1.断罪後の新しい婚約者
「この婚約は、国王陛下から勅令を受け結ばれたものだ。
この先、私が君を愛することはない」
「…………はい。承知いたしました」
ミモザが咲き乱れる庭園のガゼボで、新しい婚約者に断言された。
なるほど、これは悪役令嬢が断罪後に望まぬ結婚を押し付けられて、嫁ぎ先で冷酷傲慢な夫から冷遇されるルートみたいね……。
現在このように取り込み中ではありますが……
拝啓 日本の皆様、お元気ですか。
異世界から失礼します。
そちらは、紅葉が美しく色付く季節をお迎えでしょうか。
私、エクマーレ侯爵家の長女、ルイーズ・エクマーレと申します。
そして、いまわが侯爵家自慢のお庭で、新しい婚約者様と初顔合わせをしているところです。
実は私、先月の王宮舞踏会にて、幼い頃より婚約を結んでいた王太子殿下に、婚約を破棄されてしまいまして……。
そう、そうなのです! 舞踏会です!
つまり衆人環視のなかでした。鬼畜かっっ!
私は悪役令嬢として、身に覚えのある罪で断罪されたのです。
私、あまりのショックにバターーン! と倒れて、頭をしたたか打ち付けた時に、ズドーンと日本人のOLだった前世を思い出してしまいました。
えっ? 長い? それに誰に話してるんだって?
…………これは独り言なのです。
(だって、現実逃避しておふざけでもしていないと、心が折れちゃうわよ……。
断罪後に記憶取り戻すとか、定番だけど最悪よね。
パパッと髪色変えて、気分転換でもしたいなぁ。ほら紅葉みたいに燃えるような鮮やかな赤とか、黄色にオレンジカラーとかさ…。
お父様がショックで倒れちゃうから、絶対無理だけれど…………)
「うっ……」
「…………?」
現実を受け入れられず、前世で見ていた某テレビドラマのナレーション風な独り言で遊んでいると、小さなうめき声が聞こえ、正面に座る相手に意識を戻した。
「………………………」
目の前の新しい婚約者であるクリストファー様は、先程の勢いはどこへやら、無言で肩を震わせ俯いている。
「あの…クリストファー様?」
(ええと、これはあれ…? 断罪された悪女との婚約を陛下から無理やり押し付けられて……
くそっ怒りが抑えられん! みたいな?
やだなぁ、これから罵倒されたりしちゃうのかな……)
「いや……それで今後の事だが…………君には……」
そう言って、顔を上げたクリストファー様は青ざめており、端正な顔の額には汗がにじんでいた。
「あの、お顔の色が優れないようですが……」
「いや、何でもない気にしないでくれ。
ルイーズ嬢、君の結婚後の事だが……」
「はあ……ですが」
(いやいやいや、気にしないでくれって言われましても…………)
「うっ……」
「あの、やはりどこかお体のお具合が……」
「胃が……君に申し訳なさすぎて……胃が痛い……」
(………………もう、しわけ、なさすぎて、いがい、たい……?
もう仕分け? 意外? 鯛……この世界にいたっけ?)
「…………なんて?」
「……実は、昨夜から君に結婚後について告げなくてはいけない重圧で、胃が痛くて……。
心配を掛けてしまって、すまない」
(……それって、ストレス性の胃痛!?)
「せっかく設けて貰った初顔合わせの場なのにすまないが、……うっ……また日を改めさせて欲しい……」
「それは……もちろん構いませんが……」
予想と違いすぎる返答に呆気にとられながら答えると、クリストファー様は側に控えていた彼の侍従に支えられ、あっと言う間に庭園から立ち去ってしまわれた。
「……………………………………えっ?」
青ざめた顔で胃に手を当てていた新しい婚約者からは、想像と違って冷酷で傲慢そうな雰囲気は、どこにも見当たらなかった。
「ええと、ここ、何ルートなの!?」