2.悪役令嬢達の必勝ルートを探せ
「ルイーズ! この馬鹿者!!」
「ですがお父様」
「ですが、ではない! ラムバレド公爵子息をそのままお帰しするとは何事だ!」
どうやら、先程の顔合わせ時に控えていた侍女の誰かが、お父様に事のあらましを報告したようだ。
「……申し訳ありません。お声掛けする間も無かったものですから」
「そうは言っても、医師を呼ぶとか応接室で介抱するとかだな……!」
何を言っても聞き入れて貰えそうに無かったので、反論はせずに俯き、その場をやり過ごす。
「……いや、しかしクリストファー殿は間もなくあの若さで父君の後を継ぎ、近衛騎士団を率いる事になる武人だ。
胃が痛むなど方便だったのだろう…。
ルイーゼ、何か粗相の心当たりは無いのか?
もしや、魔法の事は話していないだろうな?」
「…………はい、勿論です」
(……それは文官の偏見では? どれほどの武人でも胃ぐらい痛むと思うけれど……。
ほら、前世の有名格闘家なんて、現役時代は胃薬が手放せなかったって逸話が……)
「そもそも、例の件から少し気が回らないと言うか……。お前らしくないのではないか? ルイーズ」
「……申し訳ありません」
「幼い頃からの、王妃になると言う夢が打ち砕かれてしまったんだ。
お前の辛い気持ちも分かるが……。
そんな事では、今回陛下から頂いたご縁も、また王太子殿下の二の舞になってしまうぞ。
婚約破棄されてしまったお前が、臣籍降下された王弟殿下のご嫡男、クリストファー殿と婚約できるなど、陛下の破格の温情なのだからな」
「はい、肝に銘じます」
「ふう……もういい、部屋に戻りなさい」
軽く頭を下げてから、父の執務室を退出した。
扉が閉まる瞬間、チラリと盗み見た父の後ろ姿は、ここ数週間ですっかり草臥れてしまった様だった。
(…………きっと、私が国外追放とか勘当されて平民落ちとかのルートに入らずに済んだのは、お父様の尽力あっての事よね…。
心労MAXって感じだったもの。
どうやら悪役令嬢みたいだからこれも運命とは言え、不出来な娘でごめんなさい……。
でも娘としては、父親が侯爵家当主として有能で嬉しい!!
ありがたや、ありがたや~~)
心の中でこっそり日本式に手を合わせていると、広くて長い廊下に飾ってある、歴代の侯爵家当主とその家族達の肖像画が目に留まった。
(……ええとご先祖様、王妃になり損ねてしまってすみません!!)
わが侯爵家は歴史も古く、過去には王女殿下が降嫁されたり、王子殿下を婿養子にお迎えしたりと家格も高いが、未だ王妃を輩出した事は無かった。
(つまり私が一族の悲願を叶える希望だった訳なんだけれど……。
まあ、侯爵家お取り潰しルートだって有り得たんだもんね! こうして無事にいられるだけで、なかなかの滑り出しよ)
それにしても……と、初顔合わせをした新しい婚約者のクリストファー様を頭に思い浮かべる。
(てっきり、冷酷傲慢な夫に冷遇されるルートだろうと踏んでいたけれど、クリストファー様は普通にいい人そうだった…みたい?
でも、きっと体調不良で調子が出なかったのかもね。
だって婚約破棄後に王命で結婚なんて、冷遇ルートと相場が決まってる。
ちょっとくらい想像と違っていても、きっと大丈夫よね……)
冷遇からの逆転だと、溺愛ルートとか
他にも…………
領地を繁栄させ領民が味方ルート
冒険者になり相棒と無双ルート
夫を捨て隣国で成り上がりルート
お忍び隣国王子に愛されルート
まだまだ他にも山程思い浮かぶ……。
「ここがどの乙女ゲームの世界か、全然分からないけれど……。
異世界転生モノを相当数やり込んだ「この私」なら、先人である悪役令嬢達の必勝パターンを知り尽くしてる!
必ずこの世界の悪役令嬢必勝ルートを探してやるわ!!」