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待ち構える敵意

 フェルローア達と合流したアルトは、まだソラクジラの内部に潜伏しているはずのヴァルフレアを探す。

 ヴァルフレアはこの古代で作られた飛行型魔法生物兵器を操って、ドワスガル魔法高等学校を破壊する気であるのは間違いなく、その彼を止めなければ想像もつかない程の被害が出てしまうのだ。


「急がないと手遅れになってしまう……だけど中は広くて手が回らないな……」


 ソラクジラは全長七百メートルを誇り、しかも体内は何層ものフロアに別れている。この生物兵器自体が軍事基地のような物で、そこから一人の人間を見つけ出すというのは簡単な事ではない。


「ダーリン、こうなったらヴァルフレアとかいうアホを仕留めるんじゃなくて、ソラクジラそのものを討つしかないよ」


「でも、これだけ大きい兵器を撃破するのは難しいよ?」


「体内に侵入しているんだから方法はあるよ。ソラクジラの脳ミソをブッ壊すんだよ。ハクジャを倒した時のようにね」


 魔法生物兵器も普通の動物と同様に、脳を搭載して高度な情報処理と生命維持を行っている。これによって人間の指示を理解し、作戦行動を可能とするのだ。

 しかも感情や意思さえも持っており、キシュのような独特な個性さえも有することがある。

 その脳を壊してしまえば人間や動物と同じく死に至るので、弱点として狙うにはベストな選択であった。


「乗っ取られているソラクジラには悪いが、やるしかないぞアルト君。今、ドワスガルの皆を助けられるのは、わたし達しかいないのだからな」


「はい…行きましょう」


 フェルローアの言葉に頷き、アルトは脳ユニットが内包されている頭部を目指していく。このソラクジラ自体に悪意があるわけではないので仕留めるのは可哀想に思えるが、迷っている時間は無い。多くの命を救うためには、時に冷酷な決断をしなければならない時もあるのだ。

 アルト達はボムクラゲの格納庫となっているフロアを抜け、ソラクジラ内部の前方部分へと移動しようとするが、


「またボムクラゲが…!」


 再び浮遊する魔法生物兵器の集団が現れた。アルト達が先程仕留めたのは、あくまで全体の一部でしかなく、他の階層や区画に残存しているようだ。


「アルト君、ここはわたしに任せてくれ。キミ達は目的を果たすんだ」


 この瞬間にもソラクジラはドワスガル目掛けて高速で侵攻しているわけで、時間的猶予はほとんど無い。

 となれば全員でボムクラゲの足止めを食らうのではなく、フェルローアは自分が囮となって敵の群れを相手にし、アルトにこの空母の暴走を止めてもらった方が良いと判断したのだ。


「分かりました。フェルローアさん、どうかご無事で!」


 そんなフェルローアの思考を読み取ったのか、アルトは強く頷き返す。

 格納庫から前方に向けて幅広な通路が伸びており、その金属製の床の上を警戒しながらも早足で駆けていった。


「キシュ、この先はどうなってるんだ?」


「格納庫のエリアを抜けると、作戦指揮所となっている大きな部屋があるはず。この空母は人が乗ることも想定されていて、一通りの軍事機材が搭載されてんのよ。まるで海上軍艦のブリッジのようにね。で、指揮所の更に奥に脳ミソとなるユニットが置かれているわけ」


 というキシュの説明を受けるアルトの前に、この通路の終着点となる大きな隔壁が立ち塞がる。防火シャッターのように降ろされていて、これを開ければ作戦指揮所に入れるようだ。


「アルトさん、もしかしたら壁の向こう側にもボムクラゲが待ち構えているかもしれませんわ。開けた直後、一斉に襲ってくるかもしれません」


「ですね。こうなったら破壊してしまいましょう。そうすれば、壁を開けている最中の無防備な状態を狙われずに済みますし」


 律儀に手で開ける必要はなく、アルトはリンザローテ達を下がらせながら右手を突き出す。

 そしてアイスランスを形成し、勢いのままに隔壁目掛けて投擲した。分厚い氷の槍が魔力を推進剤としてミサイルのように飛び、頑強そうな隔壁の中心部に直撃して貫通することに成功する。

 すると、リンザローテの懸念通り、隔壁のすぐ後ろにはボムクラゲが数体待ち構えていた。それらは爆弾を抱えており、アルト達が侵入してきたら投げつけてくる気だったのだろう。

 しかし、隔壁を貫通して屋内に飛び込んできたアイスランスによって一体が串刺しにされ、爆弾が衝撃で爆発。それに巻き込まれ、近くで一緒に待ち構えていた数体も爆散する。


「ヴァルフレアめ、こういう汚いやり方を……」


 アルトはバリアを展開しながら、損壊した隔壁を通って作戦指揮所なる区画へ入っていく。

 その室内形状は学校で言うところの体育館を連想させるが、備え付けられているのはバスケットゴールなどではなく、軍事用の通信機やレーダー装置であった。

 しかし、長年に渡って放置され整備を受けていないため、壊れていて使い物にはならない。ただのオブジェと化していた。


「アルト・シュナイド……オレを追ってきたのか」


「……ここに居たのか」


 指揮所の中心、そこには鋭い眼光でアルトを睨みつけるヴァルフレアが立っていた。ここに来たのは彼を追ってではないのだが、結果的にこうして倒すべき宿敵と再会を果たす事となったのだ。

 ヴァルフレアの周りにも十体近いボムクラゲが展開し、あたかも親衛隊のようである。


「ヴァルフレア、今すぐソラクジラを止めて降伏しろ!」


「なんでテメェの言う事に従わなきゃいけないんだ。オレはなァ、オレを認めないモノ全てを破壊すると決めたんだよ! その手始めが、ドワスガルなんだ!」


「貴様の身勝手のために学校を壊させはしない!」


 アルトは体内の残り魔力が少ないことを承知しながらも、ヴァルフレアを目の前にして飛び出さずにはいられなかった。

 地面を蹴って加速し、ヴァルフレア目掛けてフレイムバレットを放ちながら突っ込んでいく。


「テメェに二度と負けはしない! いけ、ボムクラゲ! ヤツを殺せ!」


 バリアで火炎弾を弾きつつ、ヴァルフレアはナイトから預かった魔石を掲げる。その魔石に籠められたシンクロ魔法でソラクジラの意識と同調し、ソラクジラの命令系統を自らがコントロールしてボムクラゲに迎撃を指示する。


「あの魔石で魔法生物兵器をコントロールしているのか…? であるのならば!」


 ヴァルフレアが左手で持つ、人間の頭部と同じ大きさの魔石に何か秘密があると看破したアルトは、ソレを奪うか壊すべくターゲティングする。


「キシュ、援護を頼む!」


「はいよ! でも、ダーリンの体は万全じゃないんだから無理し過ぎないで!」


 キシュとの合体解除から時間が経っていないうえ、重傷による失血のせいでアルトの肉体はボロボロであった。当の本人はアドレナリンの効果や使命感で感覚が鈍っているようだが、確実に内面にはダメージが蓄積している。


「今は無理をしてでもヤツを止めなければならないからな…!」


 そう呟きながらも、アルトはすれ違いざまにボムクラゲの二体を撃破し、近寄って来た個体に対してスプレッドウインドを放ち迎撃する。

 しかし、その動きには精彩さが欠けていた。魔力も消耗していて、身体強化のレベルすらも低下しているようだ。


「このままでは、アルトさんがもちませんわ……わたくしとてS級に覚醒したのですから、どうにか手助けをしなければ…!」


 もう見守るだけの存在ではいたくない。

 リンザローテは今自分に出来る最大の支援をするべく、魔力を総動員して魔法を行使する準備を整えるのであった。

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