一触即発の修羅場
二人きりの勉強会が終わり、アルトは寮の外までリンザローテを送るべく部屋を出る。一人で男子寮を歩かせるのは忍びないし、ギリギリまでリンザローテと一緒にいたいという下心もゼロではない。
「今日は本当にありがとうございました。次はいつお願いできます?」
生徒会長という役職にあるリンザローテは、一般生徒のアルトとは違って忙しいのだ。この大きな魔法学校の運営に大人に混じって携わっており、いつでも時間が空いているわけではないので予定を聞いておく必要がある。
「明日は生徒会の予定があるので……明後日ならば大丈夫だと思いますわ」
「じゃあ明後日にまた」
「ええ。でも学年が違うと校舎も別なので連絡が取りにくいですわね……そうですわ、アルトさんも生徒会に入るというのはいかがですか?」
「俺が生徒会にですか!?」
アルトは驚いたように素っ頓狂な声を出し、目を見開いて訊き返す。
というのも、生徒会とは優秀な学生によって構成されているのではと思っていたからだ。自分のような学校という組織に入りたての人間が所属していいのか疑問でしかない。
「そうすれば会う機会を増やせますし、予定も組みやすいですわよ」
「でも俺なんかで務まりますかね。迷惑になってしまうんじゃ…?」
「迷惑なんてことはありませんわ。わたくしがサポートしますし……いっそ、わたくしの補佐を務めて頂くこととしましょう」
これはリンザローテの私情が存分に含まれた提案である。生徒会に勧誘するまではよかったが、補佐にして自分の傍に置こうというのはやり過ぎだろう。
「わたくしの仕事をお手伝いしてもらうのですわ。その方がアルトさんも安心して取り組めるでしょう?」
「まあ確かに。けれど、小間使いとか雑用くらいしか出来ませんよ?」
「ふふ、新人さんに難しい仕事を押し付けたりはしませんし、仕事に関してはいずれ慣れてもらえれば大丈夫ですわよ。どうです、やってみますか?」
「はい、お誘いに乗ろうと思います」
アルトは頷き、生徒会に入ることを承諾する。将来の夢である故郷へ学校を建てるという目標にとって、これは有意義に働くだろうと考えてのことだ。
「では明日、またアルトさんの教室までお迎えに上がりますわ」
ニコやかに言うリンザローテは、内心ガッツポーズをキメていた。これで学年の違う彼女でもアルトと接する時間を増やせるし、現状で最大のライバルと勝手に認定しているエミリーに対抗するには最善の策なのだ。
そうして特待生寮のエントランスまで降りると、とある人物と鉢合わせしてアルトとリンザローテは足を止めた。
「…リンザローテ、なんでその男と一緒なんだ?」
二人にガンを飛ばすのはヴァルフレアだ。S級魔法士である彼もアルトと同じように特待生であり、この建物内に自室を構えているのである。
素行の悪いヴァルフレアでもS級というだけで特待生になれるのは、選定基準の欠陥ではないだろうかとアルトは思わざるを得ない。
「アナタには関係の無い事ではなくて?」
バツの悪さを感じるリンザローテは、視線を逸らしながらそう呟く。できれば出会いたくない相手だし、アルトと一緒にいるシーンでは特にである。
なんだか元カレと元カノの不幸な再会を見ているようで、アルトはいたたまれなくなって何を口にしようか逡巡していた。リンザローテの弁によると二人は交際関係や肉体関係があったわけではないらしいが、特殊な仲であったのは間違いないので、その事について意見するには両者について知らな過ぎるからだ。
「ふん、ソッチのS級に乗り換えたってのかい。尻の軽いオンナだな、オマエは。色気でたぶらかして、ソイツが将来名を上げた時のことを考えて唾を付けておこうって算段かよ」
だが、リンザローテへの悪口に対して怒るくらいの事は出来る。
冷めた目で見下すようにしているヴァルフレアに対し、アルトは一歩前に出た。
「それは違うよ。頭の悪い俺のために会長は勉強を教えてくれているだけだ。確かに色気はあったけど……というか、そもそも乗り換えられるような不誠実な行動をしたオマエが悪いんだろうが」
「なんだと…?」
「あのデュエルの後にも言ったことだ。オマエのために頑張ってくれた会長に不義理を働いたじゃないか。散々利用して捨てるような態度を示しておいて、よくも言えたものだな」
「テメェ…!」
こうも下級生に好き放題言われて頭に血が上ったヴァルフレアは、感情任せに魔法を繰り出そうとする。
アルトはその気配を察知して、バリアフルシールドを自らとリンザローテの周囲に展開した。これならば大抵の魔法には対応できる。
しかし、戦いとなる前にリンザローテがヴァルフレアを制止した。
「おやめなさい、ヴァルフレア。このようなカタチで魔法を行使するのは校則違反であると警告をさせて頂く」
「その新入生だってバリアを使っているようだが?」
「アナタから身を守るための緊急避難的処置であり、これは処罰対象とはなりません。生徒会長であるわたくしの判定ですわ」
「そうかよ」
他の生徒の目もあったことからヴァルフレアは魔力を引っ込めて臨戦態勢を解き、舌打ちをして自室を目指して去っていく。
「憶えておけよ、アルト・シュナイド。こうも俺をバカにしておいてタダで済むと思うな……」
寮から出ていくアルトとリンザローテを鋭い視線で睨みつつ、ヴァルフレアは懐に仕舞っていた手紙を取り出し、そこに記されていた文章を読みながら口角を上げていた。




