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すべて女神サービスのおかげです


———— えー。それじゃ、生物多様性について。軽くおさらいからいくよ


 死神の天敵はムシ。


 死神は食物連鎖の中では圧倒的消費者のイメージだったが違った。

 我が女神の奇跡『早坂のだよ持出禁止』シリーズ『生物基礎』の原書を開き、猿にも知恵を与えてしまうほどわかり易くまとめられた生態系ピラミッドを眺めながら、死神の存在について取り留めのないことを考えていた。


 ムシが本当に虫ならば、この図に死神を当てはめるとずいぶん下層の位置付けとなる。でも、ムシがサカナ獲って食ってた時点でわけがわからんしな。意味ないか。


 “頂点は王様ってことじゃなくて、

 このピラミッドがないと生きられないってこと”


 最強の猛禽類が生態系の中では繊細で脆い存在であるとわからせる注意書きは、自然の摂理を納得させると同時に、人間がいかにデタラメな存在かを知らしめている。


 メガネに中指の腹を軽く押し当て、人類の行く末を案じつつ原書をめくる。

 今の俺、ちょっと知的じゃね?

 などと思い上がってはいけない。


「……なんだ思い出せないか。じゃあ長嶺、覚えてるか?」

「え、あ、はい。何でしたっけ?」

「勉強したばかりなんだから、思い出してみろ。ほら、ヒトが生態系から受ける恩恵のことをなんと言う?」


———— じゃあ女神様からの恩恵は女神サービスですか。なんかエロいですね

———— はよ答え書け


「生態系サービス、です」

「正解。その生態系を維持するために重要となるのが……、周防、起きてるか?」


 はい。すべて女神サービスのおかげです。

 一日たりとも感謝は忘れていませんとも。


 ちなみに、休み明けはどの教科も小テストが乱発するとかで、女神の原書は一通り借りたままだ。返す意思はまだあるので借りパクではない。まだ。


 だがかなり愛着があるのは確かだ。

 既に俺の体の一部と言って差し支えない。

 これがないと死ぬ。もう死んだけど。また死ぬ。


 そしてさらに、黒澤から借りたこのメガネ。

 ただの伊達メガネだけど超快適。何がいいって、選別眼の煩い色をカットできる。


 実はガラス一枚隔てるだけで選別眼の能力が発揮できなくなるという、がっかりなしょぼい弱点だったりするのだが、思い込みというのは恐ろしいもので、今まで全く気付けなかった。

 この弱点を有効活用して能力のオン、オフできるようにしてしまうライフハックがザ・メガネというわけ。「あなたの様子だと、すぐに要らなくなるでしょうけど」とは言われたが、もうこれも必須アイテム。

 これで見た目はインテリ階級の仲間入り。授業も気分がのってくるよ。


「ふぁ。多様性です」


 メガネ不要な遺伝子レベルのインテリ。ほんとムカつく。


「そうOK。じゃあ多様性の意味、三つ挙げてみよう……」

 

 多様性。これは自然界に限らないキーワードだ。ダイバーシティとも呼ばれ、企業の評価指標として注目度が高まる傾向から、大手企業が好んで推進をアピールしていたりする。多様な人材がその能力を最大限発揮できる機会を提供することで、革新をもたらし、新たな価値の創造へつなげる経営戦略、っぽいやつ。


「種の多様性、遺伝子の多様性、生態系の多様性、です」

「パーフェクト。さすが伊藤」


 とはいえ、人類以外の種と仕事するまでは進んでいないけども。今は遺伝子の多様性を取り入れつつ、生態系の多様性、つまり他所の企業との融合と分離に熱心といったところだろうか。緩いもんだよな。

 俺なんか女神と死神とムシだぞ。どんだけ最先端だよって話だ。

 ふと、ルミさんのぼやく言葉を思い出す。


 ———— 人間同士が魂を削り合うのは習性のようなものですから……

 

 単に俺の記憶を辿っただけの感想じゃない。

 人間という種をよく知っている口ぶりだった。


 人間の記憶を自由に覗き見ることができ、時には身体を乗っ取り利用することもできる。アレがもし生き物だとすれば、種としての優位性は圧倒的な差があるはずだ。

 だというのに、なぜだ。


「……というわけで、これまで生態系、生物多様性とマクロ的視点で学んできたわけだけども、次は一気にミクロの世界である、」


「先生、質問いいでしょうか?」


「お、長嶺。質問ウェルカム」


「強い種が弱い種を駆逐しないのは、本能か何かで多様性を考慮しているからでしょうか?」


 つい、軽いミーティングのつもりで口を挟んでしまった。

 悪目立ちするかと少し後悔したが、仕方なし。


「いい質問だ。しかし禁断の質問でもある」

 ニチャアってすんな。


「じゃ取り下げます」

「淡泊だな。まあ待て。その問いは、今でも研究課題なんだ」


 なんだか嬉しそうなので放っておくと、変わったことを言い出した。

 人類の将来は美男美女だけになっていくという予想。


 自分の恋愛観など無視、とにかく結婚して子供を増やしたい。そう考える人は今や殆どいないだろう。ならば、自然と異性にモテる美男美女同士だけが結ばれ、その他の血筋は絶えるはず。という理屈。


 その予想は正しいと思うか、誤っていると思うか。


「小宮山、どうだ?」

「オレ? んー。美女、つっても好みとか人それぞれじゃね?」


 答えになっていないが、同じ系統に偏ることはないと言いたいのだろう。

 それよりコイツに女の好みなんてあったのか?


「小宮山の好みだったら杉田先輩そっくりの女が優勝だろ」

 誰かのツッコミにどっと笑いが湧き起こる。

 あまりに周知の事実だったらしい。

 杉田B、しばらくはコラ画像で遊ばれそうだな。


「確かに、好みの多様性はいい着眼だな。富田はどう思う?」

 今度は喜んでウケていた女子を指名する。


「えっ、えっとね。たぶん、きっとムリ」


 JKの「ムリ」は範囲が広すぎて、それのみでは正しい理解が無理説。

 先生のドヤ顔がキモくてムリ、なんてことだと大荒れ必至。


「富田の好みはイケメンが無理ってことか?」

 先生、ナイスアプローチ。


「は。イケメン上等に決まってるし。てかぁ、みんな同じようなイケメンばっかで、同じカワイイ子好きになったらケンカするじゃん? で、みんな同じくらい強いから、みんな死んじゃうみたいな」


 おおっ、深いなJKのムリ!


 アホっぽいの期待してしまったが、実に鋭い着眼点だと思う。しかも論理的思考が素早く成り立っている。

 突然のリケジョ爆誕に先生も感動。


「なるほど。富田の考えだと、美男より強い男が残るわけだな」


「え、違うよ? デカマッチョとかムリだし」


 富田嬢の進化論、そんな単純じゃなかった。


「というと?」


「アタシとかイケメンでダメなオトコの方を選んじゃうじゃん? だからダメ人間ばっかになって人類滅ぶ的な?」


 これぞ真に有力な人類衰退論。これ以上のオスに対する理不尽はあるだろうか。富田嬢のスマホがブンブン鳴って女子から絶賛の嵐が届いているようだ。授業でバズってるヤバいと喜んでいる。


 これな、ダメな男が顔を弄ればいいってわけじゃないからな。女ってのは真にダメな男はちゃんと嗅ぎ分けてるんだぞ。

 ここで言うダメな男は普段からゴロゴロしてるくせになぜか髪型崩れないし、金ないくせに身につけるものセンスいいし、シャワー面倒くさいとか言っていきなり抱いてくるのにいい匂いがするという、謎なダメさだからな。詳しく学びたいやつは美咲ちゃんに教えてもらえ。二時間以上の熱弁が聞けるぞ。


 男子連中、お通夜状態へ。


「ほらわかったから、スマホ触るな。おい男子諸君、反論しないと絶滅してしまうぞ? ……本当に人類終わりそうだな」


 そんな風景に女子までどんより空気になる。

 ここまで互いに絶望する必要があるのだろうかと不思議になる。


「それで、最新の研究でも富田さん理論と同じ感じなんですか?」


 議題の発散が好きでない俺は、我慢ならずまとめを煽った。


 俺が「富田」の名を口にしたら、富田さんが一瞬こっちを見て驚いていた。まあこの瞬間に俺が富田理論の名付け親になってしまったようなものだが。


「おお悪いな。富田理論は少々過激だが、概ね多様性は保たれる考えが多い。それを裏付けるひとつの説がこれだ」


 先生は教壇から離れて、周防の席の前に立つ。

 周防弟、爆睡中である。

 すこんとテキストの角が頭に落ちた。


「いま天変地異が起これば、呑気な性格の彼は夢見心地のまま死ぬお間抜け君。そんな感じで、異性にモテまくる種は、必ずしも他の種を駆逐できるほど強いわけじゃない。そういう見方だ」


「つまり、周防君がモテているうちは、僕らが駆逐されることはないのですね」

 ら? ら? ぽつぽつヤローどもの反応。

 わざと巻き込んでやった。


「卑屈なのかポジティブなのか……。まあ長嶺の言う通りかもしれないが、大事なのは、競争に強い種だけが増え続けることはできないという考え方だ」

 周防のような存在が種の競争力を抑制するわけか。

 めちゃくちゃ参考になるな。高校生物。


 死神の生態系に人間が含まれている可能性を理解した。

 にしても男子、もうちょい希望持て。


「先生。質問した手前責任を感じます。僕らに何か明るい希望を」

 ら。ら。ぽつぽつヤローどもの反応。


 自分も科学に携わる端くれとして一家言あるところを見せねばと思ったかどうかは知らないが、先生、ちょっと引き合いに出す生き物の選択を誤る。


「テキストにあまり出てこないんだが、生態系に重要な存在として寄生虫がいる。寄生虫は……」

「うわ、キショッ!」「やだあー、サイアクー」「センセキモーい」

 強制シャットアウト。明るい希望つったのに。


 きっといいハナシなんだろうけどな。

 悲しまないでくれ先生。

 また今度ご教授願いたい。機会あれば。覚えてたら。


「心配しなくてもユキト君にはばっちりおすそ分けするからさっ!」

「お前は寝てろ」


 ちなみにこれ以降、周防弟にくっついて女子と接触しようとする男子はみな寄生虫、サナダムシ君、サナダーなどと呼ばれるようになった。


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