男爵令嬢はなおも欲しがる
幼い頃から、不思議とカナン様の持つ物は全て素敵に見えた。
お母様に、わたしには同い年の従姉妹がいるという話はよく聞いていた。わたしのお父様は男爵だけどその子は公爵をお父様に持つお嬢様。どうして身分が違うの?って聞いたけれど、お母様は悲しそうにわたしに謝るだけで理由は教えてくれなかった。
わたしが5歳になるかならないかの頃にその子が聖女の能力を手に入れたと聞いた。随分早い発現らしくて、王子様との婚約の話が来てるって話も。
「良いなあ……」
だからわたしもお願いした。お星様、神様、わたしも聖女になれますように。毎晩お祈りしたら、なんと次の年にわたしも聖女の力が使えるようになった!
お城に連れて行かれたわたしは、その日初めてディミアン王子とカナン様……カナンお姉ちゃまに会った。
目と目が合った瞬間、どうしてもわたしはお姉ちゃまの着けていたブローチが欲しくてたまらなくなった。何の変哲もないただのブローチ、色はピンクだったっけ?白だったっけ?覚えてないけど、とにかく素敵でたまらなかった。
ディミアン王子の事は正直よく覚えていない。当時の王子は乱暴者だったし、特に好きでもなかったと思う。
そこから私は聖女仲間としてお姉ちゃまに会うたびに、お姉ちゃまの持ち物が欲しくてたまらなかった。お姉ちゃまには似合わないピンクのドレス、おもちゃの小さなティアラ、デザートのアイスクリームも全部。
だって本能が感じるのだ、あれは本当は全部私のものになる筈だったんだって。
……だから、いつの間にかディミアン様の事も欲しくなっていた。
「ねえディミアン様、今日も妃教育を受けなくては駄目?わたし疲れちゃった」
「ああ私のアリサ、可哀想に……でも仕方がないんだ。君は今のままでも充分に素敵な淑女だが、城の者たちは満足していない。形だけでも受けてくれないか」
「でもぉ……」
王立魔導学院の卒業プロムでディミアン様はカナンお姉ちゃまとの婚約破棄をして、わたしを選んでくれた。男爵令嬢だったわたしは急に王太子の婚約者になった事で毎日王妃教育三昧。
つまんない!
どんなに王宮にいてももうカナンお姉ちゃまはいないし……何より、最後に見た婚約破棄をされた瞬間のお姉ちゃまの顔は、わたしの見たかった顔じゃなかった。わたしが見たかったのは、好きなものを取られた寂しい気持ちを一生懸命隠してる顔。あんなにすっきりした顔、全然楽しくない。
「……じゃあ、また何か貰っちゃえばいいのかも」
「アリサ?」
「何でもないわ!ねえディミアン様、わたし妃教育がんばっちゃう。早くディミアンに相応しいお妃様になりたいもの!……だからね、ご褒美が欲しいの」
「なんて立派なんだ!いいとも、何が欲しいんだ?愛するアリサのためなら何だって手に入れよう」
「リリスの地に住むメイドと執事が欲しいわ。名前は……リサと、ガスパール」
ねえお姉ちゃま、知らない土地で唯一知っている召使いが居なくなったらあなたはどんな顔をしてくれるのかしら。直接見る事は出来ないけれど、きっと素敵な顔なんでしょうね。楽しみ!