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0点だよ死神さん

 ここまでが二度手間だったのね。ご苦労様。


「もう予想がつくと思いますが、魂のリユースで重要なのはタイミングです」


「人間の臓器移植みたいなものか」


「その通りです。ドナーとレシピエントの両者が同時に存在してこそ成り立ちます」


「つまり、俺が死んだ時、ちょうどよかったのは新生児じゃなく。ユキトくんか」


 ついに目を背けていた現実にぶち当たってしまう。俺は四十一歳の疲れたオッサンだぞ。中途半端な子供時代からやり直せって、どんだけキツい仕打ちだよ。


長嶺行人ながみねゆきと。それが貴方の新しい名前です」


 ユキトくんは高校生。七月には十六歳になるとのこと。父親を事故で亡くした母子家庭。母親とも複雑な関係のようだ。名と境遇を少し知ったところで、段々と頭が冷えてくる。


 まるで、新しいプロジェクトの検討を始めたような感覚。


「で。ユキトくんはなんで死んだのかな」


「事故です。歩道橋の階段から転落しました」


 言われて確信する。目に浮かぶ世界が忙しく回るその景色を、俺は知っていた。重い何かが幾つも腕にからみ、なす術なく転がり続けた。

 だが、致命傷は無かったはずだ。


「本当にそれが死因なのか? それに、俺のものでないこの記憶はなんだ?」


 俺は指先で自分の頭を突いて、身に覚えのない憶えている事について言及する。


「稀に、強いショックから思い込みで死亡する事があります。今回はそれに該当すると判断されました。そして記憶の方は、おそらく本人の記憶の残渣だと思われます」


「待ってくれ。もしかしてカラダの方にユキトくんの記憶は残っていて、俺の方が侵食されるのか?」


「それはありません。魂の比率と同じく、九十パーセントは貴方の記憶で埋められます。残り十パーセントの領域に、記憶とも呼べない長嶺行人の名残、形跡のようなものがあるのでしょう」


 しっくりこない。ここにきて歯切れの悪い説明に感じる。


 冷静に考えてみればおかしな話だ。

 ユキトくんのカラダは傷んだものの問題は無かった。勘違いで魂が離れたならば、それを元のカラダに戻してリユースするのがもっとも合理的。リサイクルで補う不足分も少なく済んだかもしれない。


 それをわざわざ他人丼みたいなことする意味がわからん。これを有耶無耶にするのは良くない。直感でそう思った。根拠は俺のリーマン歴。


「井澤さん。俺はあなたの真っ直ぐで嘘を嫌う澄んだ瞳を好ましく思っている」


「ふえっ?」


 華奢な両肩を掴んで訴えかける。

 ここが会社なら触れた時点でセクハラアウトだが、夢の中チャレンジ。間の抜けた声を上げて呆ける顔をじっと見つめて反応を待つ。


 井澤さんは自分の仕事にプライドをもっている。少なくとも俺の記憶にある彼女は、ここまで言われて恍けることなど出来はしない。


 目を逸らした。俺の勝ちだ。


「嘘など何もありません」

「訊かれなかったから言わなかっただけ。そんな小悪魔みたいなところも好ましい」


 ぼす。


 マイクが俺の胸に当たる。両腕を伸ばして距離をとろうとしているのだろうが、その力は弱々しい。当然、俺はがっつり掴んだ彼女の肩を離すことはしない。無駄な抵抗はすぐに諦めがついたようだ。


 この人物を使ったのは失敗でしたね。


 耳まで赤くなった彼女は若干の後悔を呟き、上着の別のポケットから綿毛状の小さな塊を取り出した。


「人の死を言い換えれば、肉体と魂の乖離です。貴方の場合は物理的な力によって肉体が魂を留める力を失い分離しました。それとは反対のケースがあります」


「……魂が肉体を留める力を失う?」


「はい。魂も損耗し弱ります。肉体が寿命以外に怪我や病気で衰える事があるのと同じです」


 それがユキトくんの場合だったと。

 では何によって弱ったのか。


「思い込みでも魂は弱ってしまうのか」


 わざとらしく俺が考えている風に呟くと彼女は苦い顔になる。


「ごめんなさい。その説明には語弊がありました。魂が弱りきった状態では、ちょっとした契機で肉体が離れてしまうのです」


 ならば、何によって弱ったのか。

 いや、思春期の子供が魂を削られるほど弱る理由なんて高が知れている。なんなら今日のニュースでも流れていることだろう。俺がリアルに被るのはしんどいだろうが、四十一年も生きていればそれなりに俯瞰した対処は可能だ。

 だからこれまでの経緯よりも、俺がスタートから背負い込むハンデの有無を確認しなくてはいけない。


「率直に問わせてもらう。自殺か?」


 だとすれば、復帰までに相当な苦労を覚悟しなくてはならない。世間の注目を浴び、地元では避けられ、親と学校からは腫れ物のように扱われる。

 やりにくいことこの上ないだろう。


 しかし、彼女はゆっくりと頭を振ってくれた。嘘はないと信じられる。


「人が魂を直接認識することはできませんが、その健全性は生きようとする精神活動によく顕れます。統計的には魂の損耗が七十パーセントを超えると、自殺者が指数的に増加傾向となっています」


 すごいね。統計とってるんだ。総務省もびっくりだ。精神活動ねえ。思いっきり心当たりあるんだが。


「俺、生きる気力だいぶ失ってたけど。もしかして魂も弱ってた?」


「魂が損耗していると精神が弱るというのは十分条件であって必要十分にあらず。気力が無いからと言って、魂が損耗しているとは限りません。貴方の場合、死の直前は気力が漲っていたようですが?」


 気力じゃなくて精力ね。冗談ですごめんなさい。ジト目と溜め息やめてください。


 そうだ、さっきのスマホちょっと借りられないかな。

 夢だから意味ない? そうでしたね。


「ま、自殺じゃなきゃどうにかなるか」


 この状況に諦めもついてきて独り言ちると、彼女も深く頷き同意する。


「自ら命を絶つ行為は魂を全消滅させてしまいます。誰も得をしません。それよりも、こうして少しでも残れば、また役立てることができるのですから」


 と、意識から外れかけていた綿毛の塊を目の間に持ってこられる。


 タンポポのような、たまに女の子のバッグに見かけるボンボンのような。目の前にして、内側から何かが湧き出ては先端で消える流れが、綿毛のように見えているのだとわかった。


「まさかそれが?」

「長嶺行人の魂です。回収した時には十パーセントしか残っていませんでした」


「九割損耗って、どんだけの苦行だったんだよ」


「推して知るべしとしか。私たちは死の妥当性を評価しません」


 難しい言い方をするが、要は死神というのは死に至る経緯については感知しないということだ。死神の価値観はそれでいいと俺は納得する。ヒトの人生パッと眺めて同情されたり評価さたりなんて、死んでも御免だ。死んだけどね。


 だから俺も口には出さず、ユキトくんの善戦を心から称賛する。そして俺は奇妙な数字の偶然を心から疑う。根拠は俺の営業戦術。

 俺が九十、ユキトくんが十。足して百パーセント、イエーイ。ハイタッチ。


「ところで、数字に正確な井澤さん。もしかして俺の魂って九十パーセント以上残ってなかった?」


「交渉がしたかったのです」

 誤魔化しやがった。


「これは既に私の方で不純物を取り除いた高い純度の状態です。鮮度も問題なく、元のカラダにもよく馴染みますので、リユースしてはいかがかと」


 やはりそれが望みか。

 よし。ここからは交渉だ。


「現在承認されているのは一人物のリユースだけと聞いたが。十パーセントとはいえ、二人分を混合するリユースになるのはそちらの規定違反になるのでは?」

 まずは想定質問だ。


「仰るとおりです。無断でこれを推し進めたなら結構な重罪になります。ですが、これは公開される治験のようなもので、私にはその実施資格があるのです」


 治験ときたか。

 つまり俺の前に現れたのは単なるリユース資格を持った死神さんではなく、研究者か開発者に相当するような身分なのか。


 なるほどな。そういった顧客も過去に経験はある。

 大概困っているのは資金不足もさることながら研究サンプルの確保だ。ライバルを出し抜いて成果を得るために少しでも多くのサンプルを実験に使いたいが、最終段階に近づくほど倫理面や法規面のハードルが高くなる。

 そこで、研究者とお役人とメーカーのマッチングを図ってウィン・ウィンの関係を構築する、俺のような商人の出番だ。まあ誰か一人でも頭のネジが緩いとすぐお縄につくような危険があるけども、うまくハマれば、資金と数に物を言わせて成果を勝ち取れるのでリターンもでかい。


 それで、この死神さんの場合、研究者当人が直接アプローチしてくるあたり、どう見ても小規模零細と言わざるを得ない。大手に打ち勝つため、俺をうまく使って一足飛びの実験をしたがっているに違いない。

 死神業界の構図なんて知ったことではない勝手な想像だが、当たらずとも遠からずという確信に近い予感はする。


「なるほど治験か。将来の役に立つのは理解するが、俺にメリットはあるのかな」


「新しいカラダに移転後、元の持ち主の過去に関する記憶を十パーセント分参照できます。これは貴方が新しい環境に適応するにあたり大いに役立つはずです」


 その通りだ。是非とも欲しい情報になる。

 それを主張するために、わざわざ俺の空き領域にユキトくんの記憶の残渣なんてものを置いて体感させていたのだ。エクスペリエンスに勝る説得力はないからな。やるな井澤さん。


「確かにそれはメリットだ。しかし、純粋な魂ということは、人格も十パーセント混入する。リスクがあるのでは?」


 一番の核心を突く。

 果たして俺を納得させる材料が出てくるか。


「十五歳の子供が残り僅かな魂になっても生きようとしていたのです。何か強い願いがあったのでしょう。九十パーセントの貴方にとっては雑音程度かもしれません。ですが、一緒に叶えてみたなら人生のプラスになると思いませんか?」


 情に訴えてきやがった。

 おいおい。そらないだろ。

 どっちらけだよ。


「0点だよ死神さん。せっかく井澤さんの顔使ってるのにがっかりさせんな」


「なっ」


 俺は井澤さんが悪い顔になってニヤリとする笑顔が見たいんだよ!


 その無感情な唇の端が吊り上がったら最高じゃねえか。


「察しが悪いようだから質問を変えてやる。いきなり十パーセントなんて試しちゃっていいのか?」


 鎌を掛けてみた。死神だけに。二度目。


 俺はこの死神の成功実績は混合率五パーセントに満たないと見ている。そしてここへきてライバルに大きく水をあけられ、相当に焦っている。

 なぜなら、


「いくら研究目的でも、俺の魂をきっちり九十パーセントに『削り取る』のはいかがなものか。合意もなしに。希望すれば戻してくれるんだよね?」


 どうしても十パーセントに拘りたいのがバレバレなんだよ。

 こうして面倒な説明をしているのも合意書のようなものが存在するからだ。無断は重罪だと自分で言ってたくらいだからな。俺がここで拒否すれば先走った罪は露呈するだろう。

 そういやアホ君どうしたかな。


「わかりました。リスクに見合った報酬をお望みという事ですね」


 そういうこと。

 だいたい、俺の記憶を覗いてるならそのくらいの要求が出ることくらい先刻承知だろうに。あわよくば井澤さんの圧を使って事務的に済ませたかったもしれないが、俺と彼女は敵でありながら戦友みたいなものだ。記憶の漁りが甘いんだよ。


 いや、甘いというより、価値観が違いすぎるのか。

 これは要注意だ。


「それで報酬の話なんだが……」

「来月の二十日、十五時十三分ちょうどに長嶺家最寄りにあるコムラホームセンターの宝くじ売り場で連番十枚をお求めください」


「え、なにそれ?」

「私たちがよく用いる報酬の支払い方法です」


 まさかのニコニコ現金払い。

 完全に想定外だ。眩暈がするほど魅力的な直接的報酬。それって大当たり? 夢の不労働人生が目の前に!


 くっ。堪えろ俺。

 そんな幸せ今までにあったか? 無いだろ? これからも無いんだよ。


「そ、それとは別に要求があるんだ」


「残念ながら寿命を延長するような事は不可能です。それに、貴方の魂に直接干渉することも」


「実験体を途中で弄ったら実験にならないくらいは理解している。実験で大事なのは俺の、俺たちの魂の健全性と肉体との結びつきが安定であること。それ以外は評価の対象にならない。合ってるか?」


「はい。合っています」


「実験期間はどのくらい?」


「人間の尺度でいうとおよそ二年間が判断指標です」


「わかった。なら、最低その期間は無償サポートが欲しい」


「サポート、といいますと?」


「ユキトくんの生前状況からして魂の損耗しやすい環境から実験が始まる。それは死神さんの望むところでもない」


「それは、そうですが」


「だから、俺の自助努力をサポートするツールが欲しい」


「すみません、話が見えないのですが」


 一気に捲し立てた俺は、行儀が悪いのも構わず正面の井澤さんを指差す。


「それだよ、その死神さんの能力。貸して」


 他人の記憶を覗き見て、利用する。

 営業マンからすれば夢の能力だ。宝くじの当せん金を注ぎ込んでも手に入れたい。要求を理解した井澤さん。溜め込んだ領収書の束を受け取った時の呆れ顔に近い。


「無理ですよ、それこそ私は厳罰ものです」


 そう。無理だろう。

 だからこその交渉なんだよ。


 目的の提示。

「この先、俺と同じサンプルを増やす必要があるし、できれば早期のうちに十パーセント超えの混合や三人以上のリユース混合も着手したい。違うか?」

 違わない。沈黙が肯定する。


 課題の提示。

「だが、サンプル数を急に増やすことは難しい。ゆえに、少ないサンプルで成功率を上げる必要がある」

 違わない。彼女の唇が固く閉じられる。


 そして解決策。

「実験体に直接干渉はできない。どうすればいいか。答えは簡単。同じ人間がサポートすればいい」

 ぱっと口がひらく。そうだ気付いたか、その通りだ。


 効果の確認。

「人間同士の活動は評価されない。俺が勝手に助けて、実験は成功するんだ」

 俺にツールを与えさえすれば。


 リスクの評価。

「全ての能力を貸せとは言わない。多少の制限があってもいい。死神さんの裁量で、必要な時に、必要な分だけ」


 お客様の場合、無理のない範囲でローンを組めばリスクはございません。的な。


 必殺の落とし文句をきめた。


 あとは死神さん脳内審議の結果を黙って待つだけ。脳あるか知らんが。


 じっと我慢。

 俯く井澤さん。

 俺は心の中で語りかける。


 どうか思い描いて欲しい。

 自分を嘲笑っていた強大なライバルたちが、たった一人に負けて悔しがる様を。


 研究者の頂点に立ち、彼らを見下ろす景色を。


 権威と化した己が名に注がれる尊敬を。

 

 再び顔をあげたとき。

 最高の笑顔だよ。井澤さん。


 その後、俺たちは直近の予定を話し合った。

 まず、ユキトくんの魂を混合する処置だが、これは俺が次に目覚める時には完了しているそうだ。それってもう着手してたって事だろと勘ぐりたくなったが、もうなんだか面倒なのでやめた。


 当面は肉体の治癒に専念し、退院を目処に俺が慣れてきたところで今後の詳細を協議する。俺は実験の合意書にサイン、彼女はサポートに関する覚書にサインした。たとえこれが夢の中だとしても、俺は軽んじたりしない。

 この取り交わしこそが信用なんだよ。アホ君。


 これで彼女の目的は果たせたはずと思えば、何やら口ごもる。


「長嶺行人の魂ですが、回収した時、本当は十二・五パーセントが残っていました」

「へえ」


 敢えて問わないでいたが、やはり井澤さんの性格では黙っていられなかったか。ユキトくんの魂も帳尻合わせのために削られていた。思ったより少なかったなというのが率直な感想だ。

 二・五パーセントの重みなど知らん。

 特に思うところは無いので軽く流した。


「怒らないのですか?」


「怒る理由が無い。ユキトくんの肉親でもないし、俺からすれば比率は少ないほど安全だしな」


「そんなものですか」


 世間に晒せば間違いなく炎上するだろうけども。

 不思議な顔になっているが、用も済んだはずなのに死神さんが井澤さんを使い続けている方が不思議だ。


 折角だからもう少し学んでおこう。


「ところで参考までに知りたいんだけど。俺のリユース先が男なのは偶然?」


「偶然といえばそうですね。ですが、今のところリユースは同性同士であることを配慮しています」


「つまり、女のカラダにもリユースできたわけだ」


「可能です。そちらがお望みでした?」


「いや。魂にも性別があるのかと思ってね」


「性別というよりタイプがたくさんあると考えた方が適切です。男性体、女性体に馴染みやすいタイプがあり、これも固定ではなく変遷して分化する傾向です。将来的には肉体の方もタイプが増えていくと予想されています」


「ほう。それって遠い未来の話?」


「リユースの繰り返し回数も私の研究テーマですよ。ご自分で未来を確かめるまで挑戦します?」


「ご冗談を」


 たわい無いやりとりで笑い合う。


 そろそろ頃合いか。


「井澤さんの姿を使ったの後悔してたみたいだけど、俺は正解だった思うよ。それに、人間にも分かりやすい簡潔な説明だった」


「そうでしょう。貧相な語彙の相手でも説明上手なのは上司にも評価されてます」


 上司いたんかい。あともうディスんな。

 その勝ち誇った顔。まるで本人そのままだ。


「もしかして、死神さんて井澤さん本人じゃないの?」


 くすりと笑うが、その真意は隠された気がする。

 と思ったら突然に不満顔になる。


「さっきから私のことイザワ、イザワって。前々から言ってますけど私は、」


「イサワさん。イサワ、ルミさん」


「……。覚えてたんですか」


 俺は本物の井澤さんに白状するつもりで答える。

「戦ってる時はイザワさん。味方をしてくれる時はイサワさん。僕には二人いたんです」


 これは本当で、いつの間にか自然に使い分けるようになっていた。

 経費を却下されるとほんとアタマにきてたからね。後に引き摺らないように。


「勝手に私を二重人格者みたいな扱いしないでください」


「まあまあ。これからは、イサワさん。そう信じてますよ」


「それはどうでしょう」

 不適な笑みに変わった。それも悪くない。


「本当はイザワさんも結構好きなんで。僕はどちらでも」


 これも本当。彼女と対峙するのはわりと楽しかった。

 領収書を対戦カードに見立てたゲーム感覚だと言ったら本気で怒るだろうけど。まずい。今度こそ顔を真っ赤にさせてしまった。


 こんなオッサンの軽口に毎度反応しすぎなんだよ、この子は。ふと気付けば、俺の隣に瞬間移動。ベッドに腰掛けていた。


 とろりとした目になって、みるみる顔が近づいて耳元に囁かれる。


「私も、貴方のこと結構好きでした」


 完全にやり返された。

 余裕度ゼロ。

 ナイスミドルな対応不可。

 キョドったキモいおっさんを晒してしまう。


 見遣れば、マイクを大鎌に変化させ肩に担げ、紅い頬のまま微笑んでいる。その妖しさは、貧相な語彙がもどかしいほどに、めちゃくちゃに魅力的だ。


 死神おそるべし。

 悔しいが、最後の最後で俺の完敗。


 翌日、再び目を覚ますと、全身の痛みは少しだけマシになっていた。


 そして、理由もなく少しだけ泣いた。


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