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逆逆ギレしていい場面

 梅しそおかか。

 甘塩鮭。

 ほろりと口の中でほぐれる優しさの詰まった米。


 俺はこの味を一生忘れない。

 もう今日はこれで終わりにしたい。

 あとは彼女へどうやって感謝を伝えるかずっと考えていたい。

 戒め? なんだっけ?


「だというのに、誰だオマエ」

 激しくデジャブ。


 俺の横で、まわりの席を寄せてスペースを作り、床に両膝を突き頭も擦りつけている土下座野郎が一匹。しかもまたピンク色。クラスの視線を一手に集め、特に女子の数人は口を押さえ信じられないものを見る目になっている。

 また周防のやつかと思えば、当人は俺のすぐ近くで腕を組み立ったまま。


「だから三組の君島陽太だってさっきから言ってるだろう! ちゃんと聞けよ!」


 土下座してるやつが逆ギレしてるよ。

 これは俺が逆逆ギレしていい場面だと思うがいかがか。


 重なる色が目の前でウザいので、昨日新しく買った伊達メガネを胸ポケットから取り出してかける。テーマは知的でクール。のはず。


「お前のトモダチ?」

 周防に尋ねると、首を捻って「知ってはいるけど」と別段親しくない様子。


 行人をイジメてたやつらの中で『今のうちに謝っとけキャンペーン』でも始まっているのだろうか。そこまで脅迫した覚えはないのだが。


「よくわからないけど、まわりの迷惑だから席を戻して帰ってくれよ」

「いいや。願いをきいてくれるまでは帰らねえ」


 願い。なんだコイツ。

 謝ってたんじゃないのか。

 行人が何か頼まれていたのか。


 思い当たるのは、フィギュアコレクションを譲ってくれとか。

 あれは大半売り捌いたしなあ。残ってるやつに手を付けると、俺が気を失うほどに危ないんだよ。


「無理だ。簡単に譲れるものじゃない」

「そこを何とか! 本気で長嶺を尊敬してるんだ。全部とは言わない。序盤の掴みだけでも伝授願いたい」


 尊敬。伝授。

 いよいよわからん。

 プロ営業を目指してるのか。

 いや俺のこと知らんだろ。

 行人の方面だと、そうかゲームか。

 それこそ俺には無理だ。


「悪いが俺は、事故で頭を打った所為で色々忘れてしまったんだ」


 逆ギレ君が迫って顔を上げる。


とぼけないでくれ。昨日だって早坂千代乃とよろしくやってたじゃないか。俺は彼女に告ってスルーされたからよくわかる。あれだけ難しい女と親密になれるのは長嶺に相当の実力があるからだろ。周防新の比じゃない」


 絶句。

 見られていたのか。


 誰かに見られること自体は想定していたからいい。虫除け活動の一環だ。

 彼女と二人でいるところを少しずつ目撃され噂になることで、俺の存在を『厄介な邪魔者』として浸透させる。

 そうすればオスどもは彼女へアプローチする前に俺を排除しにかかってくる。そこへシュッとひと吹き宣告して退治。

 それが狙いだったのに、まさかこんな奴が最初の目撃者だったとは。

 俺をナンパの神と勘違いして絶賛大公開するとか何してくれてんだコイツ。


「聞き捨てならないな。兄さんは」

「お前はややこしくなるから黙ってろ。そっち方面で俺がお前の兄貴に敵うわけないだろ」


 だよね。ニコ。じゃねえよ。

 ああイライラする。


「何か大きな誤解をしているようだが。昨日は早坂先輩が、緊張して疲れきった俺を見兼ねて昼飯に誘ってくれたんだ。これからの生徒会をどうしていくかも話し合ってた。それだけだ」


 逆ギレ野郎、空気を読まないどころか俺の作る流れに逆らい続ける。


「誤解のわけあるか。あんみつ食わせて可愛いとか、そのメガネだって」

「意味がわからないな。そもそも、」

 どんだけアホなんだよオマエは!

 時間経ってからシラフで思い出すと悶絶するほど恥ずかしいんだよ!


———— メガネ屋さんは駅前にあったかな。ユキト視力弱いの?

———— いえ、伊達ですよ。気持ちを切り替えるスイッチみたいな感じですね

———— ふうん。なんか面白そう

———— あとは、千代乃さんに色目使ってるのがバレないようにかな

———— ふうん。なんかヤラシイからわたしが選ぶ


 学校帰りのメガネ屋さんデート。

 クソ可愛いすぎた。


 死にたくなければ聞け。


「そもそも、教えを乞おうとしている相手を困らせるとはどういう了見だ」


 いい加減にしろよ。色ボケしたガキが。

 メガネを外し、逆ギレ坊主を睨みつける。


「ごっ、誤解したかもしれない! しれません……」


 あらかわいい。

 てかコイツ、周防と違った方面で顔がいいな。

 さっきから「ヨウタくんやめて〜」みたいな声もちらほらしてたし。 

 上手くすれば使えるか。


「俺を尊敬していると言ったな。本気か?」

「本気だ。嘘などない」


 また白。


「なら、それを信じてやる。俺の味方になれ。俺を手伝え」


「承知。不肖、君島陽太。今この時より師匠と呼ばせてもらう」


 なんかキャラ変わってんぞ。

 ピンク色になられる前にメガネかけ直した。


「ええっ、酷いよユキト君、パートナーはスグルだけだって言ったじゃないかあ」


 言ってねえし。

 どいつもこいつも鬱陶しい。

 いいから喧嘩始めんなお前ら。片付けろよ。


 小宮山、お前は来るな。いいからこっち来るな。


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