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№35 エピローグという名のプロローグ

 あれから17年の月日が過ぎた。


 新幹線は品川駅をゆっくりと出発する。


 終点の東京駅まであと少し、乗客のほとんどが、早くも降車の準備を始めていた。


 そんな中、34歳になった塚本ハルはひとり、車窓に映る自分の顔を眺めながらゆっくりと回想の海から意識を引き上げた。


 あれから、いろいろなことがあった。最近老けたな、とも思う。


 高校を無事卒業したハルは、とある有名大学の法学部に入り、首席で卒業後、逆柳の伝手でひとりの官僚の秘書となった。


 官僚秘書、といっても、やっていることはドサ回りや使いっぱである。地方出張はしょっちゅのこと、やれと言われたことは雑巾がけでもなんでもやる。


 ハルは文句も言わずその仕事をこなしていた。


 いつか、上司に認められて官僚となり、ASSBを改革するそのために。


 ……そういえば、あれから逆柳のNPOは、世論の追い風を受けて至極順調に成長を続け、今やASSBにまで発言力が及ぶような組織になっている。この17年間、ハルも少なからず関わった組織だ。ハルが官僚になったあかつきには、強固な連携を取ることになるだろう。


 まだ現役を退いていない逆柳とも、時々連絡を取り合っている。相変わらず電話をかけると3コール内に出る相手は、一向にうまくならないラインでたまにハルを誘い出しては秘密のスイーツを楽しんでいる。


 良くも悪くも相変わらず、である。


 ……ほんの数分だけの区間を、新幹線が走っている。さて、自分も降車準備をするかと立ち上がったそのとき、デバイスから着信があった。ハルは素早くスーツのポケットから万年筆とメモ帳を取り出して、


「……はい」


 応答すると、上司が今回の出張について尋ねてきた。この上司とて、逆柳の伝手とあって一筋縄ではいかない相手だ。しかし、その分信頼はできる。


「……はい。万事滞りなく……いえ、出席なさっていませんでした……そのようにいたします……ええ、お察しの通りです……はい、はい……いえ、お気遣いなく……はい、了解しました……それでは、明日にでも……はい、失礼します」


 上司が通話を切るのを待って、ハルも通話を終了した。改めてメモを見返し、明日からの段取りを頭の中で組み立てる。いくらでも手軽にメモが取れる時代になったが、昔からの手癖でハルは紙に万年筆で手書きのメモを取っていた。


 その万年筆にはハルの名前が入っている。ずいぶん使い込まれたこの相棒も、17年前にかけがえのない親友からもらったものだ。


 近々、みんなで久々に集まる予定がある。きっと、それぞれの道に進んだみんなからの報告があるだろう。ハルもまた、みんなに伝えたいことが山ほどある。


 気を取り直して降車準備をし、スーツケースを引いて降車列に並んでいるうちに、新幹線は東京駅へとたどり着いた。


 ホームに降り立つと、どっと疲れが襲い来る。34歳のオッサンにとっては、九州から東京に帰って来るだけでもひと仕事だ。


 疲れる足を叱咤して、あと少し、と一歩を踏み出す。


 こうしてがんばれるのは、家族がいるからだ。


 新幹線構内から出て在来線に乗り、我が家に近づくにつれてにやにや笑いが出てくる。


 ジャンクフードが大好きな妻のために、博多のとおりもんや豚骨ラーメンをお土産に買ってきている。もちろん、明太子も明日届く手はずになっている。


 最近石を集めることに夢中になっている10歳の息子のために、子供向けの顕微鏡も買ってきた。なかなかユニークな子なので、素直に喜んでくれるかどうかはわからないが、明日から拾ってきた石を熱心に観察することだろう。


 在来線が最寄り駅に到着し、そこからは夜道を徒歩で帰ることになる。ところどころに立っている街灯が、夜の光と影のコントラストを描き、アスファルトには長い影が伸びていた。


 がらがらとスーツケースを引きながら、妻とのこれまでを振り返る。


 妻とは、大学卒業と同時に結婚した。ほどなくして子供がひとり生まれ、郊外に一軒家を買って暮らしている。


 妻は出産をきっかけに夜更かしができるようになった。子供を育てるために種として変化したのだろうか、それは謎だが、夜にはハルの影で眠らなくてもよくなったのだ。


 そもそも、子供ができるかどうかも怪しかったが、ハルが望んでいた通りにちゃんと生まれた。その出生にも数々のドラマがあったのだが、そこまでは思い出さないでおく。


 家々の明かりを通り過ぎ、見慣れた街の見慣れた角を曲がれば、我が家があった。ハルを待っていたかのようにともっているポーチライトを認め、あたたかい気持ちになる。


 あと少し。あと少しで、愛する妻と我が子に会える。


 疲れ切った指先を伸ばし、ドアを開く。


 そして、ハルは笑って言った。


「ただいま、影子、景文」


 そうだ。


 非日常的日常は続いていく。


 絶え間なく、明日へ、未来へ向かって。


 


 


          【完】



はいっっっっっっ!!!!!!(クソデカボイス)


これにて完結、大団円です!


これまでハルと影子の物語についてきてくださったみなさま、ありがとうございます!


応援してくださって、感謝しかありません!


少しでも明日への活力になってくれればさいわいです!


 


ああああああああ終わったあああああああ!!!


もうこれしかないですよね(笑)


『ノラカゲ』、当初は続編書くつもりはなかったんです


でも、ほったらかしにしておくには惜しいキャラたちだなと思いまして


急遽、第二シーズンを書こう!と突貫工事でシリーズ化に踏み切りました


そんなシリーズも最終章で7つ目!


ハルと影子だけでなく、ミシェーラや倫城先輩、一ノ瀬などのイツメン


そしてザザや久太、『モダンタイムス』、逆柳、数々の敵や味方、などなどたくさんのキャラが生まれました


ほとんど物語の流れに沿ってキャラを動かしていたら、こんなことになりました


流れってすごいですね、一旦つかむとなにをどうやって動かせばいいかだいたいわかりますからね!(笑)


わたくしめの中のポリシーやオリジナリティ、モットーや思考の流れ


そういったものを物語のセオリーにぶち込んでできたのが、『ノラカゲ』シリーズ、というわけです


そういう意味では、すべてはなるべくしてなった物語、と言えるのかもしれませんね


 


ゴタクはどうでもいい!などとゲロインに怒鳴られる前に


今までこの物語にお付き合いいただいたみなさま、本当にありがとうございます!


応援もたくさんしていただいて、感謝の極みです!


いつか書籍として世に出せれば……!と思っておりますので、その折にもぜひお力添えを!


最後になりましたが、完結したことを一番よろこんでいるのは作者であるわたくしめだああああああああ!!


 


次回作からは、ちょっとテンプレに乗ってみたいと思います!


もちろんひと癖ある味付けはしますよ(笑)


いくつかプロットがあるので、中編でお披露目できれば!


次回作もお楽しみに!

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