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ミニチュア大好き令嬢は国境に防御壁を作る


 結論から言うと私はワンオペ聖女にはならなかった。


「カナン様、聖女のお仕事はいつからされますか?」


 姫妻という制度の上とはいえ、一応夫婦という事で私とルカ様は一緒に食事をとる。リサとガスパールが街で買ってきたパンと卵、それからルカ様の従者が用意したスープが最初の夕飯だ。今日初対面の相手と2人きりのテーブルでいささか緊張していた私とは反対に、ルカ様は臆する事なく話しかけてくれる。


「明日から始めるつもりです」


「あのっ、私も見学していいでしょうか?」


 人懐っこい笑顔につい食い気味で『勿論!!!!』と答えそうになるのを必死で抑えて優雅の微笑みを向けた。


「ええ、大歓迎ですわ」


「ありがとうございます!」


 美少女のぴかぴかの笑顔に目が焼けそうだ。人間こんなに濁りのない好意を向けられる事、人生に数回あるかないかじゃなかろうか。……こんなに可愛い子をよくもまあ王宮から追い出せたものだ。夕食のスープを口に運びながら必死にポーカーフェイスを保つ。


「私、サンドイッチを作って持っていきます!」


 可愛い。妹が出来たらこんな感じだろうか。……順当にいけば妹になるはずだったんだけどな。


「ルカ様ったら、ピクニックじゃないんですのよ」


「えへへ……」


 ……可愛い同行者がいても気は抜けない。たった1人で森全体の防御壁を作るプレッシャーに、浮き足立つ頭の隅で冷静な自分がため息をついていた。


***


 次の日、宣言通りサンドイッチの入ったバスケットを持ったルカ様と私は朝から森の奥へ向かった。私にはガスパールが、ルカ様にはルカ様の従者のメイドが付いている。

 森の奥にはわかりやすく境になっている場所がある。そこから一歩踏み出せば何かしらの害がありそうな澱んだ空気の前で、私は3人を止めた。


「ここですわね。……それでは皆様、下がっていて下さい」


 ここからは私1人の仕事だ。

 跪いて祈りを込めると、瘴気がこれ以上入ってこないための防御壁が少しずつ出来上がっていく。……予想より随分きつい。ミニチュアみたいな細々した作業とはまた違う神経を使うし、この森は1人で管理するには広すぎる。でもここで失敗したら、きっとディミアン達の思う壺だ。故意に国境の管理を放棄したと見なされてミニアチュール家が罰せられるだろう。それだけは駄目だ。

 じりじりと壁が迫り上がってくる。指先の体温が下がって、喉から朝食が出てきそうだ。昨日針で刺した手の甲が嫌にじくじくと痛んで気持ちが悪い。何より、どんどん息が苦しくなっていく。瘴気を浄化しながら壁を作っているのだから当たり前だけど、この作業はやっぱり辛い。

……浅い息を整えようとした瞬間、私の目を誰かが覆った。


「カナン様、休んで下さい」


「……ルカ様?」


「お父様達には隠せと言われましたが……貴女のそんな姿を見ているだけなんて、私にはできません」


***

目覚めるとそこは昨日荷物を解いたばかりの私の部屋で、ベッドの脇でリサが心配そうに覗き込んでいた。


「カナンお嬢様!しっ、しっ、心配したんですよおっ!カナンお嬢様が森で倒れたって、ガスパールが真っ青のお嬢様を連れてきて、私っ……」


「……心配かけてごめんなさい……待って、防御壁は!?」


「完成したところで倒れたそうです!もう、無茶しないで下さいっ!!」


 違う。だってあの時、私は途中で祈る事が出来なくなって、ルカ様に止められた。

(……ルカ様、本当は聖女の力が……?)

 必死であの時の事を思い出す。息を整えようとした時目を覆われて、ルカ様が私に何か話しかけていた。それから……指の間から見えたあの光景。祈っていないのに、防御壁が出来る瞬間を、私はこの目で見ていた。


「あの魔法陣は……」

 たった一度だけ見た事があるあれは、シルヴァー王国の男児が代々受け継ぐ魔法陣と酷似していた。

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