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ヴァルフレアの怒気

 アルトはデュエルに勝利し、パチンと指を鳴らしてリンザローテを拘束していたバインドロープを解除する。手足を縛られていたリンザローテは自由の身になるが、自分が敗れたという事実にショックを受けているのかフラフラとよろけて地面にへたり込んだ。


「ま、まさか負けるなど……こんな力の差があるとは……」


 そんなリンザローテに観客席から飛び降りて近づくのはヴァルフレアで、先程までの気だるげな態度とは一変して怒りの形相であった。


「おい、リンザローテ! テメェ、なに負けてやがる!」


「も、申し訳ありません……」


「俺のために新入生を倒して退学させるって約束しただろうが! この学校に俺以外のS級魔法士はいらないって話したばかりなのに……クソッ、生徒会長を名乗っておきながら使えねぇ女だな、コイツ!」


 ヴァルフレアは感情のまま手を振り上げ、座り込むリンザローテを平手打ちしようと力を籠める。

 そして、その手がリンザローテに勢いよく迫るが、


「なんだオマエ! 邪魔すんな!」


 ヴェルフレアの手がリンザローテの頬を打つことはなかった。何故なら、いつの間にか割って入っていたアルトがヴァルフレアの手を掴んで止めていたからである。


「見下げたヤツだな、オマエ」


「んだと!?」


「事情は知らないけど、生徒会長はオマエのために俺を退学させようとしたんだろ? しかもデュエルで体を張ってまでさ。そんな相手に暴力を振るおうとするなんて、最低だぜ」


「黙れよ!」


 ヴァルフレアはアルトを振り払い、殺気すら帯びた眼光で睨みつけた。よほどアルトやリンザローテが気に食わないらしく、血が出るほどに唇を噛みしめている。


「ソイツはな、オマエの敵なんだぞ!? なんで庇うんだ!」


「かもしれない。でもな、目の前で理不尽な暴力に晒されようとしてんのに、黙って見ているのは俺の性分じゃねぇんだよ」


「チッ、カッコつけてんじゃねぇ! 目上の人間に対する礼儀も知らないガキは、俺が修正してやる!」


 そう言ってヴァルフレアは魔力を体に漲らせて臨戦態勢に入った。彼もダテにS級判定を受けているわけではなく、アルトに強いプレッシャーを感じさせる。

 どのような魔法を行使してくるか分からないので、アルトは身構えつつバリアフルシールドを展開しようとするが、その必要は無くなった。


「おやめなさい、ヴァルフレア君。デュエルや授業以外で魔法を無断使用するのは校則違反ですぞ」


 オブライアン校長がヴァルフレアを制止し、場を収めたのだ。さすがのヴァルフレアでも退学などの権限を持つ校長にはバツが悪いようで、舌打ちしながら引き下がった。


「まあいい。おい、リンザローテ」


「は、はい」


「オマエとの婚姻話は無かったことにする。オマエの実家は金持ちだから結婚しておけばオイシイ思いが出来るハズだったが……ともかく今後、俺とオマエとはもう何の関係もねぇ人間だ。関わってくるんじゃねぇぞ」


 負け犬のように吐き捨て、ヴァルフレアは取り巻きの女達と共にデュエル会場から去って行った。こんな小物のようなヤツがS級なのかと、アルトは頭が痛くなってヤレヤレと首を振る。


「あの、生徒会長…大丈夫ですか?」


「し、失礼しますわ……」


 心に深刻なダメージを負ったリンザローテは、アルトの気遣いを振り切ってヨロめきながら離れていく。その憔悴したような様子は悲惨で見ていられない。

 だが、どのような言葉をかけていいか分からず、アルトは心苦しい気持ちのまま動けなかった。


「さて、アルト君、エミリー君。キミ達は早く教室へと向かいなさい。もうすぐ入学式の会場へと移動する時間になってしまうからね」


「あ、はい。そうします」


 まだ自分の所属するクラスさえ確認していなかったため、アルトとエミリーは急いで発表会場であるレクリエーションホールへと急いだ。


「アルト・シュナイド、やはりキミは……」


 いつもは温和な紳士で、柔和な笑顔を浮かべているオブライアン校長だが、アルトの背中を見つめる目つきは鋭い。

 果たして、彼は自らが招待した生徒に対して何を感じているのだろうか…?






「いやぁ、まさかアルト君とクラスが一緒だなんて驚きを超えて驚愕だよ。こんな偶然もあるもんなんだね」


 入学式を終えた後、本格的な学校説明などは明日ということで解散となった。

 アルトはエミリーと寮への帰路に就き、道中で二人が同じクラスに振り分けられていた事について話していた。


「本当にね。でも、安心したよ。ここには地元からの友達とかいないしさ、こうして知り合えた人と一緒というのは心強い」


「えへへ、アルト君がいるなら私の身も安全というものですな! また妙なヤツに絡まれても助けてくれるよね?」


「勿論。困っている人間には出来る限り手を差し伸べなさいというのがお婆ちゃんの教えだからね」


「ふふ、本当にお婆ちゃんが好きなんだね。じゃ、私の寮アッチだから、また明日ね!」


 手をブンブンと振りながら走っていくエミリーは小動物のようで、ペットを見つめるように温かな視線で彼女を見送る。


「さてと、俺も寮へ……ン、どっちの方向だ…?」


 アルト達が足を踏み入れた地区には、寮として使用されている建物が多数立ち並んでいる。初めて訪れたこともあり、アルトはパンフレットの地図を回転させながら自分の寮を探し歩くのであった。

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