言ってみたかった第一位なんだけどな
——— 馴れ馴れしいぞ。誰だオマエ
つい、地が出てしまった。
大注目を浴びてしまう。
それほど大きな声を出したつもりはなかったんだが。
やっちまったと思ってから三秒。
「やだなあ。この周防優を忘れるとか、有り得ないぞっ」
ウィンクばちっ。
ああ、コイツの寿命削りてえ。
——— 僕は去るけど、弟の事はよろしく
断ったはずだが。キッパリと。
本気で手が出そうだ。
「いいからあっち戻れよ」
追い払うように手の甲を振って見せるも動じない。
「つれないなあ。せっかく遠い倉庫から新品の机を選んで持って来たってのにさ」
「そのくらい当たり前だ。オマエもバカ共と一緒に俺の机ガリガリ削って穴開けてたじゃねえか」
ソイツと会話するうちに突然蘇った記憶が口を衝いて出た。
ちくりと胃袋に針が一本刺さったかのような痛みが走る。きっと行人の反応だ。
クソガキどもが暇さえあれば行人の机に寄って集って、好き放題してくれようだ。
頭ごなしに拒絶していると、ソイツはまわりの席を寄せてスペースを作り、床に両膝を突く。そのまま顔も床に着けた。
「ごめんなさい」
Oh、ジャパニーズ・ドゲザ。
セップク、セップクウ。
ハラキーリ、Yeah! Yeah!
クソ面白くない。
兄貴と同じく計算高い奴のはず。
周囲を味方につけて許しを乞うつもりか。
「やめろ。不快だ」
「それと! 兄さんを救ってくれてありがとう。
本当に感謝してるんだ。キミには」
本当に不快なんだよ。
だってさ、ピンクだぞ、桃色だぞ。
コイツの頭ん中どうなってんだって話だ。
それでもって、軽く見回すと赤黒いのが三つ。
警戒したものの、思ったより少ない。
ま、敵意向けられたくらいでいちいち対処してたらカラダが足りないけどな。
でも、あの一個はよろしくない。
「立てよ。本当に不快なんだよ」
「このまま踏みつけてくれていい。思いっきり蹴り飛ばしてくれていい」
まったく低次元でお粗末。
そんな誘いに俺がのるとでも本気で思ってるわけじゃないだろうな。
もしそうだったらオマエの兄貴が絶望するぞ。
俺は周防弟の傍らに立ち、静かに腰を落とす。
そして、試すつもりでぼそりと耳打ちする。
すると、ソイツはすくっと立ち上がり、元のハーレムコーナーへ戻ると、スマホを握る一人の女子の腕を掴み上げる。
「頼んでないこと、しないでくれるかな」
「だ、だって……」
そのまま握力をかけて締め上げていく。
言い訳は続かず恐怖と苦痛の表情へ変わっていく。
近くで棒立ちになっている連中は驚くばかりで何もしない。
「やめろ、周防」
やめようとしない。
アホかコイツ。
そこでパッと手を離して俺に主導権を握らせるのが定石だろが。
兄貴ほど計算のできるやつじゃないのか。
「やめろ、つってるだろ」
「イテっ」
後頭部を小突いてようやく止まった。
なんで不満そうな顔すんだよ。
オマエのために止めてやったんじゃねえか。
逆恨みするように俺を睨む赤黒の女子。
「君さ、早くその動画撮影をやめて消したほうがいい」
そこまで声を掛けて、『一秒撮るごとに君の命が一年短くなるよ』と唇だけを動かす。これ、ルミさんに教わったテクニック。アナタはもう直接声に出すと影響が強すぎるからと。
その子はすぐに取り乱し始め、震える手が何度もスマホを床に落としながら、どうにかこうにかアプリを止めて動画ファイルを消した。
まだ口を押さえて震えている。二十年分くらい寿命が縮んだ気分だろうから無理もないが、このまま注目され続けるのはよろしくない。
俺は周防弟と向き合う。
「俺は人を踏んだり蹴ったりしても全く面白くない。お前たちと一緒にするな」
目を逸らすかと思ったが、まっすぐ俺を見ている。
どんな罵声も浴びる姿勢か。
だから付き合わねえっつの。
録画するやつがいるなら録音してるやつもいるんだろ。
もしかしてちゃんと計算してるのかコイツ。
俺も利用させてもらうけども。
「俺に感謝してると言ったな。本気か?」
「本気さ。嘘じゃない」
白。ほう。潔白の白か、白旗の白か。
「なら、それに報いてみろ。俺の味方になれ。俺を手伝え」
歴史ドラマのようなセリフを吐いてみる。
第二次中二病の頃、言ってみたかった第一位なんだけどな。
「もとよりそのつもりさ!」
色濃くなったピンク。
勘弁しろよおい!
なんだか不気味だが、とりあえず言質はとった。
「もうわかったから、ほら、そこらの机戻せよ、迷惑だろ」
嬉しそうに片付け始める周防弟。
なぜに、教室入って五分でこんなにエネルギー消費するんだよ。
やっぱガキ共の相手キツい。こんなん続けてたらもたねえって。
このあと彼女の斜めったご機嫌を直すのもあるんだぞ。
大丈夫か俺。
「長嶺君、変わったね」
まだ俺の席の側に立っていた委員長が、プロ営業でなければ気が付かないほどの微かに和らいだ声で俺への感想を口にした。
「そう、かな」
「うん。なんか、すっきりした」
俺が髪を切ってすっきりしたという意味だろうけども、自分の気分がすっきりしたというようにも取れるような、すっきりした顔になって背を向けた。
「伊藤さん」
振り返るその子に、ようやく、余計な言葉が出てきた。
「椅子、運んでくれてありがとう」
小さく顎を引いて頷き、自分の席へ戻っていった。
この教室で唯一、心の休まる存在かもしれないな。大事にしよう。
そしてこのあと、無茶苦茶に小宮山がうざかった。




