【幕間】
客の途切れた喫茶SUZUNE。
溜まった食器を洗い終え、カウンターのカップに試行錯誤中のブレンドを注いで一息つく。
秋冬に向けたイメージと照らし、豆の種類と焙煎の具合を毎日少しずつ変えて詰めていく作業。そのはずが、いつの間にか受験生ならばカフェインを強めるか、多用するかも知れないから逆かと考えを巡らせている自分に気付き、ひとりで笑ってしまう。
コーヒーの事でお題を出されたのはいつ以来だろうか。
気分よく昔の思い出に浸っていると、懐の震えが割り込んでくる。
古馴染みからの電話。
「こんな時間に珍しいじゃないか」
逸早く手に入れた情報で驚かせたかったようだが、期待通りの反応はできなかった。奇しくも当事者に近い者から知らされていたから。
「知ってるよ。ついさっき、例の生徒さんがまた来てくれてね。直接聞いた」
隅の席で俯いていた少年とは別人かと思うほどの変わり様だったが。
解決したという言葉が本当であることはよく分かった。
「周防さんの息子には可哀想だが、もう姑息な真似はしてこないだろう」
我が子を使って立ち退きを交渉させ、断る店には取り巻きの生徒が限度ぎりぎりの嫌がらせを延々と続ける。脅迫とまでは決めつけられない巧妙な言葉遣いで大人を追い詰めていく様は、非道の血筋を生々しく感じさせた。
未成年であるが故に警察へ相談しても反応は鈍く、我々は泣き寝入りするほかなかった。
ところが最近に来て耳目を疑う変化が続いていた。
あれだけしつこく続いていた店への嫌がらせがぱたりと止み、駅前再開発の方針を一から見直すという報せが市から届いた。
そして先日、再開発を取り仕切る市議であり不動産会社の経営者にして息子を非道に操る張本人が、商工会の会合に突如現れ土下するという衝撃的なパフォーマンスを披露。
「ああ。こうなると周防さんの豹変ぶりも単なる演技ではないかも知れないな」
これは好機だ、今こそ積年の恨みはらさでおくべきかと息巻く古馴染み。
今日彼らが訪れていなければ自分も同調していたに違いない。
そう思えることがおかしくてたまらない。
「まあ落ち着けよ。いい機会だ。もっと文化的にいこうじゃないか」




