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№27 戦いの果てに

「……うるさい」


 いい加減うっとうしくなってきたのか、秋赤音は影子の影にクナイを打ち込んだ。途端、影子は身動きが取れなくなる。


 そうだ、秋赤音には『影縫い』のちからも備わっている。モノクロームの世界にいる今、この白黒のコントラストで『影縫い』に対処する方法はない。


 どれだけ影子がちからを込めようとも、指一本たりとも動かなかった。その間に、秋赤音はまた自分の影に手を置いて『影』たちの集合的無意識に呼びかけようとする。


「そこで見ていろ、『影使い』」


「影子! 『総攻撃』だ!」


「イエス、マイダーリン!」


 そう答えた影子の影から、無数のやいばが浮かび上がってくる。包丁ハサミカッターナイフドスキリ。これならば、影子自身の影から出てきた新しい『影』なので『影縫い』の影響は受けないだろう。


 やいばの群は一直線に秋赤音に殺到した。迎え撃つ秋赤音は目を細めてクナイを両手に構える。


 雨のように降り注ぐやいばを、秋赤音はひとつひとつクナイで撃ち落としていった。ものすごい反応速度で、やいばは次々と弾かれていく。しかし、そのうちのいくつかは標的に届き、確実に傷をつけた。


 やいばの弾幕が収まったころには、秋赤音もまた影子と同様に全身から黒い血を流し、それでも両の足を踏みしめて立っていた。


「……これで終わりか?」


 破れた黒頭巾の隙間から、黒い血が秋赤音の瞳に伝い落ちる。少しだけ目をすがめて、秋赤音は切れた口の端をぬぐった。


 満身創痍の上に『総攻撃』まで放った影子に、もうほとんどちからは残されていないはず。


 だというのに、影子はなおも吠える。


「しゃらくせえ!! ナメてんじゃねええええええええええ!!」


 その足元から、屋上を覆い尽くすようにして黒い影の海が広がっていく。そして、突如として伸びあがった磔刑台に、影子ははりつけになった。


「ぐ、があああああああああああああああ!!」


 筆舌に尽くしがたい苦痛と、手負いのケモノ特有の怒りに似た反骨のこころ。もはやひとの声とは呼べないそれも、すべて秋赤音に向けられたものだった。


 尋常ならざる気配を読み取ったのか、すぐさま秋赤音は警戒態勢に入った。が、この影の海の中にいるならばもう遅い。


 刹那、足元から串刺しにするように影が突きあがり、秋赤音は天高く磔刑に処された。


「……ぐ、ぬ……!!」


 腹に大穴を開けられ、秋赤音の矮躯から滝のように黒い血がこぼれ出す。苦痛に耐えながらも磔刑台から抜け出そうとするが、もがけばもがくほど黒いキリは深く突き刺さっていった。


 もはやこれまでか、と思われたそのとき、磔刑台が消失する。影子も秋赤音も、どさりと音を立ててぼろぼろになった屋上にからだを投げ出された。


 しばらくの間、ふたりとも動かなかった。それどころか、ふたりともからだの端から塵になり始めている。一刻も早くあるじの影に戻らなければならない状態だ。


 にもかかわらず、影子と秋赤音は同時に起き上がり、よろけながらもファイティングポーズを取った。


 もはや、『影』のちからは使えないだろう。ここから先はこぶしで戦うしかない。ハルも『モダンタイムス』も、止めることなくその決着を見届けようとした。


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