理解できず、豪勢なベッドの上に横たわったまま、ぼんやり夢と現を漂っていた。


 ベッドはとてもふかふかで、頭がたくさんのクッションに埋もれている。シーツも真っ白でさらさら。仄かに香るのはラベンダーの精油を薄めたものかしら。とても心地が良いわ。

 こんなに気持ちのいい寝具で眠るのは何時ぶりかしら。お母様がお元気だったころ以来──再び目を閉ざしそうになった私は、ハッとして体を起こした。


「お目覚めですか、ヴェルヘルミーナ様」

「……ダリア。ここは、リリアードのお屋敷……?」

「はい。気を失われましたので、お借りしたお部屋にお連れしました。ご気分はいかがでしょうか」


 水を注いだグラスを差し出したダリアは、少し心配そうに尋ねてくる。


「大丈夫よ。それよりも、気を失うなんて……ヴィンセント様に失礼なことをしてしまったわ」

「馬車の旅での疲れが出たのでしょう。では、お嬢様がお目覚めになったことを、伝えて参ります」

「私も一緒に行くわ。非礼をお詫びしなくては」

「いいえ、お嬢様はお休みください!」

「で、でも……」


 ぴしゃりと言うダリアは、私の背とベッドの背もたれの間にクッションを挟むように立て、ベッドからは下りないようにと釘を刺した。


「ほら、もう元気だから」

「駄目です!」

「そんな……」


 空になったグラスをダリアに渡しながら、どうしても駄目かと目で訴えるも、彼女は頑なに「お休みください」と言った。

 そんな押し問答をしていると、部屋のドアが静かにノックされた。


 さっさとドアに歩み寄ったダリアは、そっと開けると「ヴィンセント様」と僅かに驚いた声を上げた。


「そろそろ目を覚ます頃かと……あぁ、やはり起きていたか。入って良いかな?」


 顔を出したヴィンセント様は、少し申し訳なさそうに微笑んで吐息をついた。


「そのままでいい。今、少し話を──」

「ヴェルヘルミーナ! 気分はいかが?」


 入り口で穏やかに話していたヴィンセント様の言葉を遮り、割って入ってきたのはローゼマリア様だった。今にも泣き出しそうな顔で、私の横になるベッドまで小走りで近づいてくる。


「ローゼマリア様──!?」

「長旅で疲れていたのに、休ませもせず振り回してしまって、ごめんなさい。熱はない? どこか痛いところがあったら遠慮なく言うのですよ」


 ローゼマリア様は、少しシワの刻まれた指で、私の頬に触れ、額を撫でるとほっと安堵の息を吐いた。熱がないことを確認したかったのだろう。その柔らかな指が心地よくて、私は微笑みながら頷いた。


義母(はは)上……ヴェルヘルミーナと話をしたいのですが」

「何を言っているのですか。今は、ゆっくり休ませなければならないでしょう。そもそも、貴方に頼むと私は言いましたよ。大切な嫁の体調に気づけないなんて、情けない!」

「それは……」


 矢継ぎ早に出てくるローゼマリア様の小言に、ヴィンセント様は困ったように口籠った。


 大きな体をされていても、母の言葉には逆らえないようだ。その姿はちょっと滑稽というか、大人しい大型犬が尻尾を垂れるような感じで可愛らしい。

 何だか、ヴィンセント様が少しだけ不憫にも思えてきたわ。


 彼と幼い頃に会っていた。それも幼いながらに好意を寄せていた相手だと知ったのは、確かにショッキングだったけど。私が倒れたこととは関係ないわ。彼に非はない。


「ローゼマリア様、私はもう大丈夫です。少し疲れが出ただけでしょうから……それよりも、ご相談があります」

「ヴェルヘルミーナ……レドモンド家のことですか?」


 ベッド横の椅子に腰を下ろしたローゼマリア様は、私の手をそっと握りしめた。その顔は、私を案じているからか、まだ少し不安そうな表情を浮かべている。


 ヴィンセント様には交換条件があると伝えてはいるが、きちんとお話をして、継母を追い出す手立てを一緒に考えてもらわなければ。


「どうか、お力をお貸しください」


 ローゼマリア様の手に、片手を重ねた私は、継母がこれまで行ってきたことを全てお話した。

続きが気になる方はブックマークや、ページ下の☆☆☆☆☆で応援いただけますと嬉しいです。応援よろしくお願いします!↓↓

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ