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ウィルの幼馴染

 ウィルとのデュエルに勝利したアルトは、彼を捕縛するために用いたバインドロープを解除する。


「魔法を解くからちょっと待って」


 魔力によって形成されていた光のロープは消え去り、ウィルは少し痛めた右腕を左手で押さえつつ立ち上がった。

 そんなウィルにアルトは治癒魔法を掛け、腕の負傷を治す。アルトは治癒魔法が得意というわけではないが、この程度の軽い身体的ダメージであれば造作も無い。


「ったく、S級のオマエを華麗に倒してカッコつけるというオレの計画が台無しだぜ」


 口では文句を言いつつも、しかし顔は晴れやかというか勝負の結果に納得しているようだ。魔法力に差があるのは承知の上であったが、こうまで実力を見せつけられると悔しいというより尊敬の念さえ覚えるものである。


「アルト、オマエの強さにオレは惚れたぜ。さすが闇魔法士だとか使い魔を撃退するだけの実力者だ」


「そりゃどうも。けど、ウィルだって充分に強いように思えたよ。特にウインドトルネードはコッチも全力で防御しなきゃヤバかったしさ」


「へへ、褒めてもらえて光栄だ。鍛えてきたのは無駄じゃなかったな」


 アルトの言葉はお世辞などではない本当のものである。実際、バリアフルシールドを本気で展開していなければ、ウインドトルネードの一撃で吹き飛ばされて負けていただろう。


「相談なんだが、オレの師匠になってくれないか?」


「師匠!?」


「ああ。オレは強くなりてェんだ。もっとモテるためにもな」


「モテるのに強さは関係あるのか…?」


「そりゃあるさ。大切な女の一人守れなくてどうしてカッコつけられる? そもそも、弱っちいよりは強い方がいいだろ?」


「まあ、うん」


 人の魅力は強さのみで決まるものではないとはいえ、強者の方が頼りがいがあるのは間違いない。特に闇魔法士のような無法者が増えてきている昨今では、自衛は勿論のこと大切な人や物を守るためにも鍛えておいて損は無いだろう。


「そのためにもアルトの協力が欲しいのさ。オマエのような強い魔法士を参考にすれば更に強さの高みを目指せると思うんだ」


「師匠なんてガラじゃないけど、俺に手伝える事があるなら協力するよ。戦闘訓練が出来る相手が居るってのも悪くないしな」


「そうこなくっちゃな! じゃあ改めて宜しく頼むぜ、アルト」


 ウィルの滑らかなウインクを受けたアルトは頷き、またも妙な出会い方で交友関係が出来たものだと思う。リンザローテやエミリーともそうだが、何かしらの事件やらを通じて知り合った知人ばかりである。


「男の友情ってのは分からんもンだね~」


 そう声を掛けてきたのは、赤いセミロングの髪が特徴的な女子生徒であった。クリッとした大きな瞳でウィルとアルトを交互に見ており、先程まで戦っていた男二人が険悪でなく仲を深めている様子を不思議がっているようだ。


「キミは、えっと……」


「ああ、ウチはシュカ・ノートン。ウィルの幼馴染なの。ヨロシクね」


 シュカはウィルと似たようなウインクを交えつつ自己紹介する。


「それと、ゴメンねアルト。ウィルが迷惑かけちゃて」


「いや、俺にとっても有意義なデュエルだったし迷惑には思っていないよ」


「ならよかった。ウィルは昔から行動力はあるんだけど、もう少し建設的というか真面目な方向に動いてくれればいいんだけどね~……」


 さすがは幼馴染といったところで、シュカはウィルを良く知っているように呟く。

 そんな古参のファンのような言い様に、ウィルは腕を組んで口を尖らせながら抗議する。


「ったく、おまえはオレのオカンみたいな事を言うんだものな」


「そりゃウィルのお母さんから直々に”息子を頼みます”なんて懇願されたら、こうもなるでしょうが。あんたは監視役がいないと羽目を外し過ぎるって心配してんの」


「ちぇ……あ~あ、魔法高等学校に来てまで子供みたいな扱いされてるんじゃ、やってらんないよ」


「なら品行方正な生徒になりなさいな。まず女の子を片っ端からナンパするのヤメて」


 幼馴染のやり取りに圧倒されて口を挟む余地はなく、アルトはポカンとして完全に置いてきぼりをくらっている。

 と、いつの間にか背後にエミリーが移動しており、アルトと同様にウィルとシュカを観察していた。


「あの二人、仲が良いんだね」


「おわっ! ビックリした……」


「えっへっへ。アルト君に不意打ちをかますなんて、私も中々に出来る女かもしれないね」


 そう言って小さく笑うエミリー。あれほど強力な魔法を行使するアルトが、不意に話しかけられ驚いてビクッと肩を震わせたのが面白かったらしい。


「ねぇねぇ、ウィル君とシュカちゃんのお二人さんは付き合っていらっしゃる?」


「ハハ、そんなわけないだろエミリーちゃん。今のオレの目に映るのはエミリーちゃんだけさ。というわけで、これからデートってのはどう?」


 エミリーの問いに大袈裟に首を振りながらデートに誘うウィルであったが、直後に怒りの形相をしたシュカの握り拳が腹部にめり込み、情けない呻き声を上げながらノックアウトされるのであった。






 アルトとウィルのデュエルというイレギュラーはあったが、その後はミカリア先生主導のもとで順調に授業は進んで午前を終える。

 その授業の中でエミリーとシュカもバリアフルシールドの練習を行っていたものの、不慣れな彼女達は瞬間的に発生させるのが限界で、まだまだ訓練を積んでいく必要があった。


「バリアフルシールドって案外難しいんだねぇ……アルト君みたいに使えるようになるには相当時間が掛かりそう。てか、私にはやっぱり無理かも……」


「挫折するには早いわよ、エミリー。あのバカウィルでも出来るんだから、ウチらにだってやれるハズだって」


「それもそうだね!」


 妙な意気投合具合を見せる女子二人にウィルはヤレヤレとため息をつく。

 午前中の授業を終えたアルトとウィル、そしてエミリーとシュカは、知り合った記念も兼ねて共に昼食を取る事にした。コロシアム型の闘技施設を後にし、食堂へと歩を進めている。


「付き合ってないって言っていたけど、シュカとはかなり親しいみたいだね?」


「親しいっていうか……お互いの親同士が友人関係にあったから、それでな。昔からよく一緒に遊んではいたよ」


 ウィルは片手をヒラヒラと振りながら説明する。


「いいじゃないの、そういうのさ。俺なんてコッチに同郷の人間はいないし寂しいもんだよ」


「ま、悪くはないけどな」


 しかし、イチイチ行動を咎められればウンザリもするもので、どうやってシュカの目を盗んで女の子に声を掛けようか悩んでいるらしい。

 そうして食堂の近くまで来た一行であったが、肝心の食堂は立ち入り禁止になっていた。まだ昨日の事件の現場調査を軍が行っているためである。


「ン、食堂はまだ閉鎖されているか。軍人さんもアチコチ見回りしているし、なんだか妙な緊張感があるよな」


「どうする、ウィル?」


「この学校にゃもう一つ食堂があるんだが、アッチは規模が小さくて味も微妙って話だ。となりゃ、商業区の方へ行くか」


「え、この学校には商売をする地区もあるの?」


「知らんのか? 学生が主体となって運営する店舗が集まるのが商業区でさ、例えばレストランとかカフェ、日用品とかを取り扱う店もあんの。この学校は街からも離れているから、そういうのもないと不便だろ?」


 ドワスガルの敷地内には、校舎や寮以外にも商業地区が存在しており、ウィルの言うように学生の手によって運営が行われている。

 そこには食事を行える店舗もあるようで、興味を持ったアルトはウィルの提案に頷いて当該の地区へ向かうことにするのであった。

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