表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヤのつく自由業みたいな自称人魚さんと酒飲んだ話

作者: 読み専

 衝動のままに書き進めたので、変なところがあったらすみません。頑張って読解お願いします。

 残酷描写タグは主に後書き用につけました。

 個人的に、書きたいところしか書いてないので、書いててめっちゃ楽しかったです。良い息抜きになりました。


 後書きまでしっかり読んでくれたら嬉しいなぁ。(小声)




 12月24日、火曜日、深夜。


 夏場は観光客で溢れる、有名な海岸から都心へ向かう終電に、私は乗っている。


 随分と、おかしな体験をした帰り道。






ーーーーー






 サラリーマンでキツキツの電車は、たった1回乗り継いだだけでかなりの人が減った。


 そして2時間近くかけてやって参りましたは、夏にカップルで賑わう、有名な海岸。クリスマスイブという事もあって、少しは人がいるかな、と思ったけど平日の真昼間だからか人っ子一人しかいない。ちなみにその一人が私ね。


 砂浜からちょっと歩いて、『恋人の聖地』を強調するやや彩度の落ちた看板を通り過ぎ、崖下をそっと覗く。


「ひゃー高っ!怖ぁい!!」


 妙にテンションが上がってきて、久々に甲高い声で叫んだ。高校以来だ。


 いそいそとコートを脱ぎ、靴と靴下を脱ぎ、マフラーを外し、何となくでひとつに結んでいた髪を解く。コートとマフラーは畳んで、靴下は靴の中に入れて、それぞれ並べて崖際に置いた。財布と携帯だけ入った鞄を重し代わりにコートとマフラーの上にのせる。


「うーん、けっこう高くね?どんくらいあるんだろ」


 崖の縁に座り、足をブラブラさせてみる。うん、素足に岩肌が痛い。あと寒い。もうちょっと着込むべきだったかも。


「あーもう、流石にコート無いと寒いわぁ」


 ゴシゴシと二の腕をさすった。それでも寒い。


「やーっほー!!!」


 山じゃないけど、叫ぶならこれだよね。という事で、選ばれたのは「やっほー」でした。海でも意外と響くもんだね。


「夏はデートするカップルで賑わう海岸で!冬に自殺とか!!思い出スポットで心中するカップルかよってんだ!!!」


 耳がキーンとする。現代で叫ぶ場面なんてほぼ無いから、普段使わないところを酷使された喉が痛い。


「まー、私ソロなんだけどー!!まじウケるー!!!夏は彼ピとデートしてたのに!今は1人で来てるあたり!お察しすぎるんですけどー!!!!」


 使い慣れてない、たどたどしいイントネーションの若者言葉。そろそろ『彼ピ』とか古いかな。


「はぁ」


 うわっ、今のため息めっちゃオバサンみたい。哀愁ヤバすぎまじワロス。……ワロスも古い?


「よっしゃ逝くか」


 ベチンと頬をひっぱたき、改めて軽く身だしなみを整える。

 前髪とか、どうせ落ちてる途中に乱れまくるだろうけど、……せっかくの最期だから、ね。


「おーい!クソ女ー!!人様の家の上で騒ぐんじゃねーっ!!真昼間から酔っ払ってんのかぁー!!!」


 立ち幅跳びの要領で今度は腕をブンブンしてたら、真下から男の叫び声が聞こえた。

 ……え、怖っ。高所より怖い。こんな波がザバザバしてる崖の真下に、人が住んでんの?まだ若そうな声の男が?


「………」


 今も、下から「聞いてんのかー!聞こえてんなら返事のひとつくらいしやがれぇ!!つーか!返事より謝罪しに来いやぁ!!!!」と叫び声は聞こえ続けている。こんだけあっちの声がハッキリ聞こえるなら、私の声も随分五月蝿かっただろうな。ちょっと申し訳ねぇ。


 ……謝りに、行ってみちゃう?正直、こんな変な場所に住んでる男の顔とか気になるし。



 てなわけで、頑張って崖下まで来てみた。素足で。何回か尖った石とか踏んで、足の裏がめちゃ痛い。


「……すみませーん」


 崖下には、天然物の洞窟があった。パッと見誰もいなくて、とりあえず声をかけてみる。


「…ってめぇか!ちょっとこっち来いや!!!」


「ぅっ、はい!」


 ビビったのを頑張って押し殺して、声が聞こえた洞窟の奥の方に進む。所々に水溜まりがあるし、そうでなくてもヌメヌメしてるしで歩きづらい。……やっぱ上戻ろっかな。でも、顔気になるしなぁ。


「こっちだよこっち!」


 奥から再び声がして、止まりかけた足を進める。眼鏡置いて来たからよく見えないけど、なんか窪みの辺りに白っぽいものが動いてるような……腕振ってる?


「はーい!」


 ひとまず返事をして、ゆらゆらしてる白いものを目指して進む。さっきからそこに居たってことは…転びかけたの見られたかも?恥ずっ。




「……あー頭痛てぇ」


 たどり着いた先には、深めの水溜まりに下半身を浸かっている真っ白な男の人が寝転んでいた。首と胴体の見分けがつかないから、白いTシャツか何かを身につけているんだろうか。ちなみに、自慢じゃないが私の視力はすこぶる悪い。「これ何本?」ってやられてガチで答えられないくらいに悪い。さすがに1m程度の距離なら分かるけど、それ以上は本当に判別がつかない。たまに、1mの距離でも間違えて笑われた事もあった。

 ……それにしても、家とはとても呼べそうにないただの洞窟に、どうして人が住んでるんだろう。


「……この洞窟に住んでいらっしゃるんですか?本当に?」


「あ゛ぁ?なんか文句あんのかよ」


「ひぇっ、すんません!」


 思わず疑問を零し、地獄の底から響くような低音で威嚇されて怯む。ヤのつく自由業の方だろうか、と脳裏に過ぎるくらいにはガラが悪い人だ。もしかして、足から下はコンクリで固められてるんだろうか。ここ、東京湾でも海底でもないけど。


「……言っとくが、後暗い事はした事ねーから。精々が飲みすぎて道端で吐きかけたくらいで……吐いてないからな?!あれはセーフだった!!」


「は、はいっ!」


 ……酔ってるのはこの人の方なんじゃなかろうか。酔っぱらいでしか見た事ないぞ、この話題の飛び方と情緒不安定加減。あと、さっきの私以上にうるさくしてないか、この人。頭痛いとかちょくちょく呟いてた割にはめっちゃ叫ぶじゃん。


「ったく、こちとら二日酔いだってのに、さっきから散々叫ばせやがって………」


 理不尽!少なくとも『吐いた・吐いてない』論争で叫んだのは貴方の都合でしょうに!!


「……すみません」


 しかし、私とて社会人経験のある大人の女。クレーマーにはひたすら謝罪が1番手っ取り早いと知っている。


「お前、今何時か分かってんのかよ?あ゛?まだ正午だぞ、しょ、う、ご!!

 ……痛ったぁ」


「だ、大丈夫ですか?」


 ざまぁみろだ、こんちくしょうめ。そのまま脳の血管切れちまえクソ野郎。

 ……脳内と発言が合って無さすぎるぞ、我ながら。表情管理完璧すぎて女優目指せんじゃね?


「大体さぁ、お前見た感じ大学卒業してんだろ?こんなド平日に季節外れな場所で何してんだよ。職無しか?……それとも『クリスマスだから彼氏とデートで〜す♡仕事は休みましたぁ♡』ってか、あ゛ぁん!?」


 どうやら、私の叫びの内容は聞き取れなかったらしい。全くもって見当違いな言葉とムカつく喋り方に、私の額に青筋が浮かばなかったか一瞬心配になった。


「ち、違います!」


 彼氏に振られたからここに居るんです!勤め先がブラックすぎて辛かったので昨日辞表叩きつけてきて、今日は余った有給消費でお休みなんです!


「何がちげーってんだよ!最近の若いヤツってのはこれだから!」


 声からして、お前も充分若そうだよ。

 あー失敗したわ、否定とか口答えとか、1番『あかんやーつ』なのにやらかすなんて。まだ24時間たってねーのに、感が鈍ったってレベルじゃねーぞ。


 ここからまさかの1時間以上、理不尽すぎる箇所と正当すぎる箇所を8:2で織り交ぜたお説教が続いた。何やってんだろ私。何がしたいんだろコイツ。






「あっ、そうだ!」


「な、なんですか?」


 説教の最中、下半身浴(海水)をしている真っ白男(状態異常:二日酔い)は、何かを思い出したらしい。

 聞き返す私を無視して、ザボン!と水溜まりじゃなかったらしい海水の中に潜っていく男。……このまま逃げちゃダメですか?ダメですか。そうですか。


「っは。…これ、ちょっとポストに入れてきてくんね?」


 水から上がった男が、軽く顔に残った海水を拭って髪の毛を絞る。ちょっ、かかったんですけど!?

 渡されたのは、近場のポストの位置が記された簡易的な地図と、雑誌の懸賞応募葉書inジップロック。クロスワードで、賞品は1泊2日の熱海旅行招待券らしい。


「あと、これでしじみの味噌汁とつまみ買って来て」


 今度は、1000円札inジップロック。……何も言うまい。


「あ、え、……はい」


 戸惑いを顕にしつつもとりあえず受け取る。


「いやあ、俺ってば人魚じゃん?陸歩くのすっげぇ苦手でさ、ここからポストまで行くのすら億劫なんだよね。二日酔い辛すぎてさ。叫びすぎて頭まじで痛いし。しかも、懸賞の締切今日なんだよ」


 叫ばせて悪かったと思うならパシられろ、と。了解っす。お説教よりは100倍ましだわ。岩肌に正座が辛すぎた。

 …………人魚!????


「……何ぼーっとしてんだよ。とっとと行ってこい!!」


「は、はいぃ!!」


 疑問を挟む間もなく洞窟を追い出される。

 ……え、いや、人魚?だから下半身水中にいたの?そういう事なの?紙がジップロックに入れられて水中で保管されてたのって、そういう?私の叫びの内容が聞き取れてなかったのも、水の中にいたから?


 脳内が『?』で埋め尽くされて、ぼーっとしすぎで地図を読み間違えた。慌てて引き返す。公道に出てからたった1回曲がるだけなのに迷いかけるとか、流石にやばい。……いや、人魚の方がやばい。



「……お客様?あの、お釣りです」


「あ、はい!すみません!!」


 商品の入った袋を受け取った後、お釣りをもらおうと手を上げかけたまま静止していた。変なところでフリーズして、店員さんに申し訳ない。

 ……いつの間に買ったんだろう。考え過ぎて記憶が無い。

 店内に備え付けられている時計を見てみる。15:09……?!


 やばい、流石に時間がかかりすぎてる。片道15分とか書かれた地図をまともに見られない。絶対怒られる!!


「あっ……!」


 急ぎすぎて、砂浜に入った途端すっ転んでしまった。……てか、私裸足のままじゃん!!裸足でコンビニとかやばすぎる!!!絶対明日には怪談になってるって!!


「血出てるしぃ……」


 転んだ時ではなく、歩いている途中にガラス片か何かを踏んでいたらしく、足の裏から少量出血していた。コンビニに血の足跡が……!


 半泣きになって洞窟に戻る。

 転んで足裏の傷と痛みに気づいてからは、小学一年生並みにゆっくり歩いていた。往復30分とか地図に書いてくれた人魚になんて言われるか。……また、文脈ぐちゃぐちゃで私怨交じりの説教コースかもしれない。


「お、遅くなりましたぁ……」


「遅い!!いつまで待たせんだよノロマ!!足の無い俺でさえ往復30分で済むのに、どこ寄り道してたんだ!」


 こればっかりは反論できない。

 洞窟内は何故か少し明るいが、外はは12月という事もあってすっかり暗くなっている。ここを出たのは、多分13時過ぎ。そして現在は、絶賛お説教中の人魚曰く17時の30分前。つまり16時半。『I am 人魚.』という爆弾を落としたのはコイツだが、『I am 人魚.』に衝撃を受けすぎて片道1時間以上かけたのは私だ。


「すみません。……あの、途中で足の裏を怪我しちゃって………」


 しかし、完全には非を認めたくない。口をついて出たのは、子供っぽい嘘にしか聞こえない言葉。


「あ゛?……見せてみろ」


 裸足なのは見て分かるので、ちゃんと信用して貰えたらしい。

 ちょっと恥ずかしいけれど、膝を立てるようにして座ってから足の裏を見せるように浮かせてみる。腹筋が鍛えられそう。そして、履いてるのがズボンで良かった。


「うわ、痛そ」


 他人事感満載な一言をどうもありがとう。おかげさまで、私の足裏はグロ画像さながらに出血中です。


「俺の家、絆創膏も消毒液も無いんだよなぁ。とりあえず傷口洗ってタオル巻いとくか」

 

 ……海水吸ったタオルで傷口を?!傷口に塩(物理)とか勘弁なんですけど!!


「い、いいです。大丈夫です。遠慮します!」


「そう言うなよ。確かこの辺にあったはずだから……」


 ザバッ!と音を立てて男が海水から上がった。確かに、足が二股に分かれていないように見えて『男=人魚』説が強化される。眼鏡があれば話が早いんだけどなぁ。戻って来る時に持って来るべきだった?でも、この足で遠回りとか……ないわぁ。


 私が適当に考えている間に、男のご用事が終わって私の処刑(治療)の時がやってきたらしい。ペタペタと音を立てて、洞窟の奥に進んで行った男が引き返してくるのが見えた。


「ほら、これ災害時用の水だけど、自分で傷洗うくらいならできんだろ」


 ……海水汲んで「これで洗えよ」とか言わないんだ。え、てか真水あんの?災害時用に水用意してんの!?私以上に真人間してんじゃんコイツ。え、敗北感。


「ありがとう、ございます……?」


「なんで疑問形なんだよ。素直に礼も言えねーのか」


「ありがとうございます!助かります!」


「……最初からそう言えよな」


 めんどくさい恩人だ。

 ……元はと言えばコイツのせいで怪我したんだから、恩人ですらなかった。DVだこれ!


「……あーもう、ヘッタクソが!ちょっと貸せ!」


 思ったより染みるのでちみちみ水をかけていたら、おもむろにペットボトルを取り上げられた。

 戸惑っている間に、ドバッ!と勢い良く傷口に水がかかる。水の勢いで皮が……!べ、ベロンってなってる!!ひいぃぃいい!!痛いィイイイ!!!!


「………っし、こんなもんだろ。タオル巻くから動くなよ」


 ぃぃ……。ギャッ!!ちょっ、巻くの強い!!!痛いって次元じゃねーよこれ!!なんかもう痺れてるようにしか感じねーってヤバいだろこれ!!!!






 ……燃え尽きたぜ、真っ白にな。


「ありが、と……ござ、まし……た…………」


 ガクッ。……というのは冗談で。でも、痛すぎて息も絶え絶えなのはガチなやつで。


「おう。……あ、そうだ」


 ……………今度はなんだ。悪いが、わたしゃしばらく動けんぞ。痛すぎて1ミリも動けん。這いずりも却下で。傷が増える。


「さっきついでに持ってきたんだ。一緒に飲もーぜ」


 日本酒ぅ?仕方ないなぁ♡

 ……うえっ、自分でやっててもキモすぎるぞこれ。しかし、ナイスチョイスだ人魚。褒めて遣わす。



「「……っぷはぁ!!」」


 炭酸で割ったのを2人で流し込む。カッと熱をもった喉が最高に気持ちい。


「なぁなぁ、聞いてくれよー。俺ってば実はさぁ……」


 そして始まる愚痴大会。お酒あるあるだね。知らんけど。


「なんですか?」


「あー、敬語とかやめよーぜ。せっかく飲んでんだし、そこまで歳違わないだろーし」 


「うぃー」


 新しく作った炭酸割りを1口のみ、「お望み通りに」と言わんばかりにふざけて返事をする。満足気に頷かれた。本当にこれでいいのか。


「でさー、昨日なんだけどぉ、イブもクリスマスも仕事あるって彼女が言ったから、ちょっと早いけど休み取って2人でデートしたんだよ」


「んー」


 これ、大分良い酒だわぁ。のどごし最高!


「そしたら、海面の見えるレストランで食事終わった後に『別れたいんだけど』とか言われたんだよ!信じられっか!?支払い直後だぜ、支払い直後!しかも俺の奢り!!

 それだけじゃねぇ。こっちが黙ってたら、『ずっと前から思ってたんだけど、あんた口悪すぎ。あと、汚部屋住みとか引く。着拒するから二度と連絡してこないで』だと!!そんな汚くねーし、どこに何があるか分かってんだからちょっと散らかってるくらい別にいーだろーが!!!」


「ん〜」


 ヤバっ、もう二杯目終わるんだけど。この酒が美味すぎるのが悪い。


「マジで最悪だった……。てか、お前彼氏とかいんの?」


「彼氏ぃ?いたけど、私もつい最近1年付き合った彼氏と別れたばっかよ。

 先週だったかな。彼氏の家に合鍵使って忘れ物取りに行ったら、私以外の女とベッドでぐっすりだった。で、修羅場って、半年……ちょうどこの辺に夏に遊びに来た後くらいから平行で天秤にかけられてたってのを知って、ビンタして荷物持って帰った」


「おおぅ……」


 一瞬の沈黙。ちょっと勝った気分。

 人魚だと、星じゃなくて『海面の見えるレストラン』なんだ。変な感じ。てか、職場も海の下なん?日本の海に文明があったなんて。


「そうそう!俺、結構いい企業勤めてんだけど、会社でのパワハラがキツイんだよ。この前だって、『こんなんも出来ねーのか木偶の坊!』とかドヤされてさぁ」


「私んとこも残業とかやばかったけど、今は残ってる大量の有給消化中なんでぇ、そーゆーのとは無縁の生活なんスよねー」


「うらやまぁ」


 人魚さんはもう4杯目だ。この人早いな。私まだ3杯目の半分も行ってないのに。


「てかさぁ、私母子家庭なんだけど、母親が最近再婚して実家帰りづらいんだよねー」


「帰れるだけいいだろ。俺なんて親どっちも死んでるんだぞ」


「おおぅ……」


 気まずい。不幸自慢っていうよりガチで言われてる分、なんかもうすっごく重い。酒で誤魔化そう。


「あっちょっ、飲みすぎだろ!たけーんだぞこれ!」


 色々言いながら、人魚は酒の補充を取りに行った。どうやってんのか不明だけど、炭酸と酒の感じからして冷蔵庫があるっぽい。水力発電でもしてるんかな。この洞窟もなんか明るいし。


「ほい、つまみも」


「あざーす」


 やっぱつまみはイカだよな。うんまいわぁ。


「あ、ねぇねぇ聞いてよ」


「んー?」


 酒を飲みながらのいい加減な返事が帰ってきた。さっきの私を見てる気分だ。気にしてないからいいけど。


「一昨日手紙チェックしてたらさ、大学で知り合った仲良い娘から『結婚することになりました』って招待状来てたんだよね。セットになってた写真とか、すっごい幸せそうでさぁ。……虚しい」


「分かる!!!俺もまじで辛くてさぁ……」


 恋人と別れたばかり、という虚しすぎる共通点から、やっぱりこういう話題が1番盛り上がる。私たちは泣いていい。





 さすがに腹がキツくなってきて、互いにチビチビと酒を啜る。盛り上がりすぎて結構飲んでしまった。後悔はしていない。

 テーブル代わりの台らしい岩にジョッキを置いた人魚が、背伸びをしながら岩肌に横たわった。硬くて痛そう。


「人魚って、海の中で寝ないの?会った時からずっとそこで寝転んでる姿しか見てないんだけど、背中痛くない?」


「いや、寝床自体はちゃんと海ん中にある。だが、ちょっと……」


 言いづらそうな表情を見て、ピンと来た。


「彼女ちゃんとの蜜月を思い出して、寝づらいとか?」


「……ん」


 すっごく嫌そうに頷いて、誤魔化すようにまた酒を呷っている。

 コイツ、酔うと妙に素直。からかい甲斐があって楽しいタイプだ。


「うーわっ女々しい!恋に恋する乙女じゃないんだからさー」


「るっせえ黙れ」


 やっぱりヤのつく自由業だ。


「リーマンだっつってんだろ」


「こ、こいつ心読みやがった!」


「声に出てたぞ馬鹿」


 まじかよ。酔っ払いは私だった。



 ふと気づくと、辺りには空の容器しか残っていない。酒もつまみもだ。


「あー、ちょっくら補充取ってくるわ」


「うぃー」


 硬い岩肌に寝転び、寝心地が悪すぎて起き上がる。酔っ払いの学習能力は低く、そんな事を2、3度繰り返している内に人魚が戻ってきた。


「あれ、お酒は?」


 しかし、手に酒らしき物は無い。代わりに、私のコートとマフラーと靴下入りの靴と鞄を持っていた。


「時計見たら、もう22時過ぎてたんだよ。これ以上遅くなると終電逃すんじゃねーかと思ったんだ。ここに泊めてもいいが、風邪引く程度で済まなくなる可能性だってあるからな。今日はもう帰れ」


「えーっ」


「『えーっ』じゃねーよ。帰れ」


「ちぇー」


 仕方なく荷物を全部受け取って、血の止まった足の裏からタオルを外し、靴下を履く。履く時ちょっとピリッとしたけど、案外平気かも。


「あ、あと、マフラーは酒代代わりにくれねぇか?ちょうど、前に使ってたヤツが使えなくなって困ってたんだ」


「……彼女からの手作りプレゼント?」


「黙れ」


 当たってたらしい。結構ベタベタな恋愛してたんだな。


 私のマフラーは青と黒をベースにしたチェック柄で、別に男が使ってても違和感は無いだろう。でも、人魚がマフラー?海水吸うから無意味じゃね?むしろ逆効果としか思えないんだけど。


「ほら、プール入ってるとプールから出た時の方が寒く感じる時あるだろ?そんな感じだよ。ポストまで行くのに使いてーの。……別に心読んだんじゃねーぞ。全部自分で言ってたからな」


 後半完全に心読んでただろ。つか、人魚が何故プールあるあるを知ってるんだ。お前らプール行くんか?海に住んでんのに?淡水で死なないとか海の魚としてどうなんだ。


「……失礼なヤツ」


 また心「だーかーらぁ!全部!!口に!!出てる!!」


「はいはい。うるさいうるさい。じゃーもう帰るから」


「……お前、多分そーゆーとこだぞ」


「だまれ」


 ヤのつく自由業みたいな顔……は、眼鏡かけてないし暗いしで見えないから違うな。じゃあ……ヤのつく自由業みたいな話し方してるくせに。

 ……あ、そういや鞄に眼鏡あんじゃん。これなら顔見れるんじゃね?めっちゃ目つき悪いイメージ通りの顔があると予想。大穴はクリクリお目目の童顔ね。


「……まあ、楽しかった。色々話せたし、話も合うし。今度は暖かくなった頃に来いよ。風邪引いたら大変だからな」


 私が顔面予想している間に、なんだかいい話風にまとめられて終わりの雰囲気を醸し出されている。なんだか謎の敗北感。顔ちゃんと見ておきたかったのに。

 しかし、哀しき哉。私はあくまでも、空気を読むことに特化した純正日本人。こんな空気でおちゃらけるなんてとんでもない!


「はーい。ご馳走様でしたー」


 無難に返事して、半日ぶりに履いた靴の踵をトントンしてから洞窟を後にした。






ーーーーー







 ……そして、冒頭に至ったわけだ。


 本当に、不思議な体験だった。

 いっそ白昼夢だと言われても納得できそう。でも、飲みすぎた私の吐き気を加速させる、無精で伸ばした髪から香る潮臭さがそれを否定する。


『次は、○○駅〜、○○駅です。お降りの際は、お忘れ物の無きよう、お気をつけください。お出口は左側です。ご乗車、誠にありがとうございました』


 降りる予定だった駅名が聞こえ、ゆっくりと席を立った。


 ……やっぱり、一瞬でも顔見ておきたかったかも。気になって夜しか眠れなさそう。

 「また来い」って言ってくれたのは嬉しいし、私も飲んでてめちゃくちゃ楽しかった。けど、あの硬い岩肌に座って飲むのは、もう勘弁かなぁ。


 ……さて、帰り道に、この時間でもやってるホームセンターってあったかな?






「続報です。

 先週発見された身元不明の女性の遺体ですが、本日ようやく身元が判明したとの事です。先週、○県○市の林で首を吊った状態で発見されたのは、12月24日の深夜に目撃されたのを最後に行方が分からなくなっていた、同市内に住む××××さん(26)であると確認が取れました。調べによると、彼女は△△と診断され、勤めていた会社を辞めた直後から行方が分からなくなっていた模様です。足の裏にあった異様な傷跡と、その傷口に貝殻が付着していた事から他殺の線が疑われていましたが、今回の身元判明から自殺と断定されました。

 ……続きまして、今日の天気です」





 ………って、夢もヘチマもない、精神異常者が海辺で変なことして、ホームセンターで紐状の何か買って、首吊っただけってのがEND1。


 ホームセンターでクッション買って、今度は眼鏡かけた状態で(昨日の今日で)会いに行くっていう、夢とレモン味がある、自殺をさりげなく止めてくれる心優しい人魚が実在したのがEND2。


 会いに行ってみたら、マフラー首に巻いてブクブクに膨れた下半身グッチャグチャの水死体があって、実は人魚じゃなくて先人(自殺者)に化かされてたっていう、夢はなくても涼があるのがEND3。


 ホームセンターで紐状のもの買って、結局自殺遂行して、でも人魚さんは何も知らずに、飲み友になった同年代女子を待ち続けてるっていう、夢があってほろ苦い、ついさっき思いついたばかりのがEND4。


 あなたはどれがお好みで?



以下補足

・本文で「有名な海岸」の手前には必ず「、」をわざと打っていました。そこの行間には、お察しかもしれませんが「自殺の名所としても」とかが入ります。

・END1に関してですが、よくあるヤツがやってみたかったんです。

 マフラーは海岸に置き去りにされてます。彼ピからのプレゼントでした。ベタベタですね。

・一応ですが、END2の人魚さんはつり目の強面さん想定です。

 人魚さんと元カノさんの交際歴は半年足らずかなって思ってます。

・ちなみに、END3の先人は、彼女から貰ったマフラーを後生大事に巻いて飛び降りたつもりが風か波かでどっか行っちゃって、もはや誰のでもいいからってマフラーに執着(本末転倒感)してたのでマフラーを欲しがりました。人魚を自称したのは、自分の下半身がヒラヒラ水面を漂ってるのを見て『俺めっちゃ人魚っぽくなってね?』って思ってたからです。

 彼の死に様は、飛び降りた後に波に揉まれて洞窟内に流され、しばらく下半身グッチャグチャの瀕死でもしばらく生きてたけど、結局は潮が満ちて溺死っていう、結構悲惨なものを想定してたりします。自殺した時期は12月よりいくらか前だったりもします。

 ……お察しの通り、私のお気に入りのENDは3です。

・思いついて編集機能使ったばっかりなので、END4に補足も何もないです。読者様の想像力に全てお任せします。


 読了ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ