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ミニチュア大好き令嬢と楽しい苺摘み


「ルカ様こっちに来て頂戴!凄いわ、苺がこんなに沢山!」


「えへへ、新しく苗を植えたんです。これでジャムを作りましょうね」


 今日も今日とて私とルカ様は畑の作物を収穫していた。ルカ様の作った畑は魔法のようで、毎日違う作物が実る。昨日は葡萄があった場所に今日は苺が生い茂っていた。原理を聞こうかと思った事もあったけれど、なんだか聞けないまま今に至る。そもそもそんな事を気にする暇も無いくらい収穫に追われる日々だ。採れた野菜や果物は保存食に加工して村の数少ない住民に配り歩く。最初は不審に思っていた住民達もこの美味しい食材には心……いや胃袋を掴まれてしまったらしい。少しずつではあるけれど心を開いてくれている事が素直に嬉しくて、無粋な事は聞けていなかった。


「ねえルカ様、もし良ければ明日から収穫を村の人にも手伝ってもらわない?」


何の気なしに言った言葉に、ルカ様はぴたりと苺を摘む手を止めてしまった。


「……それは、駄目です」


「そう?その方が村の人の仕事も出来て良いと思うんだけど」


「……駄目です。もしそうなったら、この畑も…………」


暗い顔を横に振るルカ様に慌てて駆け寄った。


「ごめんなさい、畑の主人は貴女なんだから貴女が決める事だったわね。今の発言は忘れててちょうだい」


「……ごめんなさい、カナン様。まだ……他の人を入れるのは、待ってくれませんか」


「大丈夫よルカ様、貴女が嫌なら無理強いはしないわ。ね?」


 苺の入った籠を抱きしめたまま俯くルカ様は、その日はそれ以上一言も口を開こうとしなかった。


***


「無責任な事を言ってしまったわ……」


自室でエルマーの釣りズボンを作りながらため息をつく。キャラメル色の生地を縫い合わせていると、リサがお茶を持って部屋に入った。


「お嬢様、一息つかれては」


「ありがとリサ」


古いティーカップをテーブルに置くと、リサは微笑ましそうに笑う。


「どうしたの?」


「いえ……ここに来てから、お嬢様の作品も随分雰囲気が変わったと思いまして」


「……確かにそうかも」


 王都にいた頃は派手なドレスやタキシードばかり作っていたが、最近は畑仕事や森での聖女の仕事の方が身近だからかカントリー調の物ばかり作っている気がする。施す刺繍も野花や野菜をモチーフにする事が多くなった。


「素敵だと思うものが増えたのよ、きっと」


「それは素晴らしい事ですね。それに……」


「それに?」


「薄桃色と深い青色の作品が増えましたね!」



***


 王都で王太子の婚約者として暮らす幼い私にとって、深い青と薄桃色は苦しい色だった。

薄桃色は苦い思い出の色だ。初めてアリサに取られてしまったブローチの色。……そして、病気で亡くなった姉様の最後のプレゼントの色。

 青い色は、姉様の瞳の色だ。


『カナンの緑の瞳、わたくしは好きよ。それにね、妖精は緑色が大好きなの!きっとカナンと仲良しになってくれるわ』


『……でも私も青い目が良かった。だって青色の方が好きだもの』


『あら、それならなおさら緑の方がいいわ、ほらカナン、こっちへいらっしゃい』


私が青い瞳を羨ましがる度に、姉様がおでこを合わせてくれるのが好きだった。


『ほら、こうしていればわたくしは大好きな緑色の瞳を見られるしカナンは青い瞳が見られるわ』


『姉様の瞳、宝石みたい。サファイア色ね』


『カナンの瞳はエメラルドだわ……ねっ、瞳の色が入れ替わったらこんなこと出来ないでしょう?それともカナンは一日中鏡を見ているかしら?』


『姉様とおでこごっつんしてる方がいい!』


『わたくしもカナンとおでこごっつんの方が良いわ!』



「……姉様、わたくしの伴侶もサファイアの瞳なのよ。おでこをくっつけた事はないけれど……」


あのサファイアの瞳を悲しませてしまったのは、私の不用意な発言だ。


「もう一度謝らなきゃ。それで、また一緒に畑に行きましょうって誘うわ」


とっくに出来た釣りズボンをエルマーに履かせて部屋を出ようとすると、ドアノブに手を出すより先に扉が開いた。


「カナン様、緊急のご連絡です」


ノックもなしに扉を開けたのはルカ様の従者だった。


「王宮の……ディミアン殿下のご命令で、リサとガスパールに登城令が下されました」

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